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ラベンダー狩り【新本】

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大西久代詩集

小宇宙へと紛れ込む 今日という一日が熱を帯びる

人は子どもの頃、ころがっている石に惹かれ、箪笥の片隅に集めてしまう。
この小石は、それぞれに小宇宙へとつながっている。
大西民代が放つ一行は、どの一行もそうやって集められた小石たちである。
この詩集を前にした時、私たちは、日常に差し出された小宇宙の前に立っているのだ。



【作品紹介】
ハナウマ湾へ  


誰も戻ってはこない
美しい青の海原を越えて
ふり返ることなくあの青へ溶けていった
ハナウマの白砂に濡れた足が
しきりに太古から譲渡されるものに
触ろうとする
翡翠色に広がる海の誘惑
二月の冷たさにも私たちをいざなう
シュノーケルが見通す魚は零れつづける
色から色へ からだからからだへ
岩礁をよぎり水のくびきをものともせず
かつて火柱を噴き上げ
天に咆哮した山々
弓状の湾を囲んで鎮まっている
岩の上を移ってゆく人影
海辺で見あげる緩慢な錯覚
僅かずつ地球の切っ先が引き延ばされる
珊瑚の海へ
尾鰭をもつわたしが追ってゆく
身をくねらせ境界を通りこす
二億年前のひそやかに息づくもの
との出会い




深夜の客              


そのとき遙かな空から海峡を越え、湖に降り立つ鼓翼を耳にした。くらい肩にはずっしりと過去がこびりついている。手が、声が、記憶を揺さぶって、追われるようにこの町に降り立った。
毒矢をわが身に放ち、才を貪った男は女を捨てた。見えないものに、ひとり挑んでいった男の一途さを、それでも女は見ていた。水の面をきらめかせ、陽はうつろな男の内面をびりびりときり裂いた。ガラスが砕ける音がして、 夜ごとの夢は宙づり、すでによそ者である男は、愚か者のふり、軟弱なふり、暮れゆく窓に向かって、顔をつけ替えなければならない。なだれる方へと体はなびくから、傷んだ手を浸せば、男に雁が見えてくる。粉雪舞う湖から「コアーン、コアーン」と鳴き声が響けば、言いようのない寂寥がわきおこる。
うつむいた女、そばにいながら寒い背ばかりを抱く。雁は記憶の夜をつつきにくる。
上向いて月の雫を飲みこんだ人、鳥となってさすらっている。約束された時の繋がりを曳きながら、地上の破れ目はなお淵である



著者 大西久代
発行所 七月堂
発行日 2022年10月10日
四六判 108ページ


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