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【内容紹介】
どんなに詩を書いても認められないという罪
外は汗ばむほどの暖かさなのに、私は寒気がするのだ。体の調子がおかしい。連夜のアルコールのせいだと思う。微熱でもあるようだ。今夜もやっぱり飲むだろうな。
気分の方もひどいものだ。誤解に不安、肩から首にかけて凝っている。冗談じゃないぜ。
歯槽ロウソク、室外機の潰瘍、こめかみがくるくる回ってねじれた視線、ぎっくり腰、くるぶしの脱臼、大腸ポリープ木綿の兵隊、瞼がねばつく、鼻中隔が曲がっている、耳が痛む、便秘、痔、それらが恒常的なのだ。……そんなことじゃないんだ!おれの部屋は臭い。……これはノイローゼだ。ふとんは汚れて湿っぽい。十年以上干していない。こんなのじゃ彼女はいやがるだろう。彼女にきらわれて憂うつだ。妄想から這い出て又、浅い眠りの干からびた夢の中。現実も水気が全くない。屁ばかり出る。
病気がひとつの、仕事を休むきっかけになるんですよ、……隣の男がこんなことを話しているのが聞こえる。病気ね、ここは喫茶店だ。私は自分の顔を見るとよけいに気が滅入る。おれの向かい側の壁は鏡張りだ。
胃が痛む。アルコールのせいだろう。飲まないと眠れないのだ。
何も手ごたえのないものを読んだり、見たりしていてはしようがないが、それが世の常だなどと言っておれは受け身でいるわけじゃない。
おれは、のっぺりした車道の真ん中に全裸で座っている現の証拠などもはやどこにも存在しないのだということ、それがどんなことか伝えようとしていた。
小難しい話はヤメだ。酒を飲んでそんな話をするのは不謹慎だと今ごろわかってきた。
友人は躍起になって帰って行った。
おれはタクシーを待っている。ここは新宿。なんで今夜はこんなに拾えないのか。もう一時間過ぎた。あしたは、と言ってももう今日だが祝日なのだ。寒いのでぶらぶら歩いていると女が言い寄ってきた。おれは、あなたは肉であり、マネキンではないからコラージュもできず、病気をくれると言って断る。本当はダメダメとも言わなかったのだが。金がないのだ。
私は生きている実感を取りもどそうと詩を作っているのだ。
そうやって現実の一つの局面に向かっている。で、それからどうしたらいい?窒息の、ドン詰まりの、これに答えることはできるか?じゃ、さようならと言ってみたところでこれは仮にも覆い隠せる代物ではないのだ。腹が減ってベーコンを齧っているおれはほとんど何をしゃべっているのか自分でもわからない。
生まれないこととはどういうことなのか?
そんな暗いところで電気もつけず何をしているんだと父が言った、母が言った。
生まれてこなかったやつに。
著者 藤井晴美
発行所 七月堂
発行日 2024年1月20日
四六判 67ページ
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