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素描画誌 第二号 ほどける手【新本】
¥1,100
このたび七月堂は、古井フラの詩画集「素描画誌」第二号「ほどける手」を刊行いたします。 ↓詳細はこちらnoteにて↓ https://note.com/shichigatsudo/n/n346f6dffa245 ↓「素描画誌」創刊号の詳細はこちら↓ https://note.com/shichigatsudo/n/nc1e2633ba9ca 創刊号「色のない花」お買い物はこちらから https://shichigatsud.buyshop.jp/items/97349523 「描くこと」や「空白」について、深く思索し実践した、画詩文一体の作品集。3ヶ月ごとに全10回の刊行を予定しております。 第2号のテーマは「ほどける手」。 本作は詩と素描画とエッセイで構成されています。 「わたし」というたった一つのものを握りしめて生きること、緩やかにほどき広がっていくこと。 ゆっくりとお楽しみいただけましたら幸いです。 手といえば、「素描画誌」は七月堂社内で印刷し、一冊一冊スタッフの手によって糸綴じ製本をしております。 ほどける・握りしめる、といった、手の動きのような心の往来は、生きる上でとても大切なことです。そしてわたしたちが特に心がけた方がよいのは、ゆるめてほどけることではないでしょうか。握りしめることは充分すぎるほど、幼いころからやってきたのですから。 ーーー素描画誌「ほどける手」より引用 著者┆古井フラ 絵・装幀・組版┆著者 印刷・製本・発行┆七月堂 A5判・糸綴じ 32ページ 価格 1,000円+税 発行 4月22日 発売 4月20日 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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放生会 / インカレポエトリ叢書31【新本】
¥990
緒方水花里詩集 はなの蜜すわせてください 【作品紹介】 おもいはかるくなかった 肉だ肉だと触って 袋を丸くならせ にくい詰まりにただ 手を加えないで まとめないで来ないで しまって 毎朝平に 棒にならして 129gのタンパク質 200gの野菜 71gの玄米 を腫らした 呑み込んだ 四角い箱の後で 動くいや蹲る憂く 止めないで マシュマロとチョコレート 足を引きたい からだ しただって したって涙が 満ちて のこしはあって だけどもうはいって 要らないって 凝っていた 本当だね。 笑えた そうそこに やっとはいって あいが やっと いて 著者 緒方水花里 発行所 七月堂 発行日 2025年4月10日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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Melody【新本】
¥2,750
不在のあなたの生が燦く一瞬、夏の雨のように詩は生まれる。 ――河津聖恵 朝妻誠は彷徨う人だ。 インドを彷徨い、地球を彷徨う。 いや、あの世も彷徨っているのかもしれない。 鳴り止まない孤独なメロディはこの詩集から旅立ってゆく。 Rainy 「レイニー!」とあなたは言った。雨が降り出したのだ と思う。昼間の強くて短い雨の時間が終ると、空に薄い 半円の虹が出て、僕たちはそれをしばらく眺めていた。 それから僕はあなたと何か冷たいものを買いに出かけた はずだ。太陽はまた元に戻っていて、僕たちは歩きなが ら汗をかいていた。夏の陽射しは強い。真夏は太陽の光 の加減で、木立の葉陰が洞窟のように見えてしまうこと がある。僕はその日、その洞窟の中で何かが見えたよう な気がした。そしてそのときなぜか僕は、あなたが僕と 同じものを見たのではないかと思ったのだ。あなたはこ の国に生まれた人ではないのに。 あなたに初めて会ったのはひどい風で朝から雪の降り 続く寒い冬の日だった。夜になると風は治まったけれど、 街は本当に真っ白になった。僕の街の小さな駅の待合室 にいたあなたは、誰かを探している様子だったのだが、 僕の顔を見るなり、「スノー!」と言ったのだ。僕は傘 を持っていたから、あなたを街の小さなホテルまで送っ て行った。湿った雪が僕の傘にひどく重く降り積った。 あなたからの手紙が届いたのは、春になって日差しが暖 かくなってきた日の午後だった。なんだか僕に何を伝え たいのかよくわからない手紙だった。それからしばらく して、あなたは突然僕の街に現れたのだ。 あなたと暮らしたのは何年間だったのだろうか。もう、 はっきり憶えていない。誰にも言わなかったけれど、僕 たちは僕たちにしか見えないものが見えたから、よく二 人でくすくす笑いながら囁き合ったりした。あの人、本 当は小さな女の子と暮らしていたんだよね、とか、本当 にどうでもいいようなことばかりを。僕たちはなんだか おかしな二人に見えたのかもしれないね。いや、僕たち のことなんて、この街の人たちはそんなに興味がなかっ たのかもしれないけれど。 あなたに一度だけ触れたことがある。あなたの白い服 を脱がすと、あなたの温かい乳房はとても柔らかくて、 僕はなんだか安心してしまった。そして熱くて濡れてい て、なんだか懐かしいやさしい性器だった。でも僕たち は性交なんて一度で飽きてしまって、二人でベッドの中 でふざけながら、昨日や一昨日の夢で見た場所や現実に 行った場所のことなど、長い時間をかけて語り合うこと の方が多かったのだ。 あれから何度も夏が来て、何度も秋が来て、季節は変 わり続けて、時間はどんどん経っていった。あなたから 来た手紙はテーブルの上に重なり続けた。最後の手紙に は写真が入っていた。まるであなたの心だけが身体から 抜け出して同封されて僕の街に届いたみたいだった。あ なたはベッドで微笑んでいた。髪の毛は白くなっていた。 僕はまたあなたのサラサラだった長い金色の髪を思い出 してしまう。 あなたのいなくなったこの部屋に、あなたの古い写真 がある。写真はただの切り取られた時間だ。何を話しか けてもあなたはずっと微笑んだままだから。夏の日、雨 が降りそうになると、今でもどこからか「レイニー!」 というあなたの声が聞こえるような気がする。とても会 いたいけれど、僕ももうこの国から出られない身体なの かもしれない。今日もあなたに届くかどうかもわからな い手紙を書き続けている。いま季節は秋だが、もう冬が 近づいているのだ。 著者 朝妻誠 帯文 河津聖恵 ブックデザイン 川島雄太郎/川島康太郎 発行所 七月堂 発行日 2025年2月28日 四六判 124ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ハルシネーション【新本】
¥1,980
草間小鳥子第3詩集 第75回H氏賞受賞!! 草間小鳥子は誰よりも世界に向き合っている。それがたとえ事後の幻影的現実(ハルシネーション)であろうと、その詩的変容を夢見てやまないのだ。 ――野村喜和夫 生成AIが普及し、ディープフェイクなどが日常に侵入してきたことで、虚構が現実のように現実が虚構のように現れる世界を見つめようとする41篇の詩を収録。 ※ハルシネーション(hallucination) ・幻覚、幻影。 ・AI(人工知能)が誤った情報を生成する現象のこと。 【作品紹介】 みちゆき ほんとうに暗いときにしか 光らない雪が 道行きを仄青く照らしている 光るのはうつくしいからではない 踏み越えられなかった弱さやずるさ すべての塵が ほかの光を さめざめと照り返すから 敷き詰められた雪のうえに 固く目を閉じ汚れた昨日が 道標のように発光している 著者 草間小鳥子 発行 七月堂 ブックデザイン 川島康太郎+川島雄太郎 発行日 2024年10月25日 四六判 168ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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花下一睡【新本】
¥2,750
SOLD OUT
秋山基夫詩集 第43回現代詩人賞受賞!! 〈 詩 〉の始原へ 終わらない夢幻劇 【作品紹介】 はぎ 先ごろ思いもかけぬ幸いにて宮城野に参りました あわわあわわと萩を分け露に濡れつつ歩みました 歩めども歩めども萩の花萩の露萩の花萩の露です 薄闇にしゃがむと西行法師の歌が聞こえてきます あはれ いかに 草葉の露のこぼるらむ 秋風立ちぬ宮城野の原 するとほんとうに風が吹いてきましたいちめんに むすうの露がむすうの萩の花からこぼれています あわわあわわと花を分け露に濡れつつ歩みました 月が昇りました銀の世界で馬鹿になってしまった 美しいお方のしゃれこうべがいまも転がっていて 萩の露を舌のない口をあけてのんでいるでしょう むかし郊外に 住んでいた頃 休日の夕方には 妻とよく散歩に出た 道ばたに萩を見つけ これが萩だと教え 顔を近づけ うす紫の小さな花を 暗くなるまで見ていた 何十年も過ぎてしまった病み衰え何もかも失って 白い壁の部屋で白い天井をただぼんやり見ている 著者 秋山基夫 発行所 七月堂 発行日 2024年4月1日 A5判変形 112ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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【4/26 開催】ことばあつめの夜(西尾勝彦コラボ回)オンライン参加キット・今夜の一冊付
¥5,560
SOLD OUT
【ご注意ください】 いつもご利用いただきありがとうございます。 こちらの商品は、2025年4月26日(土)19:30~21:30のことばあつめの夜のご予約ページです。 インスタライブ配信を通して、オンラインでご参加いただく方のためのご予約となります。 【現地参加の方はコチラより】 https://shichigatsud.buyshop.jp/items/100160513 「ことばあつめの夜」を、実際に店舗に来られない方にも参加していただけるようにキットを販売しております。 ことばあつめの夜は、閉店後の七月堂古書部のあかりを消して、ランタンを持ってお過ごしいただくイベントです。 店内は「ことばポスト」と投稿用紙があるので、そこにその日生まれたことばを書いていただきます。 詳細は以下のリンクよりご確認ください。 イメージビデオ https://www.youtube.com/watch?v=onB_PohF9vk 【参加方法】 ①七月堂古書部ECサイトにて、キットをご購入ください。 今回の「今夜の一冊」は七月堂刊行の西尾勝彦 詩集『あわいのひと』です。 お送りする内容は以下になります。 ・投稿用紙 ・西尾勝彦 詩集『あわいのひと』1冊 ・その日の夜に集まった言葉をまとめた一冊の本(こちらのみイベント終了後約1~2か月後の発送) ② 当日は部屋の照明を消してお過ごしいただきます。お手元を照らすくらいの灯りをご用意ください。 ③ 当日の時間になりましたら、ちいさな灯りをご用意いただき、七月堂古書部のインスタライブをご覧ください(19:30~21:30)一緒にことばあつめの夜を過ごしましょう。 ④ キットの中の投稿用紙にその時心に浮かんだ言葉をお書きください。エッセイ、日記、詩、短歌、俳句、形式は問いません。 ⑤ 記入済みの投稿用紙の写真を撮って、「kotobaatumenoyoru★gmail.com」まで、タイトルに「ことばあつめの夜」とお書きの上、翌日中までにお送りください。(★を@に変えてください) 【商品内訳】 キットと参加費 800円 その日の夜に集まった言葉をまとめた一冊の本(こちらのみイベント終了後約1~2か月後の発送) 3,000円 西尾勝彦 詩集『あわいのひと』1,760円 一か月~二か月後に、紙とゆびさきさんが一冊ずつ丁寧に製本された、その日の夜にあつまったことばが詰まった本が届きます。 楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。
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紀州・熊野詩集【古本】
¥2,400
【状態】 カバー帯付 カバー:上部剥がれ有 著者 吉増剛造、倉田昌紀 発行所 七月堂 発行日 2006年6月19日 A5判 196ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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エレゲイア【新本】
¥1,760
<詩――ポエジー>とは 常に誰からも必要とされぬ その存在そのものをも永遠に黙殺され続けて来た者たち/その言の葉の片々よりも とうの昔に潰え 霧散してゆく定めの者たちよ/しかし言葉(イマージュ)の迷路の中に 一瞬たりとも囚われ惑溺しえたことの/この悦びを 恍惚を/誰が汝らより よりよく知り抜いているというのだろう?/もし<無心(イノセンス)>という夢が<不死(イモータル)>という夢と同じ位リアルな重量を持つのであるのなら/詩人たちほど太陽の黒点を炎やす 究極の謎(エニグマ)を手にしている呪術師もないであろう(「詩人たち」より抜粋) 神官の身ぶりで、語という鉱石を掘り起こし、妻合わせ、舞わせる。 太古の洞から、現代へとつぎつぎに放たれる疑問符の矢。 暗い既知の地平を超えると、明澄な黄泉が立ち上がるのだ。 聞くがよい、血の速さで語る、詩人の連綿を。 寄せては返す、否定と疑問の鬩ぎ合う、潮騒の高鳴りを。 慟哭、自矜、そして遊戯。 この詩人は、逝くことの非情を哀歌(エレゲイア)にうたい上げながら、 実は<詩(ポエジー)>の何たるかを問い続けているのだ。――村松定史 著者 佐々木洋 発行所 七月堂 発行日 2014年8月30日 A5判 92ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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猫式Nyanical / インカレポエトリ叢書30【新本】
¥990
成田凜詩集 わたしがさぁ ほねになっちゃったら どうする? たすけてくれる? 【作品紹介】 Vertical:月への信心 時刻は朝四時四四分、昨夜の気怠さが透明になっていくことだけがわかって います。呆れるほど傾いてしまった形骸のまま、それでもまっすぐに歩きつ づけていられるのは、この心酔のせいだと、誓わせてください。誰のことも 信じていないわけではないのだと。誓わせてください、忽然冷たくなった指 先に、祈らせてください、 蟹みたいにね いなくなるなら赤く光って 先にいって 星(ほし)ほしかった 最も不幸な妄想のために眠り続けることはないのだと 終(つい)えるときには見(め)されるだろうと 再び時刻は朝四時四四分、右目の痛みは水たまりの泥のような濁り具合で、 頭から胸にかけて皮膚のうちがわが散散(ばらばら)になっていくさまはみじめ、本当に みじめでした。忘れていただけのことを勘違いと呼んでいた、好きだという だけのことに終に気がつけなかった、思いなせば、祈れば、よい、と、止め られなかった、のが、みじめ。みじめでした。 樹海の中に海があればよかった よかったってなに 海なんか見たことない でもさざ波にそよがれてみせた やさしさ は青かった 舟を出す、時刻は朝四時四四分。白い砂に沈んでしまいそうなほどゆっくり と歩いてみせました。ゆっくり、ゆっくりと、透明になるための練習をして おくのです。ういてしまうための焼却のレッスンを今のうちにしておきたい のです。みな、舟になるのだから。 時刻はわかりませんでした。目覚めてからずっと水平でいることができず、 くるくると回る、天使みたいに羽(はね)る、白くなる、くるくると回る、はねる、 もっと白くなる、くるくると回る、はねる、はねる、羽る、羽、羽、羽、羽、 羽て白く そして、青っぽい惑星(ほし)にからだは溶(と)られ かわりに 祈ることはできなくなった 真っ黒な まっくろな宇宙に 月が燃えていた 銀色に燃えていた 佐々波美月「きみには歩きにくい星」、梶井基次郎「Kの昇天――或はKの溺死」に寄せて 著者 成田凜 発行所 七月堂 発行日 2025年1月30日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あわいのひと【新本】
¥1,760
この星では ときどき なつかしい風が 吹いていますね 『あわいのひと』より …………………… 前作『場末にて』から1年と少しが経ちました。 この冬、西尾勝彦さんの詩集を刊行いたします。 『あわいのひと』というタイトルのこの詩集は、一篇の詩としても、物語としても楽しんでいただける一冊となりました。 日ごろの緊張から解き放たれて、ホッと息をつき、力をぬいて安心できる場所。 それは、この世界のほんの少しだけずれた隣りの部屋にあるのかもしれません。 いえ、本当は、この世界にあるのかもしれません。 穏やかであたたかいものをひとつでも多く。 そんな願いをこめてお届けいたします。 いずれ わたしは いなくなるのです このうつくしい世界から きえさってしまうのです その前にできることは あたたかいものたちを こしらえることなのです 『あわいのひと』より 著者 西尾勝彦 発行所 七月堂 発行日 2025年1月23日 145mm×140mm 84ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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素描画誌 創刊号 色のない花【新本】
¥1,100
このたび七月堂より、古井フラ画詩文『素描画誌』を刊行することとなりました。 年4回、全10回の発行を予定しております。 記念すべき創刊号は、「色のない花」。 詩と散文と素描画から構成される本誌は、七月堂社内でオンデマンド機にて印刷をし、製本もスタッフにて行っています。 毎号100部の限定発行の予定ですが、創刊号は200部の発行となります。 『素描画誌』は、2020年1月に、古井フラさんが自主制作されたものが始まりとなります。 その時は、一冊で完結している雑誌でしたが、内容は同じように、詩と散文と素描で構成されていました。 コロナ禍にそれを手にし、クロッキーが訓練や習作上、修正や消すことのできないという意味において、「消すことができないということは、失敗は残り、失敗は許されている。そこでは成功も失敗も、行為においては等価である」という一文に強く心を射抜かれました。 古井さんの定義するところの「素描」には、主に線描、単色で表した絵の他に、「対象を観察した写生」「線描を主とした描画」「画材は紙と鉛筆、コンテ等」「無彩色」「基本的に決して描き直しをしない」「短時間の描画」(1~10分程度)というものがあって、古井さんの散文を読み進めると、「短時間の描画」という刹那的な瞬間に惹かれていく自分の視線に気がつきます。 時間で測れる瞬間というのは、本当はどれも、立ち上がってはすぐ過去になってしまう「点」のひとつ。 その点を、1秒とみるのか、1分とするのか、10分とするのか。 それによって出現する「瞬間の景色」は、陰影も輪郭も変わってくるのだろうと思います。 ただどの瞬間も、限られているという決まりのなかではすぐに消えてしまうものであり、それを切り取った描画は、すでに過去にあったものである、という事実とともに、しかし、今も生き生きと目の前にあり続けることの存在感と不思議さと哀しみ。 古井さんの意識のなかには、過去、現在、未来、と絶え間なく流れる時間という大きな川が流れていて、たった今、五感で感じとどめられるものを素描画にしている。 そう思ってフラさんの絵を見ると、今日という一日がどれだけ大事であるか。成功も、失敗も、大きな川の流れのなかでは小石くらいのことでしかないかもしれず、よくも悪くも手元に留めておくことはできないのだろうなと思うのです。 そんな風に形にして留めてはおけないからこそ、流れていくなかにおいてもなお、心に残るものたちと少しでも多く触れ、大事にして暮らしていきたい。 古井さんの素描画を見るにつれ、「一瞬」という目には見えない時間の流れを可視化してくれているように思い、あなたはなにを信じたいの?という問いが立ち上がってくるように感じます。 うまく答えられる日もあれば、ない日もあって、それらすべてが愛おしい瞬間だと思えるような。 描くことは、その名を消していくこと ある花を描くことで、その花の固有名詞を消していく この世の形をうつすこと それはつくるというより とどめること そしてとどめることには 一抹の哀しみがある 素描画誌「色のない花」より 著者 古井フラ 発行所 七月堂 発行日 2025年1月22日 A5判 28ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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赤い河を 渡る【新本】
¥2,200
絶望を飛べ 『赤い河を 渡る』は前章「赤い河」と繋ぎの2編、後章「都市の水」からなる。 「赤い河」とはまさに体をめぐるエネルギーの象徴である。 「決心は続くか 窓を開けて明日を見る」その熱が駆け巡る。 「都市の水」とは関中子を取り巻く世界の潮流である。 「ものを考えるのは水の中の唇と一緒にいるようなものだ」と。 そしてその時は戻ってくることは無いと言う。 時の流れな中で言葉は紡がれてゆく。 【作品紹介】 飾る記念樹 夜との関係を変える 初めて見る 初めて知る 初めて体験する 伐採木 移植樹 表土が顕われ風に舞い 休息は人が自在に仕切る空間にある ここに駅前広場 新しい住みか 五本の若い樹 剪定樹 高鳴る振動 震える腕を伸ばす 現れた若い胸 いきなり花を押し出す 葉を帽子のように頂き 何をやり残したのか 何を省略したのか 古く太い見事な幹そして華麗な色と香り 将来を贈る だれに 山中の切通しを渡る橋を見に行って十年余を越え 君はどうしている 都市は走りだす 赤い灯を吐いて 未来 嵐を先物爆買いする 五月のある午後 昨日と別れる 記念写真をとる 笑い 涙 記憶を埋葬する指先 きらきら旧の住みかの入り口に立って陽炎揺れる 早き淵の川 渡り初めの橋に知り人の文字 答えられるか 君は 答えを準備できていただろうか 黄蝶 都市の触角 何本が定型かな いち早く連なって交叉路の信号へ さて 家々に紙面を回覧する 古いと言われる人手で 離れ若葉 雨の後で 人が森を梳いた 雨粒が森をぱらぱらこした 陽のわだちがガラス橋を屈折し 離れ若葉は建設途中を通る 為すべきことに行きつかない水に問いを添えると 雨は止む 葉脈は受けて浮き名立つ 仕上げの風は離れる葉を空高く掬い 思いのつづりを起こし 昨日の空白を縮める 陽に狩られる獲物よ ひかりに報われるようなことをしたか 報いを受けると不安がるよりも 報われるようなことをしたか うつりぎなとりわけうつりぎなきょうのわたし 街路に飛び立つ ついておいで ついてこられるよ 遅すぎるくらいだ 離れ若葉は建設途中を通る どこに芽生えよう 不安など 陽のささめきに心地良く雨が葉から落ちる 傷は癒えるさ 太陽がうわの空で通過する 間には空があるから太陽の疲れは取れるよ 雨は洗ったがその後を ついていけない 早くて 優しすぎるの 著者 関中子 発行所 七月堂 発行日 2025年1月20日 四六判 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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サイボーグ の夜【新本】
¥3,300
此処へ来い 早く 今日からあなたと共にいる 日常や福祉や戦争を直接の題材にしていても 技巧の意匠をことさらにまとうことなく 屈託も衒いもない打算もない本詩集の素朴な佇まいこそ 物事の核心を遠巻きにしている傍観者を無心に打つことになる それは詩人の奥深くに澄んだ怒りの一滴を蓄えているからであろう 柴崎 聰 「あゆむ」の哲学 「あゆむ」の体育祭があって 妻のスマホに彼の百メー トル競走の映像が送られて来た 四人でスタートライン に立ち 合図とともに一斉に走り出す 疾走する子ども たちから遅れて 腕でバランスを取りながら歩くよりは 急いで と言った方が的確かも知れない だが彼は走っ ているのだ 三人がゴールした後も必死で走る 長男の嫁さんの が んばれ の声がスマホから聞える 観衆のざわめきと拍 手が聞えてくる 彼にとって 勝つ ことではなく 今 は彼なりに一生懸命走り切ること ようやく彼のために用意されたゴールテープをきる 上 級生から着番が書かれた紙きれを渡され それを誇らし げに掲げてクラスメートの所に行き たくさんのハイタ ッチをしている もう分っているはずだ 自分とクラスメートの違い 結 果が分かり切った競走だから 不参加という選択肢もあ ったはずだ だが彼はそれに挑むというより参加した 彼にとって着番が書かれた紙切れの数字に意味はない 紙切れはそこに居て ともに 楽しんだという証し そ れが「あゆむ」の哲学なのだ 帰宅した彼は 見たよがんばったね という妻の言葉に 少し照れる 照れることを知っている十歳の男なのだ それにしても 「あゆむ」の哲学 が理解できれば 世 の中はもう少し住みやすくなるのだが ベトザタ異聞 世話になり信頼している者を その能力を妬んで裏切り 陥れようとする誘惑は私の中にあり 裏切りを正当化で きないがために 孤独となり赦しの場を求めるのだ エルサレムにベトザタという池があり その水が動くと き いち早くその水に入った者の病が治るという言い伝 えがあった 三十八年そこに横たわる男は 良くなりた いかと問われて 良くなりたい とは答えず 主よ誰も 私を助ける者がいないのです と言った 男は知っていた 病が良くなるということはこれまでの 暮らしを改めること だが三十八年そこに居たのは 男 が 惑わすものへの未練を断ち切れないということ 良 くなりたいという希望を持ちながらも 復帰したコミュ ニティーで良い状態を持続する自信がなかったのだ あなたの罪は許された とは告げられず 起き上がり床 を担いで歩けとだけ言われその通りにしたが 感謝の言 葉はなかった その後神殿で出会ったとき 良くなった のだからもう罪を犯かすな と諭されイエスだと確信 安息日に俺を癒し律法を犯したのはあの人だと密告した それから暫くしてユダが 主よ と呼び神と信じながら も裏切ったことで 磔刑により刑死したことを知る ユ ダはそのとき何と思ったか 心の片隅で 主は追っ手を すり抜けることなく捕縛されたことを 男は思う ユダは裏切りで銀貨三十枚を得たが 俺の得 たものは何か ベトザタに戻らなければならないほどの 病になったわけではない 人の罪を背負い死んだのだか ら 俺の裏切りの罪は赦されたか エルサレムの 新た にできたコミュニティーを羨望し その回りを徘徊しな がら密告の虚しさを感じることが 唯一の救いなのだ (参考 ヨハネによる福音書 五章) 著者 井上英明 発行所 七月堂 発行日 2024年12月20日 A5判 112ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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Kaewの香り【新本】
¥2,200
それにしてもボクらの時代 わたしという存在が受け止めているこの「時」この「場」を、言葉という最も基本的な表現方法で、記録しているつもりでした。非常に短いかたちでの物語を、言葉そのもので直接届けられる情というよりも、映像に翻訳され、語らせるようなものを求めてきました。たとえ、それが「詩」ではなく、「描写」に過ぎなかったとしても。なるべく世代を超えてひとの心に届きやすい表現、そして外国語にも移しやすい表現、短く完結する映像・画像を介したようなものを求めて。 (あとがきより) 【作品紹介】 それにしてもボクらの時代 下りエスカレーターは遅くも速くもない ゴトン ゴトンと大きな歯車を回す 人の意思とは関わりなく動く下り階段の 無数につながれた踏板の上で キミは何を見ているのだろう パーキンソン病が進行する前にと 早々とプラスチックに入れ替えた水晶体で きっとキミは何も見ていないに違いない それにしてもボクらの時代 戦の場を戦争から経済競争に乗り換えた この地に禄を喰んでいて ボクたちは肌に血を流すことこそなかったが お互いに比較され二十四時間寝食忘れて励めと鼓舞されて 心には満杯の傷を貯え続けた ボクらは縦の評価の中に放り出された 成績も、職業も、幸も不幸も、 ボクらの心には序列がすぐ育つ 配列を探るために周りの顔色をうかがい お互いの位置を確かめて 取るべき姿勢を決めたりする 功名心がおもむろに鎌首をもたげてくる 優秀な兄や姉たちに囲まれて育ったキミは 親の関心を兄姉に奪われ いつも親の視線に飢えていた いつも人の承認を求めて息を殺していた キミの心はいつも大声で泣き叫んでいた やがて 賞賛を期待して大いなる犠牲にまで手を染めた キミは エスカレーターの上からキョロッと 「世間」を見下ろして 誰にも見られていなかったことに はじめて気がついたのかも知れない まったく 戦士には男も女もなかったのだし 著者 志田道子 発行所 七月堂 発行日 2024年12月25日 四六判 108ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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星のゆらぎに火を焚べて【新本】
¥2,050
星野灯 詩集 詩の中の「私」が、書いている「私」より少し先を歩いている。 未知な自分を詩のなかの「私」が生きようとする時、言葉の星はゆらぎ、詩は透明な比喩の秘密を語りはじめる。 ――時里二郎 星野灯さんはこれまで私家版の詩集を発行するほか、展示会や朗読会などを開催し活躍されてきた詩人です。 これまで発表されてきた作品を中心に、書き下ろしをふくめた詩集を発行することとなりました。 等身大の自分で生きて、言葉を紡いでいくということ。 だからこそ光るものがあるということをそっと教えてくれるような詩集です。 【作品紹介】 手に 宇宙の端っこにいる 海に浮かんでいて 何も掴めないまま ただ一人、夜を揺蕩う シーツの抱擁の中、頬は濡れ 言葉をまた費やす、延命のため 粗大な心なら少しの悩みも 篩にかけず流せたのでしょうか 時は泡沫、 星を美しいと賛美する者が なぜ死なねばならないのか 未だわからないままでいる 命であるということ そこに在って ここに亡い ただそれだけのことに 深い傷を手にして そのほかの何もかもを 持てないままでいる 【著者プロフィール】 星野灯(ほしの・ともる) 2001年10月生まれ、兵庫県出身 2021年神戸新聞文芸年間大賞受賞 詩の個展「街に詩があればいいのに。」(2023年) 「ポエトリーゴーランド」(2024年) 詩の朗読会「冬眠し損なった私たち」(2024年) 著者 星野灯 装画・挿絵 星野灯 帯文 時里二郎 組版・装幀 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行 11月29日 発売 12月2日頃 四六版・並製・カバー帯付 152ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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一本足の少女【新本】
¥2,750
それゆけ、ポエム。/それゆけ、ポエム。(鈴木志郎康) 仕事が終わって空を見たら星が光っていた。 自分の現在位置がわからない。 いつもそうだ。 けれど今日の私は、いま自分が帰るべき場所がどこなのかをはっきりと自覚している。 それがどれだけ幸せなことなのかも。 あちこちから夕飯の支度をする音が聴こえる。 一日の終わり。 ――2023年2月26日 X(旧Twitter) 村岡由梨 【作品紹介】 少女達のエスケーピング ある夏の日、娘の眠は、 いつも通り学校へ行くために 新宿行きの電車に乗ろうとして、やめた。 そして何を思ったのか、 新宿とは反対方向の車両に、ひらり と飛び乗って、多摩川まで行ったと言う。 私は、黒くて長い髪をなびかせて 多摩川沿いを歩く眠の姿を思い浮かべた。 そして、彼女が歩く度に立ち上る草いきれを想像して、 額が汗ばむのを感じた。 それから暫くして、今度は次女の花が、 塾へ行かずに、ひらりと電車に飛び乗って、 家から遠く離れた寒川神社へ行ったと言う。 夕暮れ時の寂れた駅前の歩道橋と、 自転車置き場と、 ひまわりが真っ直ぐに咲く光景を、 スマホで撮って、送ってくれた。 五時を知らせるチグハグな金属音が 誰もいない広場で鳴り響いていた。 矩形に切り取られた、花の孤独だ。 日常から、軽やかに逸脱する。 きれいだから孤独を撮り、 書きとめたい言葉があるから詩を書く。 そんな風に少女時代を生きられたのだったら、 どんなに気持ちが清々しただろう。 けれど私は、歳を取り過ぎた。 汗ばんだ額の生え際に 白髪が目立つようになってきた。 夏の終わり、家族で花火をした。 最後の線香花火が燃え尽きるのを見て、 眠がまだ幼かった頃、 パチパチと燃えている線香花火の先っぽを 手掴みしたことを思い出した。 「あまりにも火がきれいだったから、触りたくなったのかな?」 と野々歩さんが言った。 きれいだから、火を掴む。 けれど、今の私たちは、 火が熱いことを知っている。 触るのをためらい、 火傷をしない代わりに、私たちは 美しいものを手掴みする自由を失ったのか。 いや、違う。 私はこの夏、 少女達の眼の奥の奥の方に、 決して消えることのない 美しい炎が燃えているのを見た。 誰からの許可も求めない。 自分たちの意志で 日常のグチャグチャから ひらりとエスケープする。 そんな風に生きられたら そんな風に生きられたのなら、 たとえ少女時代をとうに生き過ぎたとしても 私は。 著者 村岡由梨 発行所 七月堂 発行日 2024年11月25日 四六判 184ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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プリンは置いといて【新本】
¥1,650
私の仕事は花びらです//朝から晩まで花びらです 詩集『プリンは置いといて』を読むことによって、われわれは「首か ら上を空にして美しいを入れ込む」(「ワンピースの空」)ことができる ようになる。われわれは「八百二十年ものの雨」(「建仁寺の雨」)に降 られることができるようになる。 詩を読むことはなんと楽しいことだろう。そしてこれは、なんと稀有 な才能によって生みだされた、なんと香ばしく甘い詩集だろう。 松下育男 【作品紹介】 アイロンとアマゾン 小林さんに迷いは無い ならぬものはならぬと言い切って 速やかに気に入らぬ場所から立ち去る人だ たくさんのマスクをくれた お礼にトイレットペーパーを贈った 役に立っただろうか 小林さんはとってもいいひとなのに いつも小さなブラックホールを持ち歩いているから ともだちになることを躊躇してしまう それでも小林さんがくれたお菓子を遠慮なく平らげた 迷いのない味だった 小林さんには迷いが無いから 次の仕事が決まらぬうちに会社をやめてしまった 小林さんはアイロンを持っていない アイロンがけはしない主義だ 迷いがないから服の皺にも迷いがなくて とてもしわくちゃ 水分を含んだポロシャツにアイロンをかける時 じゅっと音がして湯気が立ち昇る 湯気の中から小林さんが現れて まだ仕事を探している途中なのだと言う 早く間をあけずに働かなくちゃと話していたのに まだまだまだまだ仕事を探している アイロンをじゅっと押し当てる度に 小林さんは湯気の中に分け入ってゆく アマゾンの森の奥へ奥へと仕事を探しに 文字を持たない部族の中へ 迷いを持たない集落の中へ 耳を塞ぎながら 目を覆いながら 森の奥へと 仕事を探しに 私にできることはアイロンをかけてあげることだけ じゅっ。 鳥 鳥が祖母をくわえて連れ去ってしまったので それきり祖母に会うことができない 時々庭にやって来る鳥の脚をひっつかんでみると するする鳥の体がほつれだし どんどんほどけてゆく 鳥は ただの 長い糸 その束の中に 祖母のかけらは 見つからなかった 著者 竹井紫乙 発行所 七月堂 発行日 2024年11月21日 四六判 82ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ふたば(サイン本あり)【新本】
¥1,980
道山れいん詩集 ”今やらないと… 時だけがすぎていってしまうんです” そう言われて参加を決めたアートプロジェクト。そして行った町は … だれかのふるさと、 かえれないふるさと、 かえろうとするふるさと。 これはみんなにとっての「ふるさと」の話。 ─── 道山れいん あるとき、道山れいんさんにとある依頼が舞い込みました。それは、福島県双葉町への関心を集めるための「メッセンジャーインレジデンス」に参加してほしいというものでした。 双葉町の未来を切り拓くをテーマに活動しているヒラクフタバによって企画されたもので、アーティストや写真家、編集者など、さまざまな立場にある人たちが実際に双葉町に3日間滞在をして、そこで感じ取ったものを作品などにして残し伝えていくという企画です。 道山さんはそれまでほとんど双葉町のことを知らず、ある意味部外者ともいえる自分が立ち入ってもよいものかと逡巡しました。それでも、と悩んでいた時にかけられた言葉で双葉町への訪問を決意します。 それが冒頭にある道山さんのことばです。 このたび刊行する詩集『ふたば』は、そのような過程で、道山さんが東京から車を走らせ辿り着いた双葉町へ何日か滞在し、そこで出会った人や風景と接してうまれた詩集です。 忘れてはイケナイ、そう紡がれる言葉は沢山見てきたけれど、ここにある言葉は軽やかにけれどずっしりと確かな重さを持って腑に落ちてくる。 思い出す、ふるさとの事。 思い出す、自分ではない人の事。 ――帯文:吉岡里帆(俳優) 【作品紹介】 へんなはなし だれもしらないなんて へんなはなしだ だれもくちにしないなんて へんなはなしだ だれもおぼえてないなんて へんなはなしだし へんなのはじぶんなのかとおもってくる だけどへんなはなしだ それにしてもへんなはなしだ へんなはなしをつづけよう へんだとわかるひがくるまで くるとねがって へんなはなしをしつづけよう へんじゃなくなるそのひまで 【著者プロフィール】 道山れいん Michiyama Rain 東京大学文学部国文学科卒。詩人。 2019年 フィンランド・ラハティ詩祭映像詩部門で日本人初の優秀賞。 2022年 朗読詩の大会「Kotoba Slam Japan」全国優勝。 2023年 国際ポエトリースラム大会・パリPSW(20ヵ国)とリオWPSC(40ヵ国)に日本代表として出場、リオデジャネイロでは日本人初の準決勝進出。 2024 年 台北市での国際ポエトリースラム準優勝。 詩集「水あそび」「水の記憶」「しあわせでいいじゃない」 Instagram @michiyamarain X @michiyama 著者 道山れいん 帯文 吉岡里帆 装幀・組版 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行日 11月30日 発売 12月1日(文学フリマ東京39にて初売り) 117mm×188mm・並製・小口折り・帯付 216ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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そは、ははそはの【新本】
¥2,970
ある朝、ウサギの目をして母は 親が老いることを若い時は想像もしない。 その時を感じた親子は旅に出る。 珍道中とも鬱道中とも言える時を共有する。 あらゆる状況を未来へ向ける薦田愛の詩力に乾杯を。 【作品紹介】 ふとん、あの家の 予讃線上り列車の進行方向左手は海 海に向かっている 波のかたちはみえないけれど 台風がちなこの季節にも雨は多くない あかるい空に覗きこまれ 今治から川之江へ 父のねむる一族の墓所へゆく 普通列車の一時間はアナウンスも控えめだから うとうとしていたら乗り過ごしてしまいそう どうしよううたた寝には自信がある 乗り越して戻っていたら日が傾く JR四国はそんな時刻表 バブルなんて時代の少し前 たぶん 母を残してひとり川之江へ 夏休みだったろうか 父と三人暮らした社宅を引き払った後だったか 電話すると母の口がおもい どうしたの はじめてパパが夢に出てきてくれたのだけど 出てきてくれたのよかったじゃない それがね うん 日曜の夕方かな野球か何かテレビをみてて ああそんなだったね 私は台所にいるんだけど呼ばれて振り向いたら うん台所でね 振り向いたらパパの顔はみえるんだけど 身体の下のほうから薄くなって みえなくなっていくのよ え、なに? だからねいやだっ消えちゃ! って 自分の声で目が覚めちゃった そう そうだったのきっと きっとパパは夢に出てきたのに 私が四国に来ているとわかって あわててこっちへ来ようとしたのかもしれない 身体はひとつなのに気持ちが ふたつに裂かれて うーんそうねぇあんたがそっちにいるからねぇ 恋愛結婚だった仲のいい夫婦だった 二年で三度の入院手術ははじめてのことだった バスと電車を乗り継ぎ雨の日も雪の日も付き添った 春の明け方さいごのいきにいきをのみ なみだはこぼれないまま しずみきったふちからペンを手に 図書館に通いつめ医師に話をきき ふたりで歩いた町を訪ねなおし二年後 闘病記をまとめた克明に淡々と あとがきに記した生まれ変わってもと うまれかわってもわたしはと しまなみ海道を渡りきった今治では 父方の伯父伯母、いとこが迎えてくれた 画歴約二十年のいとこ・登志夫兄ちゃんが 私設ギャラリーで食事を出してくれるというので あまえた あまえついでに思いついてメールを (母は生の魚介と肉が食べられないのです) やさしい先生だったいとこから (野菜中心で考えてみますね) と返信があったので安心していたけれど 虫の鳴きしきる草むらの扉の奥やわらかな灯しのもと 椎茸と生クリームのスープに喜んでいたら ピザの隅っこにはソーセージ仕方ないよね 急なお願いだったもの 丁寧に淹れてくれたコーヒーに デザートのケーキまでお手製 おまけにギャラリーを埋め尽くす大小の木版画 声をあげるとよかったらお好きなのをと 今治や内子と愛媛ばかりか飛驒に京都 なかに尾道を見つけた母 行ったばかりだからすぐにわかった ぜひ譲ってと頼みこみ包んでもらって うふっと肩先がゆるんだ 小さな作品だからうちにも飾れるね 私はこの桜咲く蔵の一枚がいいな どこの酒蔵だろう 額入り二枚を抱えて宿へ 明日はしまなみ海道のみえる公園へと誘ってくれるのを タオル博物館とねだる みどり深い山せまる博物館は 父の元気なころにはなかったはず 母と二人あまえたみたいに たぶんもっと ねえさん、兄貴とあまえていたらしい末っ子の父 その父の退場が早すぎたぶん弟の家族を 気づかい続けてくれる伯父と伯母 父の齢をとっくに超えた子としては もうだいじょうぶですってばとつぶやく思いと 健在ならこんな年ごろ、と仰ぐ思いがないまぜの 糸になる ああタオルの糸ってきれいだ 父のねむるお墓は一家のものだから あとでうつせないけどいいねと念をおされた 封を取り除いて骨壺からあける 父を見舞った祖母もそこへ加わった 長兄の伯父も 骨となって それはどんなねむりなのだろう ひとりひとりのねむりはまじりあわないのだろうか あの家、川口の 父と母が六畳間となりの四畳半に私 ふすまを隔てて勉強机と本棚 押し入れにふとんと押し入れ簞笥 だったろうか 勉強机の前でうとうとと居眠り ちゃんと寝なさいとたしなめられて敷くふとん 寝返りを打つ間もなく寝入る子ども 手のかからない子どもだったと 母 そのねむりのうっすら浅くなる 深夜 終電で帰った父と話し込む母の時間の果てにふたり ふすまをあける こたつぶとんを手にして 銘仙のだったろうか着物をつぶした布でつつんだ おもくおおきないちまい 赤外線の熱をためたいちまいをふたりふわっと いえずしっと ねむる私のかけぶとんのうえに なだれこむ蛍光灯のまぶしさがまぶたをとおす ねむいねむりのふかみからよびおこされる けれどめざめてはならないきがして ねむい子どもは ときにねがえりをうちながらまぶしさをのがれ ずしっとあたたかいふとんをまちながら ふたつめのねむりへしずみこんでいったのだったろう ふとん、あの家の こたつぶとん、あの家の 著者 薦田愛 発行所 七月堂 発行日 2024年11月11日 A5判変形 224ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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一千暦の帰り道【新本】
¥1,870
果てしのない〝時間〟を越えようと願い描かれた〝歩行/飛行〟 著者渾身の第一詩集 友達、そんなものではない 恋人、それも違う ノオト おまえの村に昔からあった名で呼ぶ ひとりひとりのはずなのに 背中をいつからか重ね合っていたい、誰か たとえば天地や昼夜のように 理由もなく越えようとして 理由もなく時に長居をゆるしてしまう おまえに懐かれるのには 十分な時間だったようだけど でもおとなしくしておいで、ノオト もう一度だけ嵐を抜ける その途中で僕たち 一緒にぶっ壊れたって構わないと信じている 「旅の子ノオト」より抜粋 著者 高嶋樹壱 カバーイラスト ねもとなおこ 発行所 七月堂 発行日 2024年11月25日 A5判 84ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ソノヒトカヘラズ【新本】
¥2,970
帰らなかった その人が 帰るという こみあげてくる時の流れを言葉で拭いながら 馴染の調べと共にテラコッタは生れていく 【作品紹介】 アンモナイトの見た夢 そしてまた 千日が過ぎて アンモナイトの見た夢 どこかで誰かがつぶやいた 大仰だな 数億年の古層に 降りそそいだ夢のことなんて 土と火と灰の渦まくダンス! 炎上の釜はもうひとつの燃える天体 帰ってこなかったソノヒトの 一挙手一頭足がくりかえし オーロラダンスを踊っている 思い出さないわけにはいかない アンモナイトの反時計回りの螺旋 * 鼻の形が美しい反ダダの詩人と 鼻のつぶれた老ボクサーが 地中海の夏のジュラの幻影のなか 浮遊する玉虫色の 巨大巻貝に嚥みこまれ 永遠をありがとう 黄昏をありがとう 殴り合い 絡み合い 睦み合い そして いつか来る さようなら 白い絹の言葉を吐き続けていた * 日帰り小舟が停まるデロス島の船着場 粗末な小屋に泊めてもらった翌朝 黒光りする石窯で パンを焼く 草臥れた影絵のような老夫婦 哀歌だったのか 笑話だったのか 歌うように 絶えず呟いている 八月の太陽は容赦ないが 五頭の獅子たちは身じろぎもしない アポロンが生まれたというこの島で ピレウスから帰還した次男は 腰巻きひとつ半裸の含蓄の男 挨拶は 目くばせひとつだった コツコツと岩を削り 太陽が傾いて沈むまで 残酷に素朴なアポロン像を ささやかな ドラクマに替える 著者 南椌椌 発行所 七月堂 発行日 2024年11月5日 173mm×210mm 210ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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サイ【新本】
¥1,870
本多明第2詩集 自らの生きる世界と詩人との対話の記憶 【作品紹介】 馬 いま むこうのほうで光ったでしょ あれは馬のひかりだよ ほら ごらんよ 大きな生きもののこころが 目に力をためているよ こんな夜ふけに ふと遠くを見ていると たまに見えることがあるんだよ ことばを知らない 大きな生きものから あんなふうに あふれてくることがあるんだよ 著者 本多明 発行所 七月堂 発行日 2024年10月19日 A5判 136ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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透明ディライト【新本】
¥1,870
前作『青色とホープ』より5年ぶりとなる新詩集。 窓越しにゆらめく景色に浮かんでみえる人や物の影。 そこにいるのはもう一人の自分なのかもしれない。 もう会えない人のことをゆっくりと思い出すひと時。 ふと立ち止まってみる。 【帯文より】 たったひとつの断片が強烈な印象をもたらす時、それは記憶ではなく、たったいま夢から覚めたような、世界の裂け目が現れる。 著者 一方井亜稀 発行 七月堂 発行日 2024年10月4日 四六判 110ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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旅の心を取り戻す【新本】
¥2,090
柊有花 詩画集 このたび柊有花さんによる、「絵」と「言葉」の本を刊行いたします 明け渡してしまった 自分の心を取り戻すには 目的のない旅が必要だ 【作品紹介】 「呼吸」 人が去ったあとの海は 清らかに 打ち上げられた星は 浜一面にまたたく しなやかに編まれた 太陽の光は 海の底を明るく 照らしている 水面はやわらかに逆立ち 一枚の葉を 浜へ運んでゆく 一艘の白い舟が 岸を目指し進み かもめは追いかけ飛んでゆく 白い半月のかなた 昼の まぼろしのように浮かび ひとり 夜を待っているのか 濃い青と ブルーグリーンのあいだ 海は 海はたえまなく 呼吸している 【著者からのメッセージ】 絵と言葉の本を作りたいとずっと思っていました。わたしにとって絵は仕事でもあり、ライフワークでもあります。けれど言葉もまた欠かすことのできない大切なものです。絵と言葉は分かちがたくつねに影響しあっていて、それを自分らしい形で統合していきたいといつも考えてきました。けれど絵本や詩集など、自分の思うものを収めるにはすこし形が違うように思えて、自分が作りたいものはなんなのかさえわかりませんでした。作りたいと思うものを形にできないことは、わたしにとってとてもつらいことです。そのことが恥ずかしく、自分に対して怒りと悲しみを感じていました。 コロナ禍の内省の時間を経て、わたしがものを作ることへの意識はずいぶん変わったように思います。そのなかで2020年に作った画文集『花と言葉』に背中を押され、もっと遠くへ旅に出たいと思うようになっています。けれど同時に不安があります。家にいることに慣れてしまった自分はそんな旅へ出られるのかしら、と思うのです。 今回刊行する本が、そんな自分のなかの葛藤を打破するようなものになっているかはわかりません。けれど、自分の現在地をあらわしたものであることはまちがいないと確信しています。旅の途上の、悩み、怒り、悲しみ、進みたいと願う、未完成で等身大の自分です。 旅は楽しく面倒なもの。わたしたちにはかけがえのない日常があり、コントロールできない環境があり、いつでも旅に出られるわけではありません。けれど旅と日常のあわいに立って自分の心を眺める時間、それもまたひとつの旅なのだと思います。わたしが誰かの本を通じて自分の心をたしかめているように、この本も誰かにとってのちいさな旅への扉となることがあったら。そんな願いをこめながら、力を貸してくださるみなさまとこの本を届けられたらと思っています。 著者・装画・挿絵 柊有花 発行所 七月堂 発行日 2024年10月5日 138×148mm 88ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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榎本櫻湖 遺稿詩集『Hanakoganei Counterpoint』【新本】
¥3,520
【内容紹介】 2014年~20年前後の間に書かれ、生前に構想された未刊のテクスト群。永遠に読み終わらない書物の夢。 【目次】 道へ/沸騰した水がお湯と呼ばれるまでにかかった時間/冬の旅/群島S./環礁、あるいは《星月夜》/Poème Symphonique for 100 fragments Un texte en hommage à LIGETI GYÖRGY/metamusik/( Tehi)llim/Chaconne pour violoncelle seul/Credo in US、または〈道化師の勝利〉/ビニール傘と地下鉄のいない手紙/(郵便的)、それ以外の犬たち/Sept Papillons/Hanakoganei Counterpoint、もしくは〈群(ancien-ambiant)島〉成仏 remix A version/豚小屋はブリザードに見舞われて ―〈群(ancien-ambiant)島〉成仏 remix B version ―/Bagatelles/Le Tombeau de Tombaugh - Autogynephilia Edit/十字架の蔭から鹿を覗いている男/絹と石、その他の単調な材質のもののための(ton)kraftwerk/コンセルヴァトワールの叔父/Helvetica Activity、(浜辺で、あの頃のわたしたちはいつも溺れていた)/Botanical Music Lesson/睡蓮の覚醒、または〈الكتاب〉へのつめたい憧れとméditation 著者 榎本櫻湖 発行所 七月堂 発行日 2024年9月16日 A5判 240ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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言祝ぐ【新本】
¥1,760
中村梨々詩集 イノチへの賛歌 機知に富む短詩の名手である。冒頭の詩「雨上がり」からして、なんだか可笑しい。「玄関あいとる」と奥にいる家人に声をかけたところ、「血管浮いとる」と聞こえたなんて。そして、それを詩のモチーフにしてしまうなんて。(井坂洋子栞より) 【作品紹介】 冠水 穏やかな晴れの日、ビデオでバイクが走るのを見ている 『木陰に光るとかげの口元は迷わない』 それが合図 黒い影がわさわさと遡上 子どもたちはジェラートになって いつの時も空から降りてくる 雨は友達だね 穀物の声が歌う 風鈴を持って、誰か来たのと母が出てくる 時間をかけて見つめ合ったような埃が鏡台に積もり 格子柄のカーテンが揺れている 窓枠の隅にとかげの足が細く七色になびいた どこへ行くの 百日紅 むきだしの幹に 昼の月が掛かる 見てるだけじゃぁ いつの間にか届かなくなってしまう 口に含んだままの意味 記憶の木陰で涼やかな通り道になる きしむ樹皮 ないものがくるぶしにあたってよろける 出したほうは逃げる 後ろは遠い山々に囲まれ青く澄んで こんこんと水がおぼれてゆく 来ないから行ってみる 背中から清流をひたひた流しながら出ていく こぶた記 それは最初耳に聞こえず カーテンがかすれて吠えた 黒くてぶ厚い布の裏側は 大量の深紅に大人が埋まっていた 小声を飛ばそうとして高く投げると 布がべろになってくり返し迫ってきた それどころじゃない 目と目がちょっとちくちくする ちいさなこぶたはそのたびに身をかわした 一番上の兄さんのわらでできた家 二番目の兄さんの木の家も おおかみに吹き 飛ばされてしまった ふたりはぼくの家に来て 木杓子でおっきな鍋を混ぜてい る 畑でできたじゃがいもと人参と葉っぱのスープ 湯気のなかで怖さはふやけ るどころか どんどん煮詰まってくる感じ おおかみのひと吹きにいつこのレン ガの家も吹き飛んでしまうかと心配して さっきから何もしゃべらないことに なっている 大丈夫だよ この家は時間をかけて積んだレンガだからね おおか みの息なんかにびくともしない 練習一回目で壊れた段ボールの煙突は張り直さ れていた それにしても おおかみのふぅふぅが止まらない 二回くらいでびくともしない とあきらめて、煙突へと向かうはずなのに 窓からのぞくとおおかみは 見られていると気づきもしないで 腰を手に 上半 身を上向けにしたあと 一気に前に倒れ込んだ 何度も何度も何度も、だ ぼくが思っていたより必死に おおかみは息を吹き出していた 弓のようにからだを反らすとしっぽが風になってなびいた そのきれいなしっぽを見ているうちに、だんだん腹が立ってきた 扉をあけ 肩で息をしているおおかみへと前進 じぶんの丸い肩をできるだけ広げて立ちはだかった おおかみは一瞬きょとんとしたが、気を取り直して息を吸う まだやる気だ ぼくはおおかみに飛び掛かった 兄さんたちが驚きと恐怖であえぐ 母さんの「やめんちゃい」が紅のべろを動かす 著者 中村梨々 発行所 七月堂 発行日 2024年7月24日 四六判 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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乳既 / インカレポエトリ叢書28【新本】
¥990
寺道亮信詩集 ペニスタワーにひとひらのかげ 間伐 ※かつて森にて メトロノーム、ひとさじ 言葉は現実を変革するためのもので しかない、という臆見、がのさばる 現実 を確変するためのものでしかないっ たらない言葉が、 昼と夜を空費させる 開かれを秘匿させる 孤独、にして ことごとく 祖国、にして そっこくに 散歩と呼ぶには生温い 当社比の森林浴で川のセレナーデを 無視しよう 自由意志死すとも尿意は 死せず しがない、という臆見、がのさばる 歯間ブラシを いとも丁寧に磨く これからの これまでの 街の突撃 星のくすめき 犬の断食……。 擲ってもしゃぶりつけない骨々があるだけであろうと なかろうと 孤独、にして ことごとく 露骨、にして おそまつに 幼時、ほくろをけんめいに剝がそうとした 偶然性は必然性を 必然性は 剥がそうとした 人口のまばらな集落で 私はひとり、三千人になる カーキ色の教科書は口唇時代から始まったきり 冀う 孤独、にして ことごとく 旦那、にして たんねんに メトロノーム、ひとさじ 矯正施設でつくられた いろとりどりのクッキー缶 木々はさっぱり間伐された ひとり でに なかったことは なかったことにさえならない 渡る世間は鬼ですか らに 孤独、にして ことごとく いい加減、にして 「砲弾!」「」「砲弾!」 メトロノーム、ひとさじ 木々はさっぱり間伐された ひとりで に なかった こと は な かっ たこと に (冴え) ならない メトロノーム、ひとさじ 孤独、にして ことごとく いい湯加減、にして 「あほんだら!」 「」「あほんだら!」 著者 寺道亮信 発行所 七月堂 発行日 2024年8月31日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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七月堂の詩集アンソロジーZINE(vol.1~)【新本】
¥880
【七月堂詩集アンソロジーvol.1 『やさしくてらす』】 このたび七月堂刊行書籍より、西尾勝彦、海老名絢、佐々木蒼馬、佐野豊、古溝真一郎5人の詩を一篇ずつ、『やさしくてらす』のテーマに収録した七月堂初めてのスペシャルオムニバスZINEを刊行いたします! 七月堂スタッフ手作業、印刷と糸綴じ製本で限定部数を発行。 今後もテーマを変えて発行してまいりますので楽しみにお待ちください。 発行日 2024年8月23日 ―――――――――――――――――――――――――――― 【七月堂詩集アンソロジーvol.2 『音』】 “七月堂の詩集” アンソロジー第二弾のテーマは「音」。ふだん耳でしか聞くことのできない『音』をポケットサイズの詩集のかたちにしてお届けいたします。著者は、髙塚謙太郎、萩野なつみ、尾形亀之助、うるし山千尋、小島日和、黒田夜雨。 発行日 2024年10月5日 ________________________________________ 【七月堂詩集アンソロジーvol.3 『暮らし』】 “七月堂の詩集” アンソロジー第三弾のテーマは「暮らし」。さまざまな事が変動する日々のなか、選択し、取捨することもふえてきたように感じます。そんななかでも変わらずにある暮らしの光景。営みのなかで生まれたアンソロジーをぜひご覧くださいませ。 著者は、一方井亜稀、佐々木蒼馬、江戸雪、國松絵梨、川上亜紀。 発行日 2024年11月1日 印刷・製本・発行 七月堂 ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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浅き眠りは地上に満ちて【新本】
¥2,200
吉川彩子詩集 世界に満ちるすべての音も光も/ 被子植物のようにしずかに実るのだろう 夜の縁をなぞって吹き抜けるやわらかな風に似て 繊細で静かな詩の言葉が 今ここにいる〈わたし〉の内深く埋もれているいくつもの時間に触れ ひそやかな別れの記憶にみずみずしい痛みの光を瞬かせる その先を ここから生きていけるように 川口晴美 【作品紹介】 朝 いつのまにか三人称で話している ここにはわたしとあなたしかいないのに 伏線を回収するたびに 言葉が行き違いつづけて まるで失望の落雷 別れは惜しまない 欺瞞として過去は眠っていて 確かに受け取りましたと すんなり送ってくれない 青みどり色のオーラみたいなこだまは橋の下をくぐって 凍りついた空気の中を響きながら どこか知らない土地へ しじまの中へと帰っていく ゆっくりと前を見る かんたんな結論より前を見るほうが難しい 悲しみにみせかけた暗がりに 強く風が吹く 満ちる前に欠けて ひとすじの光が飛ぶ あなたの背中が燃えている 抱いた背中がしっとりとあまりの重さにたじろぐ ほんとうに好きだったのはこの人だった もうだれもいない朝 ゴミを出しにいく つっかけたサンダルがパタパタと鳴って 空には名残りの月 世界に満ちるすべての音も光も 被子植物のようにしずかに実るのだろう 帰り道 いつも帰り道だった 測れない天気予報と空の距離 投函した欠席連絡ハガキも 図書館に返却した芥川賞の単行本も 改札でかざした残高不足のICカードも キャリーオーバーにつられて買ったロト6も 暗号のようにうつくしい カフェの不在のテーブルに飲み残しの紅茶 だれかと別れて振り返らない いつも帰り道だった 風邪でも花粉でもなく涙が出る 自転車はすぐにキックボードに追い越された まだ恋は改行していない 雪がちらつき始める 浅く眠る街並みはどこまでも点描画みたいだ 前髪を直そうと バッグから鏡を取り出し映ったもの 角度が変わればそこは崖 そこはぬかるみ 降りつもるような 夜の合図は 大気をしずかな眠りにつかせ だれかの傷や痛みを消そうとする わたしはまだあなたと出会っていない いつも帰り道だった 自販機からジュースを取り出して 放電してしまった空のゆくえ 粉々になった飛行機雲が舗道に落ちている 月は太陽とみせかけて翻弄する コンタクトレンズがずれて沁みた いつも帰り道だった ほこりをかぶったスノードームの中にだけ この冬らしい雪を降らせて 今夜は眠ろう 著者 吉川彩子 発行所 七月堂 発行日 2024年8月20日 A5判 96ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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月の領域【新本】
¥2,200
くりはらすなを詩集 外を覗くと/青白い地球が/すっと魂のように消えていった ほどいた後のやさしさの贈り物 【作品紹介】 鏡 ときには なぞときのような 〈黄金虫〉や 〈メルツェルの将棋差し〉 夢の中で君はよく笑っていたけれど ポーの使う ひとつひとつの算術の中には きっと空と空の間にあるという 鏡のようなものがあって (木原孝一が言っていた) (池田克己だったかな) それは死を前に引き返した者にしか見えないもので たぶん もうじき 私の前にもあらわれる 似たような風景 それはどこかで見た風景だ 浄瑠璃かしら ある時突然女の 亭主が現われ 女の顔を張り倒す 見ていた私はついその仲 間に入りたくなり 男の腕を後ろから押さえてしまう もち ろん男の力など どうすることもできないが たしかにそれ は 保育園の中庭でのことで私も女もこの先どうしたらいい のかわからない この時子供たちは一列に並んでこっちを見 ていたのだろうか 女はただ殴られるままになり ほおって おいてくれと言う もちろん女と他の男の関係を亭主が知っ たためだったがあとのことは覚えていない 似たようなことはたしか子供の時分にもあったはずだ 母が 妹を連れて逃げて行こうとしている 父は怒鳴りながら二人 の乗った車を抑えている それはやはりどこか芝居じみて その日 食事を済ませていたのかよく覚えていない 私は翌 日の学校の時間割をランドセルに詰め直す 母と一緒に行か なかった私に父はいつもより優しかったような気がした 著者 くりはらすなを 発行所 七月堂 発行日 2024年8月20日 A5判 84ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ふっとこわばる / インカレポエトリ叢書27【新本】
¥990
神田智衣詩集 抜いてしまった祖母と抜けなかった祖母におびえながら 【作品紹介】 二階 赤い服を着ている人がいる 赤い服の裾を引きずって歩いていく後を私はついていく 階段をのぼった先には待合所があってむこうに飛行機が見える 私はその人のとなりに並ぶ その人が見ている方をみようとして寒さと強風の話をする それにはす向かいの人が答える 待合所ではありとあらゆる二足歩行の人と数多くのそうではない人が 奥へ奥へとにじりよる 入口近くに立つ人は血管が浮き出して肌が薄緑に染まっている 戸の開いた籠を持っている人は 飛んでいった鳥が帰ってくるのを待っている 空のベビーカーにもたれている人がいるのは 中の子どもがとっくに出ていったからだ 私は隣に立つ人に向かってひっきりなしに話し続ける 私の言葉と声を美しいとほめるのは いつもはす向かいに立つ人たちで あの人たちは私に感心があるわけではなくて 私が聞き返したいことは一つもない (請求書が踏みつけられている) 赤い服を着た人は少しも動かずに立っている いつになっても私には目の色がわからない きっとレンズでおおわれているからなのに 覗いても覗いてもわからないのは まつ毛のせい、で まぶたのせい、だ すべて引き抜いてしまいたいと私が言うのも聞かずに その人はずっと遠くを見ている 私がその人の服をはぎ取っても 首に手をかけてそのまま引き上げても こめかみを強く突いてさえも その人がこちらを見ることはない 待合室の中で次々やって来る人たちが 待っているのは遅延か欠航の知らせで 私達は少しずつ縮んで待合室は近いうちに底が抜ける それまで私は下を向いて その人の赤い服が擦り切れていくのを見ている 著者 神田智衣 発行所 七月堂 発行日 2024年8月20日 四六判 94ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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白くぬれた庭に充てる手紙(サイン本あり)【新本】
¥2,200
望月遊馬詩集 第62回藤村記念歴程賞受賞作 あすの火は わたしたちのなかにある ……………… 光を孕んだ水が流れて島を象るように、言葉はほどかれ何度でも編み直され、こんなにも柔らかく強く透きとおる詩になった。実在の場所の伝承、そこにあったかもしれない情景とリアルな今に息づく思い。外と内。豊かにくつがえされて季節はめぐり、届けられる声を掬う私たちのてのひらに生命が燃えあがる。――川口晴美 ……………… 【作品紹介】 かすかなひと 春から夏のゆるやかな野と こぼれかけの庭 わたしのブラウスにも白い舟が漂着して 白い舟は 壊れかけのまま なかから こびとの船員が這いだしてきては 遠い国の合言葉を となえた わたしという舟を すこしだけ 前進させて こびとは 果ててしまったか もうそこには影すらない こびとたちの溢れる港には 新鮮な魚やていねいな職人が息づいていて わたしが美し い鉱石の指輪を買うことは まるでこびとたちへの問いかけのようで 死ぬことも生き ることも 永い時間のなかでは ゆっくりと木べらを持つこびとたちに かき混ぜられ ていくような気がした 爛熟する正午 わたしはスウプを口にし こびとにもそれを飲 むように強要した 壊れかけの庭には 薔薇の迷路がつづいている ここに来る者も 出ていく者もいない この完璧な企図のなかで わたしは洗い終えた皿を 湿った布巾 でぬぐった こびとたちは それぞれの仕事に戻った あるものは漁師として 朝の冷 たい町を巨大な魚をひきずって歩いた あるものは医師として 少女のきずぐちを縫い 少女に花のような接吻した また、あるものは会計士として ある未亡人の相続にまつ わる 不吉な地図を燃やした すべてのものが 水音のようにひらいていたのだ その 清潔な音 純粋な音――。わたしが守りたかったのは そんな音の絵だ 白い舟は 湾を周回し わたしは口をおさえて 港をあとにした どんなに苦しくても 消えいりたいと思ったとしても ことばを棄てることはなかった そんなあなたに わたしは わたしのことばを相続します 【著者プロフィール】 望月遊馬(もちづき・ゆま) 2006年、第44回現代詩手帖賞受賞 第一詩集『海の大公園』(2006、poenique)で、第12回中原中也賞候補 第二詩集『焼け跡』(2012、思潮社)で、第18回中原中也賞候補、第4回鮎川信夫賞候補。 『水辺に透きとおっていく』(2015、思潮社)で、第26回歴程新鋭賞受賞、第21回中原中也賞候補 『もうあの森へはいかない』(2019、思潮社)で、第70回H氏賞候補 『燃える庭、こわばる川』(2022、思潮社)で、第73回H氏賞候補 著者 望月遊馬 発行所 七月堂 装丁・組版 川島雄太郎 発行日 2024年7月31日 A5判変形 132ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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公園のまんなかにはおおきな木があって【新本】
¥2,200
たかすかまさゆき第1詩集 届かないものを あなたと分かち合いたい …………………… たかすかさんの詩とともに散歩をし、佇み、微かな風を肌で待ってみる。 それは果てしなく孤独で、自由で、色気のある時間だ。 ――三宅唱(映画監督) …………………… 【作品紹介】 途上 坂の途上の地面は断層が剥き出しになっていて 茶色と灰色の入り混じった土が不安定に固められた足場を伝いながら 白いヘルメットを被り、紺色の作業着を着たひとがひとり降りてきて 奥の空間へと消えていく 奥では鉄骨と青いシートに覆われた穴だらけの家が 完成を待っているのか 解体を待っているのか 浅く削られた地面に鎮座していて その横で風に揺れ斜めに伸びる一本の木の緑が 家の中を行き来する作業着たちの影を曖昧に拡散している オーストラリアっていま何時だっけ? 風にのって不意に届くカタカナの地名が 坂に乗って不安定に傾くからだの姿勢をかたかたとなぞり 謎かけをたのしむように笑い声が遅れてやってくる ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ、と 穴から風が漏れるような破裂音が辺りに響き それにあわせるようにシャッター音が三度、 坂の上から鋭くたてつづけに鳴る 撃たれたように振り仰げば 空を覆う黒と灰の雲が うすくれないに染まりはじめた眼下のまち並みと 層を成しながらゆっくり下降する 加工され固定された時間をカメラにおさめたそのひとは 鳥の囀るオーケストラを背後にしながら この世の反対側にいるみたいな深く沈む眼 中央区立浜町公園 橋の向こうのまちのことはよく知らなかった。とぐろを巻く首都高が空を覆い、その真下の空き地で父親がちいさな子ども二人と遊んでいた。さらに進んで、大きな通りで右に曲がった。真っ直ぐ行くとまた別の橋があるらしかった。橋を渡ったらまた橋って、なんかどこにも行けんみたいやん? きっとあなたならそう言った。橋の手前で左に折れて、公園に寄った。公園では着物を模したお揃いの服を着た子ども四人がかくれんぼをしていた。隠れる場所はあまりなさそうだった。大人たちは水辺のベンチで談笑していた。その水辺に野生のネズミが一匹どこかから現れて、とてもおいしそうに水を飲んだ。公園内の照明はどれも濃い橙色だった。陽はまだ沈みきっていなかったけれど、もう空には陽が生み出す橙色は残っていなくって、陽が水平線に消え去る瞬間の淡い黄色だけが西の空にうっすら膜となって残っているだけだった。だから公園を満たす橙色は全部人工的なもので、人工的な橙色を透かして見る人間たちは、どれも古い映像のなかのひとたちみたいで、なんだか過去のようだった。もちろんそこにあなたはいなくて、わたしはひどく安心し、安心したことにひどく胸を痛めた。それから公園脇の階段から川沿いの遊歩道へ降りた。橙色は届かなくなり、陽はすっかり沈み、一段一段降りるごとに辺りは暗くなっていった。川は巨大で、真っ黒い水はひどく波打ち、歩道まで溢れてきそうだった。怖かった。そう思っていたら呑み込まれた。 それは言い訳でしかないんやん? きっとあなたならそう言った。良いわけがない。良いわけがない。意味なくくりかえすわたしはまだ川沿いの遊歩道を歩いていた。わたしのからだを運ぶのはわたしの足だった。しらじらとした蛍光灯の明かりにまみれたわたしの足の足裏が、地面に着地するまでの時間とその隔たりを正確に測る必要があると思った。目の前には色とりどりのネオンにライトアップされた大きな橋があり、川面にネオンがモザイク状に映って揺れていた。川を遡る一艘の船が橋の下を垂直に通過し、船が通った跡で切断されたネオンが揺れていた。石を投げればネオン色の煙が上がるだろう。煙の中からあなたが現れるだろう。けれども石はなかった。いつまでもアスファルトの平らな道だった。橋の上から車のヘッドライトが鋭くこちらを射す。隠れる場所はなかった。 著者 たかすかまさゆき 発行所 七月堂 発行日 2024年8月3日 A5判変形 124ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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緋のうつわ【新本】
¥2,200
【出版社内容紹介】 篠崎フクシによる第三詩集 ……………… かわたれに まねかれる緋よ あなたは ひと世をいれる うつわとなる …………………… 泣くための作法を 教わらなかったので 泪のかわりに詩をふらせたのは 昔日のゆりかごでした 「朴のみち」より 【著者プロフィール】 篠崎フクシ 第一詩集『ビューグルがなる』(2021年)〈第36回福田正夫賞、第72回H氏賞候補、第32回日本詩人クラブ新人賞候補〉 第二詩集『二月のトレランス』(2022年) 著者 篠崎フクシ 発行所 七月堂 装丁・組版 川島雄太郎 発行日 2024年7月20日 四六判 138ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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蝶番(サイン本あり)【新本】
¥1,650
梁川梨里詩集 「わたしは、いない」と書くとき、書く「わたし」がいる。 矛盾を誘い出すことばは論理を超えて肉体に近づく。 ――詩人・谷内修三 わたしを喪失する。その傷跡から新たにわたしが芽吹く。 あらゆる境界に分け入り、あなたと混ざり合う。 永遠にも似た記憶の営み。 その息遣いに眩暈がした。 ――詩人・文月悠光 【作品紹介】 遠雷 たいないを越えた水が たいらな裏側では雨になる 夕立に駆けだしたまま 帰る家の灯りが みつからない 落とした百円玉の匂いがする 空が待つことを止めた もう、わたしも諦められてしまったのだろう 誰も迎えの来ない夜に 用意された片方の足だけが ぶら下がっている この胸の波の果て 貝殻を捨てた場所 ここにいることを忘れてしまったら 誰からもみつからない 名付けられたものは いつか消える 手放しで 音のない口笛を吹く 著者 梁川梨里 装幀・組版 亜久津 歩 発行所 七月堂 発行日 2024年7月7日 A5版 126ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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場末にて【新本】
¥1,540
すべてのアウトサイダーへ贈る 七月堂創立50周年記念企画第二弾! このたび、西尾勝彦新詩集『場末にて』を発行いたします。 詩集単体としての発行は、『ふたりはひとり』より二年ぶりのこととなりました。 【著者コメント】 作品「場末にて」を書いたのは2019年のことです。大阪のとある小さな書店で開催された朗読会のために書き下ろしました。記念にするつもりでその店主を描きはじめましたが、次第に自分のこととなり、未来のこととなり、すべてのアウトサイダー、場末を支えるひとたちのための言葉になっていきました。朗読会当日、しずかに読み切ったときの気持ちはまだ覚えています。あの日から、4年。ようやく、詩集『場末にて』を完成させることができました。多くの人々の手に届くことを願っています。 【版元コメント】 この詩集はきっと、誰かにとって、ひと休みさせてくれるような、木洩れ日がきらめく木陰のような、そんな一冊になるのではないかと思いながら制作を進めてまいりました。 こうして形にすることができ、嬉しい気持ちでいっぱいです。 装画は前回の詩集『ふたりはひとり』につづき小川万莉子さんの描き下ろし作品です。場末にてひかる小さな明るみを表現してくださいました。 この詩集には、「場末」に生きる人たちやそんな人たちがつくる場所がたくさん登場いたします。 ほの暗いなかでしか見えないくらい、けれど確かに存在する、ちいさなやすらぎの灯のような一冊です。 ぜひお手にとってご覧ください。 【作品紹介】 駅 彼は うすい背中のひとなので 職場から 誰よりもはやく 家に帰るみたいだ いつも歩きなので 駅に着くころには 埃っぽい風のなかである ちょっとうつむきかげんの ふうわりとした顔つきで 行きと帰りでは 気持ちに ほとんど変化がないみたいだ 夕暮れの あわい光のなかを 彼は歩いている うすい背中のひとは 駅近くの和菓子屋に 立ちよっている 病弱の妻に 若鮎を買って帰るらしい がま口を開けて 一枚いちまい 小銭をかぞえている 著者 西尾勝彦 装画 小川万莉子 装幀・組版 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行日 2023年10月10日 175mm×110mm 132ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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死者と月【新本】
¥1,980
【内容紹介】 詩とは、あなたを探す灯 死は生あるものに必ず訪れる。 遺されたものはこの世界を生きてゆく。 「その世界は、陰影の世界である。実在が影となる世界である」(「補遺」より) わたしを探して 冬の木立を歩いている 木立の中を歩いていると 光に音が吸い込まれ 人影が二つ 木陰に浮かぶ 彼らは優雅に球で戯れ 私は 冷気で白む息に 影でもないわたしを感じ なおひとり 歩いてゆく 歩いていると先が開け 外から音が 漏れてくる 何処へ など知る筈もなく ただ 躰の重みを僅かに感じ 誰でもないわたしは 私を引きずり 歩いてゆく 手紙 姿を消した彼女から 届いた手紙がある 言葉も写真も色褪せていた けれどもそれは 今にも滲み出ているものだった 今に滲み出ている 闇や影が きらきらと輝くように 揺れていた なぜだか僕は どうしようもなく懐かしいと思った 自分のものでもないのに 自分は知らないのに そこに綴られている言葉には 重みと救いがあった 言葉にならない感情の淀みと 切実さもあった そして思った 誰かと 世界と 繋がろうと していたのではない そうではなく 必死に 自分と繋がろうと していたのだと そうやって 結果的に 不器用なりに 今に向かって 前に進んで 躓いていた それを届けようと思った彼女の意志を 僕は 美しいと思った 誰かの意志を 美しいと思う そのために人は生きているのだろうか 夜を乗り越えて カラスが屋根の上をコツコツと歩く音で 僕は目を覚ました 朝はまだ早い 外が少し白みはじめた 誰もいないリビングの大きな窓 カゴにあるグレープフルーツ 秒針のない時計 昨夜食べた味のないチキン ナイフとフォーク 沈黙 月はまだ出ているだろうか コーヒーを手に 僕はぼんやりと考える これまでの人生に どれほどの間違いが あっただろうか もちろん 後悔することはあった けれども もし もう一度この人生を やり直すことができるとしたら 僕は 同じ場所にいるのだろうか 多分 確率は五分五分だ でもまあいいさ どこにいたって こうして夜を乗り越えていくだけだ 冷蔵庫が低く唸り 氷が落ちる 鼻から息を吸い ゆっくり吐きだす 新聞配達のバイクが 十字路で いつも通り 朝七時のクラクションを一度だけ鳴らす 僕は知っている それが一日のはじまりを告げる 一人分の孤独の合図だということを 著者 関根全宏 発行所 七月堂 発行日 2023年11月5日 四六判 117ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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フレア【新本】
¥1,870
長尾早苗詩集 太陽になるんだ 心のなかのたったひとりの部屋からうまれる 生きる意志は 言葉を動かす あなたやわたしのゆらぎをみつめ 刻んで今日を行くために ──北爪満喜 【作品紹介】 「告白」 雲がうねっている こういう時に体がおかしくなると わかっていたはずなのに 置き去りの身体を取りに行く 傘をさして 天気予報がわからなかった 小さな神さまはつぶやかない みぞれ交じりの雨に つらくなって ささやかな場所だけで 安らげると思った 同じロゴ 同じパーカー 同じランニングシューズの少女たちが パン屋へ向かっている、平日 今日の彼女たちのランチはコロッケバーガーだろうか 置き去りの身体は どこかひしゃげていて 水分を与えなければいけなかった 雲がうねっているから 犬の一族は今日も朝に会合を開き 不穏な目の青年はベンチで何も見ていない目をこちらに向け そういうものが ここを 今日一日を不穏にしてしまう 勝手にしてください いつもの日常をおくることができるように 今日も歩き そういったものと出会い そして 黙ってお互いの勉強や生活をしているわたしとあなた お互い少し離れた場所で お互いに 今日のスイーツタイムにどのコーヒー豆を挽こうか考えている あなたがいるここが 好きです 大好きです どうでしょうか 今日は 新鮮な豆を挽いたコーヒーでも 「ガーベラ」 歳を取っても本を書きたいと 目の前のピンクのガーベラを見ながら 思う ガーベラは贈り物 こんなふうに真っ直ぐに わたしの仕事部屋で するすると光へ 伸びていくガーベラ わたしだって 光の方へ伸びていく AirPodsから美しいギターの旋律 その前の 余韻 夜が明ける前の 植物たちが 起きてこない時間に わたしと ガーベラは友達である 今日からまた 新しく本を作ろうと思う ロルバーンを使い潰すように このツバメノートも使い潰す 何冊も 本を書く生活が またこれからも はじまっていく 愛する書店に花束を 見えない読者に花束を そんな思いで わたしのことばは 輝きを秘めている 著者 長尾早苗 発行所 七月堂 発行日 2022年8月1日 四六判 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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聖者の行進 / インカレポエトリ叢書8【新本】
¥990
長尾早苗詩集 「わたしもかつてはくらげだった」 【作品紹介】 プレゼント 遺言状って究極の自己満足だよね と友人が言っていた その場で何も言えなかったわたしは 夢で 三十年後のわたしに聞いてみた ねえ 伝えられないもがきを伝えるって自己満足なの 三十年後のわたしは そうねえ、わたし本当に死んでないから分からないわ と柔らかく微笑んで たぶん彼女は と続ける 一度死んでないわね 朝目覚めて 庭の花に水をやる 疲れはてたわたしはよく ああ花になりたい などと甘えたことを思ってしまう 水と太陽と二酸化炭素だけで生きられるなんて! 嘘をつかないで枯れてゆくなんて! 生きるって、パワーだ ものすごく しんどくなるときもある お腹が空くと無性に悲しくなるし 放っておいて! と かまって! の気持ちがごちゃごちゃして かさばる 感情なんて難しいもの 持って生まれてきたわたしたちってみな苦しい 昔 植物人間の本を読んだことがある かわいそう と思ったり、した はずなのに 疲れはてたら植物になりたいなんて わたしはとても 生きることに甘えている そうねえ、あなたってとても と三十年後のわたしは笑う むやみやたらと地面に繋がっているような気がするわ そうなのかしら そうよ、花って一生そうなのよ かわいそう、つらそう だから、花は美しくなるしかなかったのかもね 花を愛するひとに悪いひとはいない と母が教えてくれたことがある 花に添えられた ありがとう のメッセージカードを盗み読みしてしまうたび 仕事中なのにほろりとしてしまう ひとは つらくてもごはんを食べて 眠って 生きなくちゃいけないから ひとにことばや花を贈る それはとても美しい行為で 花が人生になかったら と考えると ちょっとぞっとする 明日も朝目覚めたら 去年母に贈った花に水をやろう 生きるってそんなに嫌いじゃないと 思えるかもしれない 著者 長尾早苗 発行所 七月堂 発行日 2021年3月30日 四六判 91ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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風とカマキリ【新本】
¥2,200
【内容紹介】 言葉の展覧会へようこそ 著者は詩人藤富保男のもとで長年詩を学んで来た。 描かれる情景は日々のひと時を豊かにしてくれる。 あなたは町の中で山羊に出会うことはありますか? あなたは海の上喫茶店へ出かけたことはありますか? ようこそ『風とカマキリ』へ。 風と共に 彼は歩いていた 氷の上を滑るように 時々 立ち止まり たまに ペタンと座り込み また歩き出す 何人もが同じ方向に進み すれ違う人はいない 空が動く 突然 彼は後ろ向きのまま 風に吸い込まれた まぼろし村 なめらかな木肌の幹が 鄙びた田舎道に並ぶ 枝は四方八方に長く伸び その枝には細く葉が絡む 先端にうす茶がかった桃色の塊 生垣に囲まれた家々 その裏庭にも塊の花が揺れる 近くで見ると 塊はかき氷のようにフワフワ 触れると崩れそう ホロホロと花 満開 夏 もも色に染まる村 節穴 目が覚めると 部屋の中に 光の槍が数本 刺さっていた 小さな手で 掴もうとしたが 掴めない 目が慣れると こまかい塵が 踊っていた 木の雨戸を開ける と 朝が来た 著者 萌沢呂美 発行所 七月堂 発行日 2023年11月20日 A5判変形 77ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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インカレポエトリ10号 貂【新本】※送料をご確認ください
¥1,000
【内容紹介】 様々な大学の学生が参加している学生詩集の第10号です。 【編集】 朝吹亮二 新井高子 伊藤比呂美 大崎清夏 笠井裕之 カニエ・ナハ 川口晴美 北川朱実 小池昌代 瀬尾育生 永方佑樹 中村純 野村喜和夫 蜂飼耳 樋口良澄 四元康祐 発行 インカレポエトリ 印刷 七月堂 発行日 2024年4月30日 A5判 425ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊→「クリックポスト」 *2冊→「レターパックライト」 *3~4冊→「レターパックプラス」 *5〜8冊→「クロネコヤマト80サイズ」 *9〜10冊→「クロネコヤマト100サイズ」 【関連本】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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二〇の物と五つの場の言葉【新本】
¥2,200
【内容紹介】 ポンジュをのり越えて、この知略は出現した ポンジュの再来、というだけではない。諸篇の発表当初は「運動と時間」という副題がついていた。ベルクソンも物理も来ている。みんな来て、尾内達也という詩人の頭脳になり、眼になり、さらにそこから、あらまほしき事物の変容がまなざされている。そう、眼差しは真名指しでもあるだろう。二十の物と五つの場の〈誕生〉と〈名づけ〉をめぐる、これは静謐な陶酔の物語だ。 野村喜和夫 十二ロールのシングルのトイレットペーパー どこにも存在しない青い花がプリントされた、ビニールのパッケー ジからは微かにその青い花の香りがしている。ドラッグストアーの やや高い棚に積み上げられた十二ロール入りのパッケージはあまり 目立たない。「ふっくらやわらか」がセールス・ポイントのトイレ ットペーパーも、四つずつ三段重ねると意外に重い。一ロールで五 十メートルあると謳っている。五十メートルの空間が十二個凝縮し ているわけである。つまりは六百メートルの空間が、この安っぽい ビニール・パッケージ一つの中にある。次々に縦に伸びるか横に重 なって広がるか、垂直に高い壁と化すか、意外な重さは六百メート ルの空間の重さであった。五十メートルのロールの芯には幻の青い 花の香りが宿り、それが六百メートルの空間を自在に咲き乱れてい る。どこにもない青い花が咲き乱れた夏野をまるめて十二ロール、 手に提げてレジに並ぶ。パッケージの下の方に買い物した印の黄色 いテープを貼ってもらって帰る。幻の花の消費量は激しいのである。 GAZA――今ここに「ある」こと 月は眠らない――GAZAは眠らない(海も陸も敵意に満ちてゐる ――止むことのない瓦礫の崩落―空はひとつの偽りである。 月の光の中で、面のない人形たちが群れてゐる。GAZAに言葉は 届かない――悲鳴はいつも緑の小箱の中に隠されてゐる。 言葉を――透明な膜がかかつた言葉を―ナイフで切り出す、 痛み――血――詩――もはや、それはひとつの翳りである。 ――今ここに「ある」こと、 今ここに「ある」ことでGAZAとつながる――、 まだ、雪は降らない、まだ、月は上がらない。 私があることで「死」とつながり、 私であることで「生」とつながる。 hic et nunc hic et nunc 光であれ――雪の、月の、 著者 尾内達也 発行所 七月堂 発行日 2024年5月25日 四六判 92ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ヒトノマ / インカレポエトリ叢書26【新本】
¥990
田村奏天詩集 それでも、さわやかでありたいと思って 薄雪色の指 【作品紹介】 「街と暮れ方」 帰り際の夕立が街を知り尽くしている クリーニング屋の文字がさびれて いくつかの空白を埋めて読む 線路沿いは雑草が茂り 今にでも人類史がまっさらになるような予感 黒ずんだビルに書かれた 「ヘルス」はそれほど健康的でなく おぞましい桃色の看板をしているが 一方で自分が口に運ぼうとしている チューインガムも同じ色だった (それは平穏を保つための 音から意識を背けるための 端的な逃避行) 考えれば胎内ははっきりとした 鮮烈な肉の色をしていたはずで 閉ざされた暗がりに見ていた 熱のための色 人体から発生した我々は その色に寄せられた蛾にならざるを得まい 車窓に流れていく雨後の街を見ながら 強い空腹感を覚えて さらにはこの街がいつからか 鉄の匂いにさらされていることを知っている わたしは誰の信奉者にもならないので 冷静に脳が暮れていく街を解釈する 薄紫を羽織って沈みゆく太陽は 明日の雷を知らない 著者 田村奏天 発行所 七月堂 発行日 2024年4月15日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ときの旅人【古本】
¥800
【 商品状態 】 帯付 本体:天汚れ少 著者 奈津光平 発行所 七月堂 発行日 2010年3月31日 四六判 90ページ __________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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詩については、人は沈黙しなければならない【新本】
¥1,870
【七月堂創業50周年記念発行 第一弾】 このたび、髙塚謙太郎『詩については、人は沈黙しなければならない』を発行いたします。 2020年12月~2021年9月の間にnoteに連載され、また他の場所で発表したものをベースに、書下ろしをふくんで編集しました。 noteに連載する際、ご自身で作ったルールは以下になります。 ①出来るだけ週に1つ以上追加する。 ②ナンバリングするが、連続性、関連性を意識しない。 ③思いつきで書き、書いたものは1週間以上寝かせない。 本編の編集後、さまざまなわけがあってできた時間のなか、栞文を書下ろしていただきました。 真新しいシャツに袖をとおすような朝にかぎって、雨は陰って軒下までぷつぷつとちぎれていく。でも、それで静かさというものがたっぷりと担保されるのなら、私はこなごなに散ったガラス片として、すべてを見とおせるのではないか。ネクタイを巻く。上着はタンスの横でハンガーにかかったままで。 パックのカフェオレをさらに牛乳で割って飲むのが好きだ。チョコマシュマロやシュークリームをそえて晴れ間にテレビをつけて過ごす。神がかっている。自室に戻ると、買った憶えのない本がいくらもあって、残りのメモリーを思うと暗澹たる気分にも逸れていくが、そこを豊かと言って、さて私に書くという意味をつきつけてくる。つきつけてくるが、ただそれだけで、私は午睡へと沈んでいく。 ──『詩については、人は沈黙しなければならない。』栞文より 本文はもちろんのこと、ぜひ栞にも注目していただきたい一冊となりました。 詩を書くということとは。 詩を読むということは。 ことばとは。 詩集『量』でH氏賞を受賞した髙塚謙太郎が、矛盾もひっくるめて真っ向から思考した記録です。 なぜ、私は詩を書くのか。よく言われる100個ほどの、あってもなくても誰も困らない解答(例えば、人々とひとつになりたい、例えば、魂の叫び)は普通に横にどけておく。一つは、間違いなく、人に読んでほしい。この場合、人は私を含む。ただ、それはいわゆる詩でなくても大丈夫だ。なぜ、私は詩を書くのか。必要もないのに、私はさっきも一つ詩を書いた。なぜか。 それは、言葉という最高に複雑で、最高に意味不明で、最速でアップデートされ、最高に可能な、そんなシステムが目の前に広がっているからだ。数式の美しさや楽しさにそれは近いかもしれないけれど、関数がいつまでも無限に作成可能で、その関数によって生じる機能や像も、あらかじめ予測することがなかなかできそうにない。元手がほぼゼロの、この難易度と自由度の高いオープンワールド系ゲームをプレイしない手はない。 ──本文「4.3」より抜粋 著者 髙塚謙太郎 発行所 七月堂 発行日 2023年6月9日 A5判変形 帯・栞付 116ページ 初版限定1000部発行 シリアルナンバー入 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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sound&color【新本】
¥1,320
やすらいはなや やすらいはなや 文字をつかって言葉をつらねるとして、愉楽をもたらすものが果たして何なのか、とかんがえてみますと、それはまちがいなく韻律の仕掛けによっているということがわかります。流麗さもさることながら、摩擦の多い韻律であってもそれは変わりません。むろん黙読をするときに幽かに脳の舌先で転がされる韻律のことです。もちろん言葉ですから、そこに意味と名指される何かは付着するわけですが、意味が愉楽をもたらすわけではありませんので、いうなれば添えものに過ぎないのかもしれません。ただし、言葉がもつ幾重もの意味の層が常に揺れつづけることで色がひろがり、私たちの脳である種のリズムが生まれてくることも確かで、韻律といった場合、単なる音韻上のリズムをさすわけではなさそうです。――髙塚謙太郎 髙塚謙太郎 著 詩集 2016/07/15発行 130×205 A5判変形 並製 第二刷 発行 七月堂 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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新装版 量【新本】
¥3,300
《私》は救われる 第70回H氏賞を受賞した『量』。 サイズをA4判からB5判へと変更し、書下ろし詩篇「ハンコック──1984 あるいは球体は《私》は記述している記述──』を収録。 新装版として発行しました。 限りなく無意識にちかい意識のなかで自由に飛躍する詩のことば。 読むほどに広がってゆく髙塚謙太郎の織りなすことばの美しさに、何度でも出会えるだろう。 著者 髙塚謙太郎 装幀 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行日 2022年5月25日 B5判 276ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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量(サイン本あり)【新本】 ※送料をご確認ください
¥2,750
SOLD OUT
髙塚謙太郎詩集 「詩」と「歌」が一体となって届けられる時、その「ことば」には新鮮な美しさが宿る。 髙塚謙太郎3年ぶり5冊目となる新詩集!! 書き下ろし、私家版詩集、ネット上で公開された「〈末の松山〉考」などを収録。 広い紙面のうえ、新しい構図で詩篇の解体と展開を試みた。 限りなく無意識にちかい意識のなかで、自由に飛躍する詩のことば。 読むほどに広がってゆく髙塚謙太郎の織りなすことばの美しさに、何度でも出会えるだろう。 「目次」 七竅 Blue Hour HANNAH 花嫁Ⅰ 〈末の松山〉考 あ文字のいた夏(マイ・サマー・ガール) Memories 花嫁Ⅱ 「背のすらりと、 抜けていく気がしたから。 思えばテレビの明るさ、静かさ、 暗さがこんなに女のひとのほつれて、 立ち姿が聞こえてくる。 水の溜まった視細胞はわたしは深く、 深さは、ひとかきで闇をやぶって、 映りこんでしまった手の白かった。 文面のまま、 春を待って 会いにくるとは。」 ─本文より抜粋 著者 髙塚謙太郎 発行所 七月堂 発行日 2019年7月15日 A4判 253ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊 →「クリックポスト」 *2冊以上 →「ヤマト宅急便」 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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アウフタクト / インカレポエトリ叢書24【新本】
¥990
源川まり子詩集 走れ走れ、張られた薄紙が浮いてきてしまうほど/風をたてる。走れ走れ、 【作品紹介】 なめらかな都市のエコー トラックナンバー不明、暗い部屋、まわるレコードに印さ れた都市の名前、円盤に扇型の影がかたどられて エコー 検査みたい、とぼんやりしたコントラストをみつめる 寝そべった視点、風景、黄ばんだ枠に囲まれた旧式のモニターは湾曲していて、身体だと思って いたのも同じような光のつぶつぶだったのだ、と水を嚥下する プラスチックの接地面と身体と の間にさしこまれるつめたく澄んだゼリー、お腹に赤ちゃんのいるひともあの機械を使うのだと 知ったのは、病院に通わなくなって随分経ってからのことだった モノクロームの絵本、軌跡を 描くストレッチャーはましかくの枕をたたえながら走る 子どもの頃、やわらかくふくらむ腹を見るたび そこに生命が宿っていることを密かに祈った どうやって信じればいいのだろう、画素として広がる腹腔のなかの海 あるいはそこに他者が宿りうることを? 都市は移動する、フィールドレコーディングされた町の音 声は砂埃をあげて、今はなき町の無形の跡を落ちていく針、 記録された音の内部にいる人々は永遠に無名 画面に映っ た靄の正体はずっとわからないままで 砂粒みたいな濃淡 が示していたのは異常のしるしだったのか あるいは日常 にあらわれた砂丘のような遊び場を保っていたのか うつ くしい遊び場を われわれは想い続けることができるのだ ろうか? 引き受けた愚かさが轟音をあげる あの日、目で追いきれなかった都市の名はサイゴンだったと あとで友人が教えてくれた 人々は町をさまよい歩く 簡単ではないやさしさ 想い続けることをやめないで 波、あるいは絶え間なく押し寄せる声 ダイナー 人間という音はインゲンと似ていて わたしはかつて おいしいインゲンを食べたことを想起し 甘さ、あるいは少し土っぽいにおい くぐもった青臭さに焦がれていたのだが どこで出会ったのか もう思い出すことができなかった 咀嚼を続ける頬には 三角形をかたどったホクロがあり 黒目だけを動かして点と点をなぞる 外ではサイレンがけたたましく鳴っていて 誰かに逃げろと合図する轟音が部屋に響くとき われわれの暮らしは反射光として継続される やわらかな彫刻 となりに、横たわっています つかまり立ちをする赤子のようなおぼつかなさで 顔の稜線を震えながらなぞる 眼窩の凹みがぴくりと振動するたびに 素肌の内部にある星座は居心地悪そうに伸縮し 座標を正確になぞることができない、だから ひとつの整った食卓を眺めては 皿のはざま クロスにこぼれた食べかすを 指の腹に押し付けて 拾いあつめておいたのだった 傘をさして歩く 道ゆくひとびとが足を止める橋 もしくは 流れがぐんぐん速まる川 ふかい洪水に抱きすくめられ、わたしは竜になる 今日も机を挟んで座る そうやって対峙しつづける限り ごはんはきっとうまい はずで 背中にすり寄せられた頬の重量が 肩甲骨の隙間を埋めていく きれいな水面の上澄みだけをあなたにあげる スープを飲んで黙ってうなずく 著者 源川まり子 発行所 七月堂 発行日 2024年1月10日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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おじゃんこら【新本】
¥1,500
青山かつ子詩集 【作品より】 きょうだい 五さいと七さいのきょうだいは わんぱくざかり ぶってぶたれて わめくふたりを 母さんは うら戸をあけ つもった雪のなかに すぽっと投げこむ 歯をガチガチならしながら 土間に立つきょうだい 「ほらほら はやく入りな」 母さんは こたつぶとんをまくり上げ 炭火をかきたてる ふたりは 首までこたつにもぐる だまったまま 著者 青山かつ子 発行所 七月堂 発行日 2023年12月2日 A5判 112ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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忘れられるためのメソッド【新本】
¥1,760
小川三郎詩集 死んだあとも、それよりあとも 【作品紹介】 「満天の星空」 だったらもう 満天の星空じゃなくたって かまわないんじゃないか。 いくつか星が あるだけで それでもう いいんじゃないか。 こんなふうに 地球のうえで 一瞬 笑って 泣いたりして やることがまだあるなんて 思わなくたって いいんじゃないか。 未来からの手紙は来ない。 夜はいつも夢を見るから せめて起きている間だけは みんなで笑おう そうしよう なんて 教えたり 教えられたり しなくても。 見上げると 満天の星空。 生まれる前も それより前も あれをずっと 見ていたとして ずっと動かぬ一点だった ただそれだけの 私であるなら 死んだあとも それよりあとも こまることなど ひとつもないので。 著者 小川三郎 発行所 七月堂 発行日 2023年11月16日 A5判 124ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あかむらさき【新本】
¥1,650
狂おしいたそがれ ほんとうのことが怖くて 小川三郎の作品は一篇一篇が短編映画のように迫ってくる。書下ろしの2点「あかむらさき」と「夕暮れ」が入っているが「夕暮れ」の中で詩人は「夕暮れに絶望し」かかとで石を割ろうとする。石はかかとをかわし、何かを主張するかのように詩人の頭を割る。「森も川も空も雲も」すべてが夕日を眺めている中でこの行為は行われるのだ。石も夕日を見ているというのだが、「石」って誰? 老夫婦の手には 赤黒い手相がこびりついていて その手を川に突っ込んでは ごしごしとこすっている。 私は反対側の岸にいて もう帰ろうとしていたのだが ならばなんとか助けてやろうと 川に足を踏み入れ 老夫婦の方へと歩いていった。 すると案の定というか 川底はぬるぬるしていて 足をとられる。 私が川底に尻もちをつくと 老夫婦は ふたりして顔をこちらに向け はっとした様子をしたが しかし豊作だ豊作だと言い続けながら 手を洗うのをよさなかった。 私の体が 腰からだんだん 薄赤く染まる。 表面だけではなく 身体の内も 髪までも赤く染まる。 (「赤い川」より抜粋) 著者 小川三郎 発行所 七月堂 発行日 2018年10月20日 四六判
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インカレポエトリ9号 鳩【新本】※送料をご確認ください
¥1,000
【内容紹介】 様々な大学の学生が参加している学生詩集の第9号です。 【編集】 朝吹亮二 新井高子 伊藤比呂美 大崎清夏 笠井裕之 カニエ・ナハ 川口晴美 北川朱実 小池昌代 瀬尾育生 永方佑樹 中村純 野村喜和夫 蜂飼耳 樋口良澄 四元康祐 発行 インカレポエトリ 印刷 七月堂 発行日 2023年10月30日 A5判 434ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊→「クリックポスト」 *2冊→「レターパックライト」 *3~4冊→「レターパックプラス」 *5〜8冊→「クロネコヤマト80サイズ」 *9〜10冊→「クロネコヤマト100サイズ」 【関連本】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鋏と三つ編み / インカレポエトリ叢書23【新本】
¥990
川窪亜都詩集 誰かをおににしなくちゃいけないこの世界は 【作品紹介】 プラスティック・ジャングルで生き延びるには かばんの染みから追憶が広がり サンドイッチを食べた午後 レタスのかけらが風に吹き飛ばされて アスファルトのうえを走った 踏切が開くのを待つ あいだに日曜日の退屈を十本まとめて 踏みつけた、毛羽立った皮膚を掴んで持ち上げた 葉脈が透かすいのちが水を飲むのを急かして 喉に通り抜ける液体は 午前二時の海と同じ色をしていた 眼球と都市のあいだにプラスティックの板が 幾重も重ねられて、その板が増えるたびに わたしの足の裏は地面から少しずつ引きはがされていった 手のひらのなかに街灯がともる頃 にきみと待ち合わせがしたかった 今ではシャボン玉のなかに浮かんで 三叉路を探して 散歩をする保育園児たちを眺めて あの手押し車に乗ってみたかったな(わたしは幼稚園児だったから) などと思って、十字路の数を数えて カラーコーンを脳内で適切に配置して 歩道橋の上り下りの合計段数を予想して ドミノ倒しになった自転車を次々と起こしてゆく人の ゆっくりと歩を進める人が横断歩道を渡るのを守る人の 落ちているハンカチを縁石の上に載せる人の 倒れた人に声をかけるのをためらわない人の 背中に生えかけの羽を見た ビルの間に草が伸びていた わたしは東西南北を知らず ラジオの周波数をうまく合わせられず マスクがずれて正しい言葉が見つからない 二十世紀の尻尾に生まれ 二十一世紀に四則演算を訓練し、文字を覚え、美術に触れ、文学を読み、哲学を学び、ノー トパソコンのキーボードを叩き続けて 詩あるいは免れ得ない死に向かって ただ垂直に上昇するけれど 昇る太陽がまぶしいあまりに すぐに地上に突き落とされてしまう じたばたと四肢を揺れ動かして 地団駄を踏む、情けのなさを きみは見なかったことにした コートのポケットにペットボトルをねじ込んで 明け方にコンビニエンスストアまで歩いた 国道をまばらに走る車のうちの一台の 車体の赤が きりきりと追い詰められて、しぶきを上げた 返り血を浴びたわたしのコートもまた もともと赤かったのだった 歩くほどに赤の一部は濃さを増していった ほとんど黒になってもまだ、コンビニエンスストアは遠かった 手近な人をつぎつぎと恋人にするきみの家には コンビニエンスストアがすぐ近くにいくつもあった 便利さに見放されたわたしのコートに付着した血も そろそろぱさぱさに乾いてきたころだ 顔を上げると太陽がすぐ目の前に あって、皮膚がじわりと汗ばんだ ふいに体温計をかざされて電子音が響いた 三十七度を超えていて足止めを食らった 水と血を交互に飲んで、平熱に戻し 歩を進めるけれど コンビニエンスストアはいまだ遠くて 赤いコートは次第に重さを増して ペットボトルの水はあとふた口分しか残っておらず それもすべて道端の草にあげてしまって 途方に暮れて歩き続ける道すがら、背中に羽の生えた人が 新しいペットボトルをそっと手渡してくれた 開封したはじめのひと口を 目が合った野良猫にあげて 脱げた右足のバレエシューズを履きなおした 著者 川窪亜都 発行所 七月堂 発行日 2023年9月30日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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声霊【新本】
¥1,540
橘麻巳子詩集 【作品紹介】 待ちぼうけの空には 孔だ 日が喰われたという話なら あとから知った (ばかね、 崩れ落ちる体系 足元に 齧ったような熱をもって 射られた光の毒かもしれず 隅々にゆきわたって どこからも吐かれなかったらどうしよう 息ができない (ばかね、へんなの でも 息もできない 五感を使いきったところに ふたつめの太陽が昇ってきたという話 ヒトのことばでなくていいので わたしにも教えてください (「孔」より抜粋) 著者 橘麻巳子 発行所 七月堂 発行日 2021年10月30日 A5判 109ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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本詩取り【新本】
¥2,200
近代の独創性神話を疑う 「本詩取り」は、僕の造語です。もちろん、和歌の「本歌取り」から作りました。この詩集では、全篇が例外なく「本詩取り」の技法で作られています。 「本詩取り」は、僕が新たに試みた作詩術の名称ですが、これは単なる小手先の技術にとどまるものではありません。新しさを追求してきた現代詩は、なぜ袋小路に入ってしまったのか。長い詩歌の歴史の中で、日本の詩は今後どのような方向に進むべきか。この本質的な問いに対し、僕なりの回答を提出したのが「本詩取り」です。(著者「本詩取りについて」より) 「有名な和歌や物語の一節を自分の言葉として応用することは、日本では正当の技法でした」と語る著者、西原大輔の日本の詩と、その未来への思いが凝縮された一冊。古きを知り、新しきを知る。過去の古典詩歌への敬意を示し、未来へ進んでいく。著者の情熱を写し取ったかのような鮮烈な造本にも惹きつけられるだろう。 「午睡(ごすい)」 夏の日暮れに目覚めれば 郷愁(ノスタルジア)の薄明かり 遠い記憶の天井に 亡き祖父祖母の声を聞く ―― 中原中也「朝の歌」改編 「古い恋の歌」 生臭い青春が去り 美しい記憶が残る 恥もなく歌っているのは 赤錆びた恋愛ばかり ―― 萩原朔太郎「題のない歌」改編 「壜を投げる」 大海原のデッキから 壜の手紙を投げ入れる まるで詩人が詩を書くように 誰かに届けと投げ入れる ―― パウル・ツェランの言葉改編 「初めて本を出した頃」 もうこれで死んでも良いと あの時は思ったのだが……… 人生は明日へ続く 明日へのきりのない夢 ―― 広島カープ応援歌改編 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 2018年1月31日 A6判 上製・函付 231ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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青草と光線【新本】
¥1,650
暁方ミセイ詩集 第31回萩原朔太郎賞最終候補 わたしはしかたなく/人間と恋愛をしていた 新たなる自己を発見し見つめてゆく暁方ミセイ。 夕暮れの光は私たちをゆらゆらとそこに佇ませる。 【あとがきより】 本詩集の詩を書いていた期間、ありとあらゆるものが存在することの価値について考えていました。したがってそれも反映されているかもしれません。だんだん精神の具合が悪くなってくると、まずは四六時中何かの悪い予感にとりつかれ、そのうち積極的に自分は悪しき人間だという証拠を探しはじめます。もっといい人間にならなければ、恥ずかしくない思考と行動をもつ者にならなければ、と思うのですが、一方で、それに激しく反発する自分が、わたしに詩を書かせていました。 【作品紹介】 花畑 あちらの岸にもまた 相似形の地獄が いちめんいちめん展開し 救いのないアラベスクがどこまでも展開し こちらの岸の怒りや悲しみと 相似形の地獄の花畑が どこまでもどこまでも続いているらしい そこを逃げ出す呪文はこう 思考で描くなにもかもは存在しない 陽光 浅い春のまぶしい陽射しと 雪解けの雫のたてる蒸気と 凍った椿のほどける濃い色 風に含まれるもうどうなってもいい冬との境の いまここで血液と酸素を巡らせる感じ そのすべても存在しないが 感じるのもまた本当だ 流れる水の一瞬をとどめられるのは想像だ 自由は その地点でいつでも豊かな風を抱いている 永遠にとまり 永遠にうごき そこに住むことができるなら わたしにひとつの文字が刻まれる 【著者プロフィール】 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 第48回現代詩手帖賞(2010) 第一時集『ウイルスちゃん」(2011・思潮社) 2012年、同作で第17回中原中也賞を受賞。 第二時集「ブルーサンダー」(2015・思潮社) 第6回鮎川信夫賞、第 33回現代詩花椿賞最終候補。 第三時集「魔法の丘」(2018)で第9回鮎川信夫賞受賞。 第四時集「紫雲天気、嗅ぎ回る 岩手歩行詩篇」(2019・港の人)に対して第 29回宮沢賢治賞奨励賞受賞。 著者 暁方ミセイ 発行所 七月堂 発行日 2023年3月25日 A5判 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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歩きながらはじまること【新本】
¥2,200
西尾勝彦詩集『歩きながらはじまること』 言葉の「森」がここにある 奈良の山で暮らす詩人、西尾勝彦のポケットには、どんぐり、石ころ、いろいろな形の葉っぱや木の実。たくさんの宝物がつまっているに違いない。 『朝のはじまり』、『フタを開ける』、『言の森』、『耳の人』に加え、私家版『耳の人のつづき』を収録。 いつからか 素朴に 暮らしていきたいと 思うようになりました 飾らず あるがままを 大切にしたいと 思うようになりました そうすると 雲を眺めるようになりました 猫がなつくようになりました 静けさを好むようになりました 鳥の声は森に響くことを知りました けもの道が分かるようになりました 野草の名前を覚えるようになりました 朝の光は祝福であることを知りました 人から道を尋ねられるようになりました 月の満ち欠けを気にするようになりました 遅さの価値を知る人たちに出会いました 一日いちにちが違うことを知りました ゆっくり生きていくようになりました 鹿の言葉が分かるようになりました 雨音が優しいことを知りました 損得では動かなくなりました わたしはわたしになりました (『言の森』より「そぼく」) 著者 西尾勝彦 発行所 七月堂 発行日 2018年3月7日 四六判変形 並製 112×155 本文 344頁 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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七五小曲集【新本】
¥2,970
時代に逆らい定型詩の小さな灯をともしてみる 黒船の大砲が轟くことなく、日本がまだ東海中の緑なすオアシスであった頃、学者はことごとく詩人であった…略…この詩集で私は、かつて儒学者が手すさびに漢詩をこころみた顰に倣い、七五調の日本語で四行詩を書いてみた。――序より 月がこんなに明るいよるは 独り静かに笛を吹こう 清き美の国 四季の国 衰えつつある古い国 (月下吹笛) 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 2011年10月1日 B6変形(124x154) 上製 149ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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掌の詩集【新本】
¥2,750
定型詩で心を余すところなく表現する 「この詩集では、専ら七五調四行または五七調四行の定型に拠って詩を書いています。計四十八文字のこの形式を、私は前の詩集で「七五小曲」と名付けました。『掌の詩集』は、その『七五小曲集』(二〇一一年)の続編です。」(「七五小曲について」より) 著者が「自分の心に最もかなった形」と語る七五小曲で描かれるのは著者の人生全て。縦横無尽な表現は「定型」は「制約」ではないという事を雄弁に語り、その魅力を教えてくれる。人生郷愁編、春夏秋冬編、列島地誌編、生老病死編、学問文藝編の五編。平安時代から近世にいたるまでの著者の考察をまとめた「七五小曲について」を収録。 少年に 一人前になるために 越えねばならない恥の道 僕は秘かに知っている その峠路の地形図を 林間逍遥 病得て林を歩く かさこそと落葉ささやく 遥かなり青雲の日々 今こそは人生の秋 朝の出勤 体は先に抜け出たが 心は蒲団の中にある 職場へ赴くバス電車 身柄は定時に運ばれる 自ら嘲る この家の主人は詩を愛す 雪月花に遊ぶなり しかし給与が薄いので 梅干し齧って瘦我慢 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 20年8月6日 95×135 上製 箱付き 245ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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星綴り【新本】
¥3,300
倉本侑未子詩集 地球という惑いの星で織りなされる生と死の循環 倉本侑未子の紡ぐ言葉は静かな音擦れ。 病院の待合室、遠くで響くインターフォーンの音は空気を押し流してゆく。 老樹の傍らで座り続けたい、そんな思いを引き出すのは、森のかなたに消えた歌声。 錨を降ろす場所を探す日々の声はモールス信号となる。 【作品紹介】 潜水 蔦の葉が涸れかけたプールの底へ 一散に手を伸ばす もう届かないだろうか 潜りつづけた 自身にもっとも近い場所 そのままでいて欲しくても 息継ぎのたび 様変わりしていく風景 けれど水の中の地下室は いつも同じ ひんやりした半透膜の壁は 地上では漏らせない声を そっと潜(くぐ)らせてくれた 銀色の吐息とともに 目も耳も心も 何もかも溶かしこみ わたしは揺らめく水溶液になる 消えていく水紋 間遠になる水音 心拍の心地よい危うさ…… 打ち解けていた薄明かりが いつのまにか遠ざかり 強い陽射しが照りつけると 水はするすると引き いまはもう指先を濡らすだけ ひび割れたプールサイドで 蔦の葉が底を見下ろしている ――逃げ水? 水銀(みずかね)色の余滴を掌(たなうら)にしまい込むと 遥かな鈴の音が消えがてに響く 冬の幾何学 蜘蛛よ かぼそいモノローグは 絹糸のゆらぎ 螺旋のうねり 漆黒のなか 補助線も引けずに どうしたら聴きとれるだろう 声の大きなものたちが 肥大した舌をだらりと垂らし 地上が弛緩する頃 声なきものの顫える忍耐が 脈打ちはじめる 痣だらけの空と地のあわい 連綿と継ぐ自問自答 不断に傾ぐ多角形 今宵 凍てつく大気のもと 六(りっ)花(か)が無言の合図を送ると 君は手製のカタパルトから 馭(*)者座めざして 空(くう)を蹴る *馭者座(Auriga)…五角形をなす北天の星座 真冬の夜に南中する 著者 倉本侑未子 カバー装画 長谷川潔 発行所 七月堂 発行日 2023年1月15日 A5判 208ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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じぇるも い のちぇ【新本】
¥1,650
【内容紹介】 荒野をさ迷う私の今は夜 兄が亡くなって、今年で五年になります。 グリオブラストーマとは、脳腫瘍膠芽腫のことです。兄が救急搬送された先の病院で余命一年半、五年生存率は5%と告げられました。現代の医学でも治ることは難しい病気です。 つい最近になって「なぜ、わたしは兄の闘病記ではなく詩というスタイルを選んだのだろう?」と不思議に思いました。わたしにとって最も〈リアリティ〉を表現できる手段が詩だったから詩を選んだのだと、今思っています。 わたしの感じたあの頃の現実は夜の記憶ばかりです。タイトルに夜(のちぇ)という言葉を入れたのもそれが理由です。 (著者 あとがきより) 【作品紹介】 さあばあだうん (中原中也の声がします) 脳がさあばあだうんして 海辺の飛行機は健全です 墜落する天使はミクロの世界に向かうため 復旧の目途は現在経っておりません 脳内には静かなブロッコリーが満ちあふれ 日々増殖して 世界を宇宙を浸食していきます やがて宇宙は美しいみどりにむせ返ります 植物に慈悲があったならば 脳はさあばあだうんしなかっただろう わたしはひかる宇宙のブロッコリーをもぎ取って一口齧り 兄の永遠に復旧しない脳のことを思い浮かべました Noche そこは暗闇というよりは 液状の夜 よく磨った濃墨でできた湖に そっと右足を入れる 左足も入れる とろりとした夜の中に 身体を沈めて目を閉じる 伝えたかった言葉が夜に溶け出してゆく それらは文字になる前に形を失う そしてからだは空っぽになって 眠りに落ちる 右手に握っていた墨が するりと湖の底に吸い込まれていった 深い夜の底に 音の消えた湖に 月が静かに溶け始めた 著者 荷田悠里 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判変形 71ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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しかが【新本】
¥1,100
【内容紹介】 これは、一冊のオルゴール ページをめくり、言葉を追ってゆくと、 いつの間にか音楽が奏でられていることに気づく。 手回しオルゴールのハンドルを回すように楽しめる一冊。 【作品紹介】 くる しか しか こない した した した した した した の みみ こい こい しか こい しか こない こない で こい っ て き かない き かない きかないから か な の ないから どうし どうしが どうし て どうし ても どうし でも ほしい めいし じゃ ふくし じゃ なく う ごく どう し う ごく もの どう した したって お したい して した って うごく もの どうし たい どうし ても いつ いつも いつ も 著者 小沼純一 発行所 七月堂 発行日 2023年5月19日 B6判変形 39ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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秘剣まぶさび【新本】
¥1,980
【内容紹介】 ジョイスへ秘剣で挑む/光る滝に飛びかう超絶短詩 本詩集の発想の原点には、空海の『般若心経秘鍵』がある。般若心経の言葉を解釈する空海が、仏などの尊格を自在に飛びかわすさまに、驚嘆したのである。ワタシも、せめて言葉を剣のまわりに飛びちらせてみたい。そう妄想したのである。 超絶短詩とは、一つの語句を、擬音語・擬態語を含む間投詞と別の語句とに分解する詩型で、すでに三〇年近く前から提唱し実践してきた。今回は、各ページに、語句をいくつか組みあわせたものを縦一列に配列し、それを分解した超絶短詩を、縦線の左右に配することにした。いちおうの数え方としては、一ページに一詩篇となる。 (「あとがき」)より 著者 篠原資明 発行所 七月堂 発行日 2023年2月3日 A5判変形 105ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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子犬は跳ねて 空の色に溶けた【新本】
¥1,980
【内容紹介】 生きる神秘 そのアイロニーを超えて 私たちは不確かな日常を生きている。 私たちはヨブの日々を生きているのかもしれない。 「受難という永劫の受動態を、一瞬だけ受動態に置換するモメント、それが詩である」野村喜和夫の栞文より 【作品紹介】 「紫陽花の森」 ベッドに腰掛け、テレビの画面を眺めていた母 「ひさしぶり わたし 誰だかわかる?」 目をあわせずに、窓の外に視線を移す小さな背中 介護療養病棟の真四角な天井に 無言の時間が流れる 「散歩 行こうか?」 杖を片手に立ち上がった母が着ていたのは 袖口がほつれたTシャツ 父があわてて選んだのだろう 私は着ていたレモン色のカーディガンを脱いで そっと肩にかける 「あめ ふってないのね」 つぶやきながら母は、曇り空を見上げる 裏庭へ回ると、小道の脇に幽かな光を放つ一群れ 紫陽花だ 母の顔がぱっと輝き 私の手をひいて転がるように近寄った レモン色に背中を丸め 色褪せた花に頬をよせて、いつまでも眺めている (知らなかったよ 好きだったんだね あじさい) 散歩から戻り、ベッドへ倒れこむと 花を眺めていたときの横顔で 小さな寝息をたてた 帰りのバスの後部座席 振り返ると、紫陽花がこんもり茂った一角 戯れながら折り重なる花々が、森のように咲き誇り 建物の白壁を鮮やかな群青色に覆い隠している (守られていたんだね 花たちに) ガラス窓の向こう 冴え冴えと浮き立った紫陽花の森が 曇天の空まで 広がっていて 「きみはいつも」 けっこんしようか こいぬのみみもとに ささやいた けっこんってなあに てれびをみながら こいぬがたずねた いつまでも いっしょにいようねって おやくそくすることだよ わたしのひざのうえに あごをのせたまま こいぬはちいさく あくびをした * * きょうはこれがいいな こいぬがせのびして コンビニのたなから トマトジュースをえらぶ かいものかごいっぱいに ビールとぽてちもほおりこむ レジにならんで 小銭をかぞえるわたし ガラスとびらのむこうで そらをみあげるきみ きづいてたよ きみはいつも ざわわ ざざざわ かぜのおと さわがしいから ゆうぐれのさんぽは ここまで 著者 佐野亜利亜 発行所 七月堂 発行日 2022年9月27日 四六判 121ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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襤褸【新本】
¥1,650
【内容紹介】 まとってきた「時」はわたしの襤褸 辞書を引くと「襤褸」とは「ぼろぼろの布」「ぼろ」と出てくる。 野間明子の生きてきた日々は何気なく語られているが どのような運命もさりげなく受け止めてゆく。 【作品紹介】 橋 狭い橋の上ですれ違ったとき 赤ん坊を抱いた女が転げ落ちた ぶつかったわけではない そっとのぞくと ずぶ濡れになった女が赤ん坊を抱いて流れのなかに立っている ああ けがはないようだ ほっとしてまた橋を渡りかけると 見損なったわ 後ろで声がする 驚いて振り向くと一緒に歩いてきた女が 背を向けて引き返していくのだった ああ 失敗した 俺が悪いんだ 女は決して振り返らず どんどん遠ざかっていく ふたりが一緒に歩いてきた道のはじめ 小さく川が光っているあたりまで引き返して 光のなかへ見えなくなった 夕映 手探りで鍵を開けると 赤い部屋に息子が突っ立っている 父ちゃん 俺やっちゃった やっちゃったって 母ちゃんはどうした 息子を押しのけて死体を捜す なぜ 死体がないのか なぜ 死体を捜しているのか 夕映が喉を破って俺からも噴き出しそうだ 幽霊 黄色くなるんだ 見てしまうと 白い壁 バターを擦ったみたいに 白い 天井とかも それって あれですかね もろびとこぞりてを歌うか 目を瞑って家事をするとか 大丈夫かいおまえさん 外出てたほうがいいんじゃない うんでも家にいたいから 黄色くなるってことですよね 歌うよもろびとこぞりて だいじょうぶ小学校で演った貧乏靴屋の親爺 帽子を胸に当て主は来ませり主は来ませり 夜中のトイレも怖くない 黄色くなる バターを溶いたみたいに 見てしまうと 今日なんか絶好の洗濯日和で 朝から干して真っ白く乾いたシーツ 午後まで干してふかふかの蒲団に掛けて 思わず 見たらば バターを流したみたいに 滲んで 泛ぼうとする誰か知らない 来ないで 来ないで拳握って叩いて 叩いて叫んで叩いて叩いたら 移ろう夕光のなか 黄色褪せて 黒ずんで 悲しげに穴の眼を瞑って硬直したヒトのかたち 枯枝の両腕広げ 別になにもしないんだけど なにか悲しくてね 目を伏せてももう消えないんだ 著者 野間明子 発行所 七月堂 発行日 2022年7月17日 A5判変形 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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手癖で愛すなよ【新本】
¥1,870
犬飼愛生詩集 それぞれの日常を消費してしまわないために 【作品より】 B面 春が始まった いつまでも終わらない夢みたいに 町のなかを小さく歩いて食糧を買った 遠くのビルからは拍手 東京は青くライトアップ あの人のマスクは小さすぎて あの人のマスクは大きすぎて 私たちは棒グラフになって 週末には画面の中で乾杯する 子どもたちは日付を忘れて 暑い日にはTシャツを着て どうぶつのいる森へ入って行った 大人はときどきニュースを見る事をやめた 足元に貼られた足型にぴたりとつま先をそろえて待った 二月の終わりを生きながら 聴いたことのない音楽の流れる春だった まだこの世にないメロディー どこから流れてくるのかわからなかったし 怖くて 家の中にとどまった それで私たち、また画面の前で落ち合ったりした さくらは可憐に咲いて知らぬ間に散ってしまったけれど 私たちは B面のような世界を生きて 閉じていたとびらを開け放って 呼吸している 私は食いしん坊 食べ物がでてくる詩が多いですね、と言われた ボロネーゼ 生姜の佃煮 ケーキ 寿司 ポテトサラダ ゼリーポンチ リンゴジャムパン… もっとある たしかに 食べ物の詩をたくさん書いてきた 食いしん坊の私には 作ることで閃いて 食べることで開けたいくつもの扉がある キッチンに立って、わたしは料理を作る 思考は分裂しながら フライパンの中で炒められる しんなりして 無心で火が通って行く様子を眺めている 場面を刻んで塩で揉む 味付けは、いつも難しい たまには 誰かが作った おいしい料理を食べて扉を開く あの時 一緒に食べたことを思い出す 善や悪や偽りや本心など 消費したんだよ 時間と感情もね 君の口からでた意外なことば 掬iい取ってスプーンで自分の口に運ぶ 毒でもいいんだ 毒を喰って書けるなら本望だ また一緒にごはんを食べましょうね 著者 犬飼愛生 発行所 七月堂 発行日 2023年8月25日 四六判 88ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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還るためのプラクティス / インカレポエトリ叢書22【新本】
¥990
今宿未悠詩集 第1回西脇順三郎賞新人賞 受賞作「猿」収録 息を吸って吐くこと は、言葉に回収されなければいい 【作品紹介】 採血 三叉路 がうまれますこれから注射針もう一つの道になって 腕にもりあがる血管のひとすじ、 何度も確認するように撫でる指先、 アルコール液を含んだガーゼは冷たくて、 覆いかぶされる腕 血管のところ 「いたい」 いたいことは、始まる前からわかっていたし、始まった後やわらいでいく 注射針あたらしい脈になって しゃばしゃば 外に流れ出ていく、液体 老朽化したダムの壁と壁のあいだから 豪雨に耐えきれず 外に流れ出ていく、 がさついた映像を眺めていた 頬杖をついて 生中継を 遠くのことだと思った 雨の匂いは、雨が降る前にわかる たとえば氾濫する川のこと マンホールから溢れてとまらない下水 骨の折れたビニール傘 暴風が 犬をまきあげて 攫ってしまった 「ふらつくかもしれないので、おちつくまで椅子にかけてお待ちください」 腕にバンドを巻かれているのは止血のため 待合室の椅子のやわらかく 精神科は精神を整えるための理想的な空間です パウルクレーの絵画、クラシック音楽、淡い水色の壁紙 paul klee klee くれ ください 犬 犬を 追いかけるぞ エスカレーターを駆け降りて豪雨に出ると風が髪をまきあげる髪は頭皮に繋がれているから攫わ れない 「あぶない」 あぶないことは、出る前からわかっていたし、出た後も続いていく 「そんなこといわないでっ」 叫んで走り出した、握りしめた処方箋どろどろになって繊維になって溶けていくのを薬局の人がサンダルを突っ掛けて追っかけてくる ここに持ってくるまでにそれ溶かしちゃいけないんだよお! いやだ犬を迎えにいかなくちゃいけないんですものわたし! いまごろずぶ濡れて雑巾みたいになっている犬かわいそうに 河原にいるかな そう河原にいる 河原にいってみようか! 薬局の人の手を引っつかんで風に乗る ひらり舞う 轟轟轟轟の風に乗れば意外とかろやかだ! 氾濫する川のこと 河原に向かいますわたしたち河原に向かえばきっとそこには犬がいるはずです助けてあげなくちゃならないかわいそうだ犬だから自分に何が起きているのかすらきっとわかっていないだろうお薬もらうのその後でいいですので自律神経とか整えている場合じゃないんです精神より生命の方が優先すべき事項でしょう! 氾濫する川のこと ほらあそこが隅田川だ! 生中継でさっき見たけれどもこんなにも近かったなんて知らなかったよもう他人事じゃないな、ああ、あんなところに雑巾みたいな犬がいる! 犬をください処方箋はもうこの頃には溶けるどころか握っているものはもはや何もなかった、薬局の人のサンダルは気づいたらふき飛ばされていた、でも犬がいますので大丈夫です犬は生きております! ほら濁流に怯えている茶色い水にかわいそうに今助けてあげるから風の流れから離脱したい! しかしながら離脱できない! どうすればいいんだ私たちずっと風に乗ったままこういうのって普通犬を助けようとした人も一緒に濁流に飲み込まれて行方不明になる理想的な結末からほど遠く! 自律神経が不安定な私とサンダルを飛ばされてしまった薬局の人がずぶ濡れになった雑巾みたいな犬を見ながら、空中で混乱している! 著者 今宿未悠 発行所 七月堂 発行日 2023年8月20日 四六判 98ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あかるい身体で【新本】
¥1,650
海老名さんの詩を読んでいると、いつのまにか呼吸が深くなっていることに気がつきます。 読み進めていくほどに身体が軽くなっていくような気さえしてきます。 それはきっと、他の誰に与えられるものでもなく、自分でみつけることが出来たからこそ大げさに表明しなくたっていい。 そんな淡い光を放つ、やわらかな肯定感のように感じるのです。 この一冊の詩集を包み込んでいるものは、そのようなものたちなのだと思うのです。 「灰色の猫」 足がしびれて朝です もうこれで最後と繰り返して フローリングの床を滑ってしまう 終わりにしたい物事を 持っていることは 少し背中を丸くする わたしは装置なので 故障しやすい部分もあるし 通り抜けていくいろいろの感触を 受け取ったり流したりする 言葉は わたしが生めるものではなくて 組み合わせだけを考案できる 研ぎ澄ました指先で感触を編んで 片隅から放つ 重さは絡まり合ってほどけない糸 背中に猫を作っている 抱きかかえられることを拒んで そのくせ爪を立てて離れない わたしだけの猫 春先のすーっとした冷え込みは ふるい灰色の記憶を引き出す 再生を止めたいのに 毎年律儀に胸をひっかきにくる 終われないから そこに とどまる感触があって ちいさな子どもの身体だったことを 覚えている 灰色の猫を背負って わたしは続いていて 今日も 世界の手を取る 著者 海老名 絢 発行所 七月堂 発行日 2023年8月20日 四六判・小口折・帯付 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鳥のように イルカのように ソネとバラード【新本】
¥1,650
【内容紹介】 井上舎密詩集 「詩と音楽に一生浸っていたい」詩人の魂 小説『パートナーズ』(文芸社)を遺してこの世を去った著者のもう一つの遺作。 詩人・井上舍密の足跡がここに在る。 本に埋もれた日々の中で「存在と時間」を謳歌したに違いない。 【作品紹介】 友 メタリックの車が滑り込んでくると 開け放しの天蓋が閉じられて 作業帽髭面繋ぎの服装の人物が 手を振って下りてくる 満を持しての論議が始まる 相手は譲ることを知らない好敵手 激昂するとテーブルを叩くことも すべて織り込み済み 思いの丈を語り終えて 口頭禅の境地に近付いたと思うと 反論の機会を相手に委ねたままいつしか 安らかな寝息を立てている ジェット・コースターに乗って友が去り わたしは回転木馬とともに取り残される 流木片 手稲山系の源流辺りから 春先の出水によって搬ばれてきたのか ここ中州まで辿り着いてすっかり 縁の摩滅している流木片 一日中聴いていても飽きない 砂利のさざめきのトレモロに載せて ゆったり口遊み始めた流木片の語りを そのまま口伝えできるものなら 渓谷渡渉中の若いカップルが 増水の急襲に遭って脚を掬われ すぐにどこまでも流されて行った しばらくは一緒にやがて別々に 流木片の問わず語りに聴き入るわたしを いつしか水が浸し始めているらしい 著者 井上舎密 発行所 七月堂 発行日 2023年7月7日 四六判 176ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ひかりのような / インカレポエトリ叢書21【新本】
¥990
栁川碧斗詩集 第56回横浜詩人会賞受賞 【作品紹介】 曙光 それは深雪によりさ迷うよ うな状差しが産室を定めと りとめのない胚胎が重なり 嗚呼水源の幻のようではな いかと産褥を繕う助産師は 姿見に振り向く借景が空閑 で見付ける面影はきっと褪 めないあなたに朝焼けの光 著者 栁川碧斗 発行所 七月堂 発行日 2023年7月20日 四六判 94ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鬼は来る【新本】
¥1,650
【内容紹介】 千石英世詩集 そのまま夜空の中をおゆきなさい 夜の奥が西だから 【作品紹介】 旧庭の教え 西宮苦楽園(にしのみや くらくえん) 大きな靴に 小さな足をしのばせて 庭を歩く やわらかなつま先が靴のなかをまさぐって かたい拳になってゆく 靴のなかがすべる つま先が 小さな風を追い ひるがえる 小さな足 驚愕の真昼となったのだ 苔の緑が美しい庭だった 大きな靴は人を不幸にするのか 小さな靴に ガラスの色を塗る 塗り絵のなかの小さな靴だった きのう見た絵本では肌色だった あした見る絵本では そこは真っ赤に焼けた鉄になる 靴が人を不幸にするのか いったいわたしは何足の靴を履きつぶして わたしを脱ぎ捨ててきたのか 履かなかったスニーカーがある だから靴ズレ姉妹と付き合うことになったのか 買わなかったエナメル靴がある だから義母の外反母趾を慰めることになったのか 仏足石という冷たい大きな足にさわったことがある そこにはホトケの目が深々と刻印されていて その奥は水でぬれていた 植木屋の地下足袋が流れるように走る美しい庭だった ふかい苔の緑のなかに 靴が倒れている 眠りの終わりを夢みるように 翳りはじめた真昼の奥に 著者 千石英世 発行所 七月堂 発行日 2023年7月7日 A5判変形 160ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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彼女の劇場【新本】
¥1,650
【内容紹介】 誰を好きになるのかを 選ぶことはできない そうでしょう? 女の体をもって生まれて生まれてきた以上それにまつわる経験や感情が塵となって積もり、時には噴出したりさみしく漂ったりするわけです。ここではそんな地層から生まれた棘や毒、伏せた眼差しを主に集めています。書きものの常で、各作品の主人公たちはすべてが私というわけではありません。 (「あとがき」より抜粋) 園イオ第一詩集刊行 「三億光年の闇が広がる」中にスポットライトは当たる。 【作品紹介】 真夜中のチェリーブランデー とろみが臓腑に落ちるのを見届けたら 二の腕が弛緩するのを待つ 全身にささった針が 一本また一本と抜けていく金曜日 頭の中の「ねば」「たら」「のに」の 分厚い石壁が ずずっと四方に退く 腰がすとんと落ち 頭皮が鶏頭のように楽園へと開花する 真夜中のチェリーブランデーは 痛み止めであり眠り薬 私は何を鎮め 何から逃げていこうとしているのか そこんとこよく考えないと まあいいや 明日考えよう エヘヘへへ 私は真綿色の花びらのベッドに ふにゃふにゃ沈んでいく 守られているのが当然といった体で 月は夜空に煌々と光らせておいて 土曜日の朝にはチェリーブランデーは 罪悪感という名のハイオクガソリン 朝もはよから生産的かつ能率的に 頭のすみに積もっていた「ねば」を 一気に片づける 家中の窓も床も 朝イチにピカピカに磨いたあとは すばらしい詩が三篇もできた 天才か? これからコーンフレーク食べて 白い犬と笑いながらサイクリングしようか アメリカのテレビCMみたいに このハイオクは三日はもつ そしたらまた始まる ルビー色の螺旋 化身の巣 わらわらとわき出ては帰って行く 水をかけても線香をたいても ちょっとあわてるだけで 一直線のねじまき時計のように チクタクと隊列にもどる 蟻が部屋を這う 東の窓の下に住処をつくった さてはあいつか 亀虫 蓑虫 手長蜘蛛 使者はいろいろと現れては消えたが 蟻を寄こす奴ははじめてだ 殺虫剤をふきつけると 絶叫が聞こえた 一瞬激しくもがいたあと 屍が累々と毒の川に打ちよせる 蟻を蟻となさせしめたのは 忙しく動く細い手足だったのか 一匹だけが生き残り 床に落ちた三日月の爪には目もくれずに 手の甲から二の腕に螺旋を描く 帰れ帰れ東のほうへ お前が探しているものは もうないよ 肺の底まで息をためて 一気に吹き飛ばす 川のむこう 24・3キロメートルのかなた 彼の部屋の西の窓には 私の熊蜂がぶんぶん唸りながら 曇りガラスにぶつかっていることだろう 男は眉をひそめ 青い目で見つめていることだろう 著者 園イオ 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判 88ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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夢にも思わなかった【新本】
¥1,650
【第55回横浜詩人会賞を受賞】 佐野豊詩集 「いちばんやさしい重み」 迷うことをする。 誰かといっしょに。 私といっしょに。 たとえ今日も答えにたどり着かなかったとしても、そんな日々が、いつしか帰る場所になっていく。 本作をお読みいただき、秋山花さんに描き下ろしていただいた絵を装画として使用しました。 栞文は、佐野さんが初期の頃より通われていた「詩の教室」主催の松下育男さんです。 ぜひたくさんの方にお手にとってご覧いただきたい一冊となりました。 どうぞよろしくお願いいたします。 【著者コメント】 この『夢にも思わなかった』という詩集を読んで、いきている切なさも、迷いながらの毎日もいいんだと、詩のことばっていいなと誰かに思ってもらえたら幸いです。 詩のすきな方だけでなく、本がすきな方、こころのことに関心のある方にも届いてくれたらいいなと思います。 【作品紹介】 「ただなか」 いつのまにか 洗濯物の干し方も覚え 自分で珈琲を淹れている 天気のいい休日に はりきって台所に立ち レモンケーキをつくる その傍らで僕は 詩を一つ つい何日か前 腕の中に 泣いているきみを包んだ夜があった べつに もう大丈夫になって けろっとしてるわけじゃない そのことを知っている あわだつ ただなかに ふたりまみれて まだ午前中 昼はチャーハンだったね かまぼこ マスターからもらったやつ まだすこしあるよね 一日三度 飯を食い 歯を磨く そうだよね と 思うんだよ 一日にたった三度でいい きみといるただなかのこと ちゃんと思っていたい 毛布のような マントだということが わかってくるから ほら こうばしい ただなかの香りが こちらへ伝ってきた 著者 佐野豊 装画 秋山花 栞文 松下育男 発行所 七月堂 発行日 2023年5月26日 四六判 106ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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水門破り / インカレポエトリ叢書20【新本】
¥990
森田陸斗詩集 もう この身体から降りようと思う 【作品紹介】 構築された世界の上で 捏ね繰り回された惑星に生まれて 地球のどこを切り取れば ガーターベルト、キャノン砲、プリントシール機、メンチカツ、リニアモーター、求人誌、 骨も皮も取り除かれて 牛の名前が割れる世界だ したたる命のにおいがしない いや、ぼくは一度だってここで嗅いだことはないのだ 加工済みの場所に生まれ立ち(オフィスビル枯れても) 感触の鈍い鋪道を行き続け(芽吹かない) 一体いつから建物と建物の(ガードレール風吹いても) 隙間を道と呼ぶはめになったのだろう(そよがない) 矯正した歯列と同じ等間隔に植えられた(電波塔見えない花) 街路樹は表情なくゆられる(散らさない) 大皿のおかずは不確かな善意で残されて(マンションこれ以上) 捕虜のように静かにたえている(生長しない) あらゆる装置の微音を聞くため、人は羽音を立てる虫を潰す もはや人間生物は 自ら構築した世界を廻すため、世界に構築されている 構築された世界の上で ぼくの身体だけが 未構築のままだ 鉄と灰と死骸と皮脂を 捏ね繰り回して出来た密室は 絶え間なく駆動音がしているから ぼくはぼくを動かす心音が聞きたい ドアを開けると 誰にも所有されていない空 気のにおいがした ぼくは 裸足のまま アスファルトの上を 走る 生きた空気が肌に当たる 薄クリーム色にたなびく これが 風なのか ふわりとした抵抗を進むと 去り際 反動で少し押される 倒れたボトルから血は零れ どぷっどぷっどぷっどぷっと 脈打つ 空を搔き 脈打つ 冷気吸い 脈打つ 影蹴り退け 脈打つ 影踏み掴む 喉は呼吸のはやさにひりついて 鉄管を飲み込んだようにまっすぐ冷えている 雲に一滴の墨がにじんだ 空の湿ったにおいがする 小石が やわらかく めりこんでいく へこんだ足取りは前傾のまま逡巡する 足の裏に半透明な膜の層が形成されて 段々と裸足の純度が遠のく 遠く、屋根をつく、まだらな音がする 黒く汚れた足の裏は影と癒着しながら ぼくをしっとり沈下させる 長く伸びた影に指でつつかれた 腕に水滴がひと粒くずれている ぼくは濡れたシャツが身体中に張りつく感触を想像して 濡れたシャツ? シャツなら もう 濡れているじゃないか 脈の引いた身体に冷たい心音が響く 表皮のない水からは生臭い命のにおいがする 視野の淵に 何か、何かが染み込んできて 遠い、建物が、広い、道路が、空が、どこまでも巨きい ぼくの身体は、 こんなに小さかったんだ 硬化した足の裏で 黒くぼやけた瞳孔と 目が合った 著者 森田陸斗 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ヴィンセントの窓辺【新本】
¥1,980
都築直美詩集 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの魂に捧ぐ 世間体に一切こだわらない孤高の天性の画家都築直美が描く日常。 原画をどこかにやってしまう。 お花屋さんで花に見とれて用事を忘れて帰宅してしまう。 猫に添い寝をして寝てしまう。 (実は猫にとんとんしてもらっている) 真実を見つめるまなざし。 現実をすべて受け入れ、涙まみれで台所仕事をしている。 一篇一篇の作品に愛おしさがあふれてくる。 【著者あとがきより】 思えば、断崖絶壁の上で天から槍が降り注ぐような暮らしの中でも、時に、口笛吹きながら生きながらえて来られたのは、悲観と楽観が同居し諍い続けて止まない、混沌とした自身の多面性のおかげかも知れません。 【作品紹介】 鳴り響く 偽善漏れ警報器は 鳴り続けているのに 誰が止めるの その部屋に そのガスが 充満するその前に これが悪魔のエンディングなのか? その醜悪さ 掌握しても 為す術なしなら 投げとけよ その辺の野っ原によ 苦しかろ おめぇもよ 悪魔に魂ごと 乗っ取られてんだもんな 屈辱のシール 全身にペタペタ貼って なにやってるんだよ 剥がせよ 皮膚と同化する前に 12月の音 ゴキブリの赤ん坊 一目散に逃げていく 黒胡麻かとおもったよ 君たち 小さいのに 足が速いね 見事だね 走りがね 母さんのとこに 帰るのかい? 世界はね 心の臓突き破るほどに バクバクだよ クレイジーでね 赤と黄色が多い ああ‼ ものすごい 極彩色だ だから目が痛い 昨日から いや 実は…もっと前から 抗生物質が大事なん? ならば目薬 強いやつ 点(さ)してたら 猫が笑う 「わらわないで」 猫たち なけなしの自尊心 粉の様に散り 雪になって降るから 僕は厳粛な気持ちになって ただただ 空見上げて 僕自身の 12月の音を 聞く 著者 都築直美 発行所 七月堂 発行日 2023年4月15日 菊判変形 132ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ガーデニアと とかげ【新本】
¥2,200
わがつまようこ詩集 丘の上の空がすべて からだを包むこの風がすべて ここは現実の世界なのか、夢の中なのか。 植物や動物たちと共にある日々は静かなユーモアで語られる。 リズム感にあふれる言葉で私たちの避けがたい日々を体験させてくれる。 【作品紹介】 麦を渡る 麦を渡る風に乗り 芒のすれすれを 滑走するツバメ 新調の服を着ている 麦を渡る風を訪ね 穂のあちこちに 何か配達している紋白蝶 キャベツに電話をかける きじが鳴いている おおらかな喉で 切りたての拍子木を 打ち鳴らしている 麦を渡る風の行き交いの ひときわ明るくさわぐ あのあたりか しきりと ヒバリも鳴いている 風を昇る船の 行き着く空のどこか ぴちぴちと光をつまんでいる 麦を渡る風につながって 幼い子らがならんで通る そろいの帽子のうなじに 日よけの青い布の跳ねて てんとう虫 びっくりして 小さなジェットエンジン 羽音の唸り上げ 飛んでいった この左手の中指の先から 美しい話 こわれた猫は 垂れるまぶたを持ちあげて つぶれた小犬を見やっていました ねじがゆるんで外れかけた 目玉をぶらぶらさせながら つぶれた小犬は 斑点だらけの胸の毛に ちぎれた小鳥を抱き寄せていました せめても毛布になりたかったのです ちぎれた小鳥は 初列風切羽のあざやかに青かった小鳥で 昔は美人のコロラチュラソプラノ ちぎれても 花の小枝をくわえていました 右足を砂袋のようにひきずる少年は こわれた猫を首に巻きつけ つぶれた小犬を上着にくるんでそっと抱き ちぎれた小鳥はハンチング帽の内に安らえて 酔いつぶれしゃがみこむ老人は うちすてられた椅子のように通りの際で 歳月の涙の澱でふさがった両の睫毛をこじあけて 旅立つ少年を見送っていました 忘れられた女が すり切れた孔雀模様のショール越しに 低く語るところによれば 少年のポケットに 小鳥がくわえていたのと同じ花の 小枝をひと枝挿して飾ってやりたかったそうです 著者 わがつまようこ 発行所 七月堂 発行日 2022年10月27日 A5変形 132ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ミントとカツ丼 / インカレポエトリ叢書19【新本】
¥990
牛島映典詩集 とうきょう、はいまおれの暮らす街だということです 【作品紹介】 デミオム 夜うちへ帰ったらまず音楽を流す頭のなかで ぐるぐるしている言葉をおちつかせるために YouTubeかSpotifyでシャッフル再生に設定して 聴くともなく聴いている音楽を流したまま食事をする それで思いだしたすこしだけ昔のできごと 近所の馴染みの店から持ち帰りしてきたオムライス いつもデミグラスソースのオムライスをデミオムと略して注文する おれが大学に入ってこの街へ来たときからずっと通っているその店の おっちゃんはおばちゃんといっしょにわずかな人数でその店をきりもりしている そのおっちゃんの顔がゆがむのをはじめて見た去年その店は学生街にあるんだけど あっというまに病気がはやって大学には学生が来なくなって客もすごく減ったという でもこればっかりはどげんしようもなかもんねえ というおっちゃんの声がとてもかなしかったおれは その店でおばちゃんがつくるとろとろ卵のデミオム六百円が食いたいいつでも 心の調子ときどき身体の調子は自分でどうしようもないくらいどうにもならないもので 飯も食いたくないくらいしんどい時でもそれだけは喉を通った それがたとえ七百円になっても八百円になっても千円になってもおれは食いたい その街を離れたいまでも いつでも食いにいきたい というようなことを思い出しながら食事をとっていると プレイリストから流れたもう五十年近くも昔の曲が とかいではじさつするわかものがふえている といううたいだしでおれは箸をとめて静かにきいた数分間最後まで飛ばさずにその曲を ききながら考えていた いかなくちゃきみにあいにいかなくちゃきみのまちにいかなくちゃ おれはテレビは持っていないけどスマートフォンを持っているから それでニュースを見るし今どき物好きなとよくいわれるけど新聞もたまに見る 不要不急の外出を控えてください外食は控えてください買物は控えてください コンサートは実施しないでくださいするとしたら少人数で観客は黙ったままで 劇場へいくのは映画館へ美術館へ書店へいくのはしばらくの間控えてください 県境を越える移動は自粛してください特に若い人は控えてください いかなくちゃきみにあいにいかなくちゃきみのまちにいかなくちゃ ふつう若い人は死にません四十代三十代二十代死亡例確認ただし基礎疾患あり とかいではじさつするわかものがふえている おれは持病があるから毎月病院へ通っています毎日薬ものんでいる仕方がないんだけど そうしないとどうやらふつうの人とおなじように生活ができないようなので ふつう若い人は死にません四十代三十代二十代死亡例確認ただし基礎疾患あり ただし基礎疾患あり と日々キャスターが読み上げるニュースおれは被差別者なのだろうか 急を要さない検査や手術は控えてください 若者は 少人数で黙ったままで でもこればっかりはどげんしようもなかもんねえ おれの口から出た言葉はあのときおっちゃんから聞いたのとおなじ言葉で とてもかなしかったそういうのをかなしいというのが適切なのかはわからないけど ほかに言いようがないできればこういうときあの店のデミオムが食いたい大盛は追加で五十 円の ※井上陽水『傘がない』の歌詞より引用している箇所があります。 箸袋 近ごろまた引っ越しをしたのでなんだかんだ忙しくて というのはまあいいわけでしかなくて親しい人への連絡もなんだか滞りがちで ちょっと前までうまくいっていたこともなんかよくわかんなくなっちゃって 迷うのはべつにわるいことじゃないんだけどだから 焦らなくていいってわかってるはずなんだけど じつは内心ちょっと焦っているのも自分でわかっていてそれで余計におちつかない このアパートへ入居して何週間か経って本をやっと本棚におさめ 寝る前に読もうと思って取りだした佐藤康志の文庫本に箸袋が挟まっていた それに印刷されていた字は中国料理藤園その裏に熊本市中央区水道町と むかしからそのへんにある紙をしおりのかわりに本に挟むくせがあって その本に挟まっているその中華料理屋の箸袋エビチリと麻婆豆腐と 唐揚げ定食がとびきりうまいその店の箸袋を見て思い出したその本を買った日は おれが十九歳のころたしか大学祭の準備をしていたころだから秋にさしかかっているころ その店でめしを食って夜から新市街アーケードの映画館へ行って その日に観た映画がとても好きになってその帰り道に辺りでいちばん遅くまで空いている本 屋 ツタヤへ寄って原作のその本を買って帰ったことまでたしかに思い出した いま本棚にある最近買った読みさしの吉本隆明の本にはそばうどん屋の箸袋その店は 区役所の前にある引越の届出に行った日そこでうどんを食った大田区蒲田きそば一力 七月はじめの暑い日冷やしたぬきにもできたのでそうしてもらってそれを食ったこの街へ来 て はじめての昼飯 むかしいやむかしといってもほんの何ヵ月か前まで思っていたおれは九州熊本で 詩を書くとき東京の街の名前などけっしてつかうものかと 東京の街の名前が書かれるとき口に出されるときそれがどんな文脈であろうと 読む人はそれを知っていなければいけないしあるいは わかっているようなそぶりをしなければいけないようなそういう感じがあってそういうのっ て いなかのひとの思い過ごしや劣等感かもしれないけどそういうのってすごく傲慢な感じがし て きらいだったし反抗したかったし実際そうしていたおれもいまでは成りゆきで東京に住んで いる 都民区民の自覚があるわけでもないけど九州からはなんというかいまちょっと 根っこが抜けちゃったようなあてのない気持ちになっていて だけどどこにいても同じことで新しい靴を何度も履いて馴染ませていくように その街が自分の身体になるべく馴染むように歩いてときどきそれを詩に書いたりすることで だからいまはつかうおれは毎朝乗り換える電車を夜はときどきめしを食う大田区蒲田で 著者 牛島映典 発行所 七月堂 発行日 2023年5月30日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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双子 / インカレポエトリ叢書18【新本】
¥990
奥山紗英詩集 指の一本一本の太さを/じっくりと測られるのは/誰だって嫌である 【作品紹介】 こども家庭庁 脂肪のまとわりついた緩慢な歌が 少しずつみみちゃんをころしていく キッチンは消毒液のつんとした匂いで 油ぎった換気扇を回してなんとかする ソファに寝転ぶと赤茶けた髪が落ちていて みみちゃんの黒い髪とおんなじ細さをしている ベージュ色のとっくりセーターを覚えている ぎこちなく頭をなでてきた手 やがて作り出された低くのろのろした歌 ユニットバスのトイレには入れないので みみちゃんはベランダに出て お酒入りのチョコをこっそり食べる 洗濯物が出たままになっていたから 少しずつ中へ取り込んでいく はだしで踏んだのはタバコの吸殻で 顔をしかめて指でつまみあげる 向かいのマンションの部屋たちは 全部真っ暗になっていて みみちゃんの部屋だけ仲間はずれみたい お隣はどうかと首を伸ばしてみるけど 目隠しがされていて見えない 毎日ちゃんと歯を磨きましょう 保健室の先生が言っていた みみちゃんはキッチンでうがいをする ユニットバスの洗面所には入れない 仲間はずれの子ども用歯ブラシ くたくたのパジャマに着替えると 明日食べるメロンパンのことを考える しにかけたみみちゃんは 少しずつ夢の中へ帰っていく ナマリ 築六十年の実家はナマリに囲まれていて、道行く中学生の「今日の宿題なんけー」という会話を吸収しているため、いつも柔らかく傾いていた。母親が歩くとぐらつき、父親が屋根を工事しようもんなら、ぐわんぐわん揺れた。ナマリで心配する私に、父親は「大丈夫だがー」とナマリで返すため、ぐわんぐわんとまた屋根は揺れた。 家のものは全員ナマリで、父親、母親、祖母、兄、だけでなく、鍋敷き、冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、テーブル、カーペット、あらゆるものがナマリだった。テレビはいかにもナマリに見えるが、実はそうではなくて、ナマリじゃないくせに、我々ナマリに媚びるようにナマリのフリをしていた。ナマリ、という柔らかく歪んだものとテレビは、本当は相容れなくて、相容れないのに、ナマリを表面にチョチョチョイと塗っていて、その見せかけはすぐに我々にばれ、「あれはおかしいがねー」とナマリをもって一笑に付されるのだった。テレビの他には、豆腐売りがナマリを騙っていて、夕方になると「おかべはいらんどかーい」と野太い男の声が鳴っていた。 生徒たちはマイクを持つといっそうナマリになり、どれだけ柔らかいナマリになれるか、というのを意識して競っているかのようだった。私は、自分だけは絶対にナマリになるまいと思うのに、いざ自分がマイクを持つと、さっき喋っていた彼よりいっそう柔らかいナマリとなる自分に気付くのだった。 修学旅行に行った日、ナマリたちは自身の存在に気付くと思いきや、ほぼ気付かず、それでも何となく、何もかもが歪まず、固く、真っ直ぐな街に拭いきれない警戒心と違和感を持ちながら、観光を楽しんだ。我々が歩いた街はどこもかしこもテレビだ。テレビといっても、ナマリを騙るどころか、最初からこちらにおもねる気は全くない、硬質で整然としたテレビであり、たまに映り込む別世界の方である。「こんな場所ないがー」とみんなで一笑に付していた場所は、実はちゃんと存在していて、どうやら私たちナマリの方が、こちらでは、ないもののようであり、私は二日目から具合が悪くなり始めた。 引っ越してきた場所は、どうしようもなく硬いところで、真っ直ぐに続く坂道を、毎日登ったり降りたり繰り返すと、少しずつ私の表面を覆っていたナマリがざりざりと剝がれ落ちていってしまった。現地の人だと思われるたびに、私は硬いベッドで考え込み、その様子はテレビで放映されるのだった。 著者 奥山紗英 発行所 七月堂 発行日 2023年4月28日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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インカレポエトリ8号 蜂【新本】※送料をご確認ください
¥1,000
【内容紹介】 様々な大学の学生が参加している学生詩集の第8号です。 【編集】 朝吹亮二 新井高子 伊藤比呂美 大崎清夏 笠井裕之 カニエ・ナハ 川口晴美 北川朱実 小池昌代 瀬尾育生 永方佑樹 中村純 野村喜和夫 蜂飼耳 樋口良澄 四元康祐 発行 インカレポエトリ 印刷 七月堂 発行日 2023年4月30日 A5判 434ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊→「クリックポスト」 *2冊→「レターパックライト」 *3~4冊→「レターパックプラス」 *5〜8冊→「クロネコヤマト80サイズ」 *9〜10冊→「クロネコヤマト100サイズ」 【関連本】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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光の吐瀉物、祈りに春を【新本】
¥1,760
黒田夜雨詩集 君は明後日も健康で 孤独など知らずに死ねばいい。 【作品紹介】 「ソラニン」 春になったら頭にソラニンが生えてしまいます。 春の阿佐ヶ谷は楽しくなった頭の弱い人でいっぱいです。 私も楽しいけれど楽しくなればなるほど あなた方とはさよならだから、すこしさみしい気もします。 思い出の私はいつも一人、 あなた方を放ったらかして愉快でしたね。 野放しであることが嬉しくて、 菜の花は庭に一面もう食べられないくらい咲いているけど、 私は元気です。 あなたがいなくても、 元気なのです。 春になったら頭にソラニンが生えてしまいます。 じゃがいもの頭に芽が生えて、 その芽が頭を食い潰してしまうのです。 私はいま、とても楽しいです。 でも、どうしようもなく ひとりぼっちなのだと思います。 著者 黒田夜雨 発行所 七月堂 発行日 2023年4月16日 150×150mm 48ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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砂/鬼籍のひと【新本】
¥2,200
藪下明博詩集 今日が俺の 月命日だという 言葉がぎりぎり抽象性を帯びるのは、記憶の奥底にある何かを封印したいからかもしれない。砂の音、砂浜、砂の生活、土管の街。耳をふさいでもあの砂の音が聞こえる。 ──八木幹夫 藪下明博さんの詩集『砂/鬼籍のひと』には、陸繋砂州(トンボロ)の街の背後に広がる空漠とした心象風景と、風砂の擦過傷を刻むように生きた人びとへの追憶が描かれる。 ──麻生直子 【作品紹介】 「砂の生活」 砂が 沈む とき 子供たちは 溶けて 声を 失う 大人たちは 耳を そばだて 亡くした 声に 紙花(かみばな)を 手向ける 砂は 墓碑のように 冷え切って 落とした 影は 無言のまま 食卓に 添えられる 砂に 溶け切れず 砂に 生き延び 夢を 見た 封印された 傷口を 時折 なぞって 幽かな 生活の気配に 息を 吐(つ)いて 砂に 祈る 「姉 Ⅱ」 風が吹いていた ……かも知れない 大きな 影 ドロップ缶を 握り締め 三本煙突が 隠れている このあと あんでげれ山に 登った こわい こわい ロープウェイに 乗って 姉の カーディガン 赤い スカート しっかりと 離れないように ……と きつく 指先を握る 旅立つ前に 叶わなかった 姉との 約束が ……隠れている 小さな ドロップ缶の中に 著者 藪下明博 発行所 七月堂 発行日 2023年2月12日 A5判 124ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鳥類学フィールド・ノート【新本】
¥1,980
SOLD OUT
生き物たちの安全で安心な楽園はどこだ みーんなこの地球の仲間たち おはようございます 小笠原鳥類の入門書ともいえる一冊。 編集や装丁は、詩人の榎本櫻湖によるものです。 現代詩手帖やフリーペーパー、ブログなどに発表された詩に書き下ろしの作品を収録。 よいことがあると、いい。あの、ええ、 それが、とても、いい。 とても、穏やかに、うれしい、ことが、いい。 あの川に、いろいろな、種類の歌が 魚が(魚の図鑑は歌の図鑑だ)楽譜が…… 泳いでいて、魚の背中が見える。 魚は透明なので、内臓も見えるだろう健康な。 健康な健康だ、 魚のウロコがたくさんあって、それらの 輪郭の線が黒くなって、見える。 黒い絵、というものが、あった。魚を描いたんだろう 魚の図鑑が、画集で、あって 版画、だった。版画の群れ。 ─中略─ 魚の、とても、光る、部分である。版画で描くなら 金色を少しだけ使うだろう。よいことが 光っているのが、よい。いい。 よいことがあると、いい。 おそろしい未来が来ないのがよい。魚の 版画を集めた本を、ギギギギギーと開くと、 「明るい未来もある」と、書いてあった。 どうなんだろうなあ、よいことが、 あれば、とても、よい。いい。歌うだろう それから魚を描くだろう、魚の ウロコたちの線をたくさん描くだろう。 背中にウロコがたくさん描かれるだろう。背中を 濃い灰色で塗った。水彩で描いた。 とてもよいことになればよい。よいことが、 あれば、いい。おはようございます (「魚の歌」より抜粋) 著者 小笠原鳥類 発行所 七月堂 発行日 2018年6月10日 四六判変形 113ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ラベンダー狩り【新本】
¥1,650
大西久代詩集 小宇宙へと紛れ込む 今日という一日が熱を帯びる 人は子どもの頃、ころがっている石に惹かれ、箪笥の片隅に集めてしまう。 この小石は、それぞれに小宇宙へとつながっている。 大西民代が放つ一行は、どの一行もそうやって集められた小石たちである。 この詩集を前にした時、私たちは、日常に差し出された小宇宙の前に立っているのだ。 【作品紹介】 ハナウマ湾へ 誰も戻ってはこない 美しい青の海原を越えて ふり返ることなくあの青へ溶けていった ハナウマの白砂に濡れた足が しきりに太古から譲渡されるものに 触ろうとする 翡翠色に広がる海の誘惑 二月の冷たさにも私たちをいざなう シュノーケルが見通す魚は零れつづける 色から色へ からだからからだへ 岩礁をよぎり水のくびきをものともせず かつて火柱を噴き上げ 天に咆哮した山々 弓状の湾を囲んで鎮まっている 岩の上を移ってゆく人影 海辺で見あげる緩慢な錯覚 僅かずつ地球の切っ先が引き延ばされる 珊瑚の海へ 尾鰭をもつわたしが追ってゆく 身をくねらせ境界を通りこす 二億年前のひそやかに息づくもの との出会い 深夜の客 そのとき遙かな空から海峡を越え、湖に降り立つ鼓翼を耳にした。くらい肩にはずっしりと過去がこびりついている。手が、声が、記憶を揺さぶって、追われるようにこの町に降り立った。 毒矢をわが身に放ち、才を貪った男は女を捨てた。見えないものに、ひとり挑んでいった男の一途さを、それでも女は見ていた。水の面をきらめかせ、陽はうつろな男の内面をびりびりときり裂いた。ガラスが砕ける音がして、 夜ごとの夢は宙づり、すでによそ者である男は、愚か者のふり、軟弱なふり、暮れゆく窓に向かって、顔をつけ替えなければならない。なだれる方へと体はなびくから、傷んだ手を浸せば、男に雁が見えてくる。粉雪舞う湖から「コアーン、コアーン」と鳴き声が響けば、言いようのない寂寥がわきおこる。 うつむいた女、そばにいながら寒い背ばかりを抱く。雁は記憶の夜をつつきにくる。 上向いて月の雫を飲みこんだ人、鳥となってさすらっている。約束された時の繋がりを曳きながら、地上の破れ目はなお淵である 著者 大西久代 発行所 七月堂 発行日 2022年10月10日 四六判 108ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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霊園東通り南【新本】
¥1,650
鈴木康太第一詩集 光が、目的もなく 落ちてくる 冷静な言葉の佇まいをパズルのようにはめ込んでゆくと、鈴木康太の切ない景色が浮かびあがってくる。 【作品紹介】 「裸のままで」より 光なんてなくても 愛と目は 同じ発音 黄色と緑は 落ちる手前に告白しあい 海沿いのもののけに なると思うよ 裏声ちょうだい くちびるの灰で 石を動かして しげみをこだまして 栽培手帖に 燃えるようなあとがきをそえて 夜はすぐに 図鑑どおりになる 畳におちる隕石で あなたのにおいがついた パジャマが焦げる けど、焦げても着ないと風邪をひく白亜紀 うなだれる背中の筋 影はつま先の上にある 種をえらぶ 変身の 変身は最初の一行で終わる あごは鍵に噛みついたまま いずれ消える砂糖で底が白い あなたの声がきれいなので 欠けながら 続きまして 約数です 約数の約です へその緒を結びなおす うなじは頭と夢のように運ばれる 風が吹くと丸を作れない 愛の中で 小指の爪がはがれる 指紋は化石になりたい ぷつぷつと 髪をおとしても 吸われるのを待っている 暮らしの幽霊 溺れれば あなたが食べ終わった小骨の山 夏の窓についた 飛行機 音はしないで堅い殻の体のよう くうふくですか わたしは時々彼を起こして 手をまん中に持っていく 著者 鈴木康太 発行所 七月堂 発行日 2022年10月1日 四六判 82ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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道草【新本】
¥1,650
橘しのぶ詩集 おとうとよ/つばさがあっても/おまえには空がないのだよ ときどき現れる非現実的な出来事と、 空想と現実のあわいが淡く混ざりあう幼少の記憶とが、 精妙な人間関係図のなかで、ぽつぽつと点滅する。 その光を手掛かりに読み手は、文字をたどり、ことばをたどる (望月遊馬) 【作品紹介】 告白 十かぞえるあいだに泣きやんだら、この耳をあげると、あなたは 言った。見たところ、あたりまえの耳である。掌に載せると、脈打 ち始めた。千年前の貝殻みたいに不愛想だ。春の雪の匂いがする。 ふとしたすきまにしまっておいて、なんて、言われたって。耳なんて。 そんなつもりじゃなかったのに。あなたの歩幅を気にしながら、少 し後ろをついてゆく。 微熱の続く昼下がりには、かくれんぼの声がこだまする。三半規 管に根を張った樹木の幹に顔を伏せる空蝉みたいな娘は、わたし。 「もういいかい」 「まあだだよ」 しなやかな枝は鳥族の棲家で、おもいおもいに歌っていた。しず かにあつくゆれながら、かかとからあかく染まってとけていった、 ろうそくみたいな娘は、わたし。ことばで人を殺すことはできるが、 ことばでは人を愛せない。視姦されたところで孕まないように。 発語された愛はシロフォンのしらべにかわる。 すみやかに影が去っても、枝はまだゆれつづけている。ふとした すきまなんて、そんじょそこらにあるもんじゃない。帰りそこねた 一羽のわたしが、あなたの耳からこぼれ落ちる。 啓蟄 ももいろの侏儒がいくたりも 空からつるされたロープをのぼってゆく 区役所の裏の公園には 重たいくらい花粉が充満していた なにか、を待ち焦がれているかのように ベンチにこしかけぽかんと空を見上げた 婚姻届けを提出した帰りだった 出産届けを提出した帰りもだった 離婚届けを提出した帰り ベンチにこしかけ空を見上げた 信じてさえいれば 待つことはかけらほども怖くはないが ももいろの侏儒を見たのは 実はそれが初めてだった 最後まで見届けたかったのに ロープは手際よく巻き上げられ 空の駅を今、縄電車が出発するところである 私も乗客の一人になって身をのりだして なにか、に向かって手を振っている 満員御礼の垂れ幕が空に つるんとかかっている 著者 橘しのぶ 栞文 望月遊馬 発行所 七月堂 発行日 2022年11月10日 四六判 96ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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アンドレ・バザンの明るい窓【新本】
¥1,650
牧野楠葉第一詩集 お行き、未亡人となったわたしの心臓 線路が赤黒く染めあがってきた 小説家でもある牧野楠葉の第一詩集。 色彩溢れる言葉が投影される紙上はスクリーンと化す。 【作品紹介】 あるひとの信仰 <わたしたちはここで座っていたのですね> と彼女は笑い、歯茎を見せたが ピクニックのレジャーシートが 黄色い風が吹いて きみは倒れ 消えてしまった 優雅な声のためには ある程度の犠牲を払わなければならない 悲しみの声のためには あらゆる夜の二十二時半を設定しなければならない 痣のあるきみはそれだけで有頂天になる 毎日 歯のような手が いまでは人々があくびをしたかのように…… ふたつの話 花園が崩壊する 大理石のある庭園が地響きによってカーブする きみはそれを 泡のようだと言って馬鹿にするが わたしは それを聞いて 永遠だと思う いつまでも続けばいい すべてのものが嘲笑するとき、 海辺が天に上がる 日の翳り ジョンのレコードプレイヤー が 冷え冷えと夏のコテージで やられてしまった …… そうなると することはひとつで 眼鏡を鳴らす 鳩時計が鳴る 再び日は長く 轟々と風がなり まるでホラー映画の パニックのような ノーランのステレオが 冷え冷えと夏のコテージで やられてしまった…… 彼らの鼻腔から荒い息が漏れる そう わたしは(あなたは) 黒人たちの ダンスと踊りの狂乱に 巻き込まれる運命にしかないのだ セクシー ミュージック オン ザ ワールド の渦に ラファエルのキーボード が 冷え冷えと夏のコテージで やられてしまった …… わたしは(あなたは) 肌が黄色く だからこそ 彼らから 黄金を せしめることが できるのだ ヒトミ、 きみのドレスに シャンパン が こぼれて いるよ。 歌えない! とわたしが(あなたが) 叫ぶと 他の服がやってきて すぐさま 濡れた服は 取り替えられた ルーカスのアップルウォッチが 冷え冷えと夏のコテージで やられてしまった…… レズニコフが かつてわたしの友であった あなたはもうどこにもいない 今は踊り続けているだけ ヒトミ、 きみの友達が来たよ。 呼んでないわ 来たんだ、それでも それは驚くべきことに 腹違いの妹で わたしは半裸のまま 彼女を歓待した セクシー ミュージック オン ザ ワールド の渦 著者 牧野楠葉 発行所 七月堂 発行日 2022年10月31日 四六判 76ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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交差点の秘密【新本】
¥1,650
武井深彦詩集 交差点の谷が/静止し/発火する 詩人は日々の交差点に佇んでいる。 そのまなざしは、生と死の光景をすくいとる。 【作品紹介】 トンネル 庚申塔から集落へ折れ トラス橋を渡ると 桜だけの小学校 ツタとシダが入り口を取り巻いているから 人を たばかるものだと トンネルを掘った男の孫が 入学式で吹聴する 媼が振り返るから 人が迷い込み 明かりがないから 死があり いつも夜だから 恒星があり 冷たくて丁寧な苔も生しているし 水が漏れ出るから 清純と 混乱とが ホルンとなった 外耳に反響する 迷い込んだ私は 歩くだけでもう 騙されている 階段 石の手摺をたぐり 深海の闇を踏む 赤くくすむ大王烏賊が 踊り場に潜む 繰り返す右と左の足 曲げること伸ばすこと 骨髄から 重力を抜くコンプレッサ 細胞から抜ける 土の記憶 長く下るまに 冷徹に被圧された 水 酸素はとうに抜け上がり 脳から抜けていく 光 頭上に満ちる 海月の光 ここは深海 香らない夜の林で 非常灯色した 大王烏賊が 非常口色した 海月を襲う 深海の闇を踏む 夜空へ 踏み出す右つま先 膝がカクリと折れる 著者 武井深彦 発行所 七月堂 発行日 2022年11月25日 A5判変形 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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4日と7時間【新本】
¥1,100
Yuen詩集 ベンジャミンは完成した世界に興味がない。 ある日を境に別の世界に住み始めたベンジャミンとそれを見守るK。 ナギとママの最後の日。 そして「バニシングツイン」が語られ……。 三つの話を読み終えたとき、すべてのつながりが明らかになる。 生命の神秘を体感させてくれる「詩物語」。 捕らえられた人魚が 水槽の中で 生きていた時間 …4日と7時間 著者 Yuen 発行所 七月堂 発行日 2022年12月20日 B6判変形 98ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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雨が生む色彩【新本】
¥1,430
篠井雄一朗詩集 一つの作品が月曜日を震撼させる 日常の表と裏、季節の表と裏、時の表と裏…… そのすべてに通底する孤独。 私たちが何気なく通り過ぎてゆく光景の中に篠井雄一朗の宇宙が広がってゆく。 【作品紹介】 残暑お見舞い テーブルの上にこぼしたミルクに 溺れそうなくらい縮んだ 僕は 十円硬貨ほどの大きさしかなく 昼に食べた冷や麦の器が 宇宙船のようにそびえる横を 草の匂いを含んだ風がすり抜けた めんつゆの残った器の陰に身を潜めるも 落ちていたネギのひと欠片に足をとられ 尾てい骨から転んだ先はミルクの海 痛みは脳までひろがって おまけに背中はびしょ濡れで 誰かが名前を呼んでいた (知るもんか) それよりこれは現実か まばたきを繰り返していると 悪いことにますます小さくなりつつあり 仰向けの状態で起き上がれず 誰かが名前を呼んでいた 片方の翼がぼろぼろに壊れた 天使が宙に微笑む姿 痩せこけた体が水分を欲して 眠りから覚める合図をうながす 耳は確かに聞いていた 天使の声を、羽根音を いたって僕は元気をよそおい バイクにまたがる 揺籃 目を開けていられないほどの まぶしい光 まぶしい光に包まれたい 包まれろ、 霧がかかって良く見えない 老眼だから良く見えない 言い訳を考えてる顔は 悪だくみに満ちている 月曜日の闇がついてくる 影のように 拝む姿は様になっているも 中身がともなわない 滑走路はいつだって順調さ 動き出し勢いに乗るまでの問題 裸足で駆けていって 引かれた線など気にしないで行って 方程式が解けない そもそも方程式など存在しないと割り切って 裸足で駆けていって 引かれた線など気にしないで行って 金曜日になってようやく闇が薄れた気がする 内側で波打つ土用波 足りないものをかき集める 生活のかたちを葬って 見知らぬ宇宙が指から滑り落ちる 見知らぬ宇宙が指から滑り落ちる 著者 篠井雄一朗 発行所 七月堂 発行日 2022年12月10日 四六判 112ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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雨の日のあたたかい音楽【新本】
¥1,300
言語芸術への挑戦 次々と変奏されてゆく言葉たちは 意味を離れ、音の粒として 私たちに降り注ぐ。 【作品紹介】 複製の複製による複製の擁護 〈夢〉という字を一切使わないとルールを決めてみたが、無理だった。それは、 〈足の裏は、死者がみせる最後の表情である〉というもっともらしい言い回しを読んで、ちがうと思った。なぜなら、 ピポー叢書の夢より抜粋 妻つマづく あれたうみあふれたかわありふれたいけあかるいいりえあれはあわれなみかづきこあちらは沸騰するカルデラこ プラダをしおかぜにあてたくないといいながらすなはまでつまつまづくかいのかけらがてのひらをらせんに裂く なぎのなぎさにきなさいちいさなさなぎになるとききなさいシンケルの流星雨そそぐよるしょくそうからはなれ 著者 金澤一志 発行所 七月堂 発行日 2022年11月22日 A5判変形 64ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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EXPLOSION / インカレポエトリ叢書17【新本】
¥990
真夏あむ詩集 余命とは、この夢が覚めるまでの数年のこと。//きみの声で起こして。 【作品紹介】 夕方アンチ リストカットしたところから、ぷつぷつと天使が溢れて飛んでいく。 うさぎのしっぽみたいなつまさき。 桃色につやめくきみのゆびさき。 不特定多数に不安定ないいねをもらってないと心がすかすかでおかしいや、ぼくを救える人間がこの世にぼくしかいないことなんて、中学校を卒業するより前にわかっていたことなのに。 簡単な言語で挨拶をして、最初の掴みはこれでOK、あとは脳をじゃぶじゃぶと洗うだけ。 ぼくの脳汁に漬けて染めるから、逃げ出さないか見張っておいてね。 ひとつのふきだしのなかで何についての会話かわかんなくなってきたが2回くらいあって、彼はこれを転調と呼んでいて、だからすきだったな。 ぼくの目の奥みたいな色をペンキにして漬けたみたいな色のマスカラを睫毛にべちゃべちゃと塗りたくって、焦げかけのトーストをかじる早朝。 夜が朝になる瞬間がすきで、夜更かしがやめられない。 カーテンの隙間から見える太陽光がやわらかいのは、きっと朝日には天使が混じっているからだって本気で思っている。死にたくならない。 夕方は死にたくなっちゃっていけないね。 オレンジは眠くなるし、すっぱすぎる。 甘くてとろとろしたものしか愛せないから、夜明けの空港がすき、朝方のカーテンの隙間から手を振る光がすき、あの子の抜けた歯の隙間から見える宇宙の堕とし穴がすき。 春はあったかいから、頭がおかしくなった人が増えるらしい。ぼくもその一員かもと言って笑っても、笑わないで、それでも否定も肯定もしないでね。 きみに都合のいい電波数を毎秒選んで、毎秒違うチャンネル見せて。きみは朝方のテレビ。雪解けみたいな、透明に侵食された窓。産後1秒の太陽を捕まえろ、生活リズムの鍵を握ってしまう強めの魂で、弱っちい自律神経なんかをぶっ潰したい。 著者 真夏あむ 発行所 七月堂 発行日 2022年11月25日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あのとき冬の子どもたち【新本】
¥1,320
峯澤典子、第三詩集。 ぬくもりはじめた 祈りのかたちに 冬が 訪れる この〈旅〉は、通り過ぎていく景色の印象を残しながらも、別の空間、時間を移動しているようだ。ふとした気配が記憶を呼び覚ますように、うす暗い空の下、それでも光を求めて彷徨う。 マッチを擦っても 新年の雪みちには犬の影もない ひと足ごとに 夜の音が消えてゆく 冷気を炎と感じられるほど ひとを憎むことも 許すことも できなかった せめて てのひらで雪を受ければ いつまでも溶けない冬が ふたたび訪れることはない病室へ流れていった それを流星と呼んでいらい わたしの願いはどこにも届かない それでも星は 清潔な包帯のように流れつづけた(「流星」) 第二詩集『ひかりの途上で』(七月堂)で、第64回H氏賞を受賞した峯澤典子さんの最新詩集です。 第一詩集 H氏賞受賞作『ひかりの途上で』https://shichigatsud.buyshop.jp/items/6048424 峯澤典子 2017/02/01発行 発行所 七月堂 四六版 並製カバー付 カバー・表紙デザイン:吉岡寿子 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ひかりの途上で【新本】
¥1,320
第64回H氏賞受賞 詩とは美しい言葉 静かな映画の場面がゆっくりと移り変わるような感覚。 思い浮かぶ情景は人それぞれかもしれないが、この独特の淡い美しさを味わう感覚は共通ではないだろうか。過去でも未来でもなく、現在とも少し違う場所から俯瞰して見たような世界。そこで描かれるのは鎮魂の時代から新しい命の時代へとシフトしつつある私たちの姿だ。 何度いのちが絶たれても ひとの手はなお 花びらを模して どうしても やさしく生まれようとする (「途上」より) 第二詩集『あのとき冬の子どもたち』https://shichigatsud.buyshop.jp/items/5876871 峯澤典子 著 詩集 2013/08/06 四六判 並製 第4刷 発行 七月堂 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ルーネベリと雪(サイン本あり)【新本】
¥1,731
タケイ・リエ第三詩集 あっ、晴れた。 手さぐりでたよりない闇のなかをすすんでいくと、 見慣れた風景がまあたらしくうまれかわっている。 なつかしい景色がまばゆい光につつまれて、 はだかの街路樹もかがやいている。 (帯文より) 図鑑を眺める。眠るまえのせかいはやさしい。だから、気がとおくなるほどたくさんのいきものが食べて食べられる世界を眺める。まよなかの、まんてんの星の下に無数の国。赤いろ。青いろ。緑いろ。夥しいかずの屋根の下で。多様なにんげんの図鑑もひろがる。 (中略) うまれてくるひとよりもしんでゆくひとのほうが多くなってきて、ようやくさしせまったと感じるなんて身がすくむような思いがする。わたしたちはいったいだれから、救われればいいのだろう? いまこのことについてだれかとはなしあいたいのに、だれとはなしあったらいいのだろう。あなたの考えている本当のことがわからない。悩んでいたらみえない動物が近づいてきて、はなしが通じる言語を習えって言うの。それが愛情だろうって言うの。おかしいよね。いまからでもまだ遅くないんだって。本当に、覚えられるのかな。せかいはとても広くてプールみたいになってしまった。大きな水溜まり。あるいは、砂漠のようなもの。だけど、はだし、はだかでも、大丈夫なんだって。本当かな。本当なら、服を着ているのがじゃまになるかもしれないね。あなた、いっしょにぬいでくれる? あなたがいっしょならわたしだってもう、こわくないんだよ。 (「ミーアキャットの子は年上の兄弟からサソリの狩りを学ぶ」より抜粋) タケイ・リエ 岡山県生まれ 詩誌「どぅるかまら」「ウルトラ」「Aa」同人 詩集『コンパス』(ブロス) 詩集『まひるにおよぐふたつの背骨』(思潮社) 詩集 著者 タケイ・リエ 装幀:伊勢功治 発行所 七月堂 発行日 2018年9月30日 A5判変形 92ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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百年の雪【新本】
¥1,320
白神つや詩集 【作品紹介】 開かない窓 割れている窓の先には道がない ぼくは旋律も雨も緑の豊かさも 知らないけれど、 殆どの、ほとんどだらけを知らないけれど 遠い朝の中で人が家の 口内を音もなく動き回っているので、 それについて尋ねようと 振り返ると窓は割れていない このような窓から視界を撫でまわすとき、 向かいの家々はぜんぶ窓が閉まっている じっと身構えていて、扉なんてないみたいに 黙ったまま、なにか祈ったまま、 まるでそれがとてもおかしくないないように 閉ざされて季節の合間にずっといる ぜんぶ空家かもしれないけれど、 こなごなに燃やして真っ二つに してやりたい ぽつぽつと雨が降ってくる しかたがなく家の中に入っていって、 泣いている ずっと泣いている 雨が降っているのに、 家の中でぼくはずっとないている 著者 白神つや 装画 かんべあやこ 発行所 七月堂 発行日 2021年11月25日 四六判 76ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955