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あかむらさき【新本】
¥1,650
狂おしいたそがれ ほんとうのことが怖くて 小川三郎の作品は一篇一篇が短編映画のように迫ってくる。書下ろしの2点「あかむらさき」と「夕暮れ」が入っているが「夕暮れ」の中で詩人は「夕暮れに絶望し」かかとで石を割ろうとする。石はかかとをかわし、何かを主張するかのように詩人の頭を割る。「森も川も空も雲も」すべてが夕日を眺めている中でこの行為は行われるのだ。石も夕日を見ているというのだが、「石」って誰? 老夫婦の手には 赤黒い手相がこびりついていて その手を川に突っ込んでは ごしごしとこすっている。 私は反対側の岸にいて もう帰ろうとしていたのだが ならばなんとか助けてやろうと 川に足を踏み入れ 老夫婦の方へと歩いていった。 すると案の定というか 川底はぬるぬるしていて 足をとられる。 私が川底に尻もちをつくと 老夫婦は ふたりして顔をこちらに向け はっとした様子をしたが しかし豊作だ豊作だと言い続けながら 手を洗うのをよさなかった。 私の体が 腰からだんだん 薄赤く染まる。 表面だけではなく 身体の内も 髪までも赤く染まる。 (「赤い川」より抜粋) 著者 小川三郎 発行所 七月堂 発行日 2018年10月20日 四六判
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青草と光線【新本】
¥1,650
暁方ミセイ詩集 わたしはしかたなく/人間と恋愛をしていた 新たなる自己を発見し見つめてゆく暁方ミセイ。 夕暮れの光は私たちをゆらゆらとそこに佇ませる。 【あとがきより】 本詩集の詩を書いていた期間、ありとあらゆるものが存在することの価値について考えていました。したがってそれも反映されているかもしれません。だんだん精神の具合が悪くなってくると、まずは四六時中何かの悪い予感にとりつかれ、そのうち積極的に自分は悪しき人間だという証拠を探しはじめます。もっといい人間にならなければ、恥ずかしくない思考と行動をもつ者にならなければ、と思うのですが、一方で、それに激しく反発する自分が、わたしに詩を書かせていました。 【作品紹介】 花畑 あちらの岸にもまた 相似形の地獄が いちめんいちめん展開し 救いのないアラベスクがどこまでも展開し こちらの岸の怒りや悲しみと 相似形の地獄の花畑が どこまでもどこまでも続いているらしい そこを逃げ出す呪文はこう 思考で描くなにもかもは存在しない 陽光 浅い春のまぶしい陽射しと 雪解けの雫のたてる蒸気と 凍った椿のほどける濃い色 風に含まれるもうどうなってもいい冬との境の いまここで血液と酸素を巡らせる感じ そのすべても存在しないが 感じるのもまた本当だ 流れる水の一瞬をとどめられるのは想像だ 自由は その地点でいつでも豊かな風を抱いている 永遠にとまり 永遠にうごき そこに住むことができるなら わたしにひとつの文字が刻まれる 【著者プロフィール】 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 第48回現代詩手帖賞(2010) 第一時集『ウイルスちゃん」(2011・思潮社) 2012年、同作で第17回中原中也賞を受賞。 第二時集「ブルーサンダー」(2015・思潮社) 第6回鮎川信夫賞、第 33回現代詩花椿賞最終候補。 第三時集「魔法の丘」(2018)で第9回鮎川信夫賞受賞。 第四時集「紫雲天気、嗅ぎ回る 岩手歩行詩篇」(2019・港の人)に対して第 29回宮沢賢治賞奨励賞受賞。 著者 暁方ミセイ 発行所 七月堂 発行日 2023年3月25日 A5判 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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源流のある町【新本】
¥1,870
これは夕凪 あれは反射光 草間小鳥子 堂々の第二詩集。 「町」をテーマとした18篇を収録。 「おもかげの育て方を間違えていますよ」 執着しているからです つづら折りになった地獄が 両目に釘を刺しにくる 「適切な距離を保って」 段取りを踏めばすんなりと 形式的な不在となる 問われた罪 問われなかった罪 これで手打ちだ、と本を閉じ つじつま合わせの長い夜を越えた 去ってゆくものへの ひろびろとしたやさしさ やさしさに似た諦めが ぎりぎりの肺を満たしている 結論は出せない 出せるものでもない 仮住まいのつもりで 浮ついた季節をかぞえながら 遠い波形に目を細め (ずいぶんと高い空だ) いま ほんとうに崩れてゆく瞬間の 最後の透過へ浸水する 白い手袋で敬礼するドアマン 陽気な口笛と避難誘導 (また 電話します) むき出しの鉄骨にきらめく埃 その隙間からさす光 まっさらな 雨上がりの引力にしたがい 大きく弓を引いたまま わかりやすいものを疑いながら生きた (すべてを愛せなくたって) いま 明けかけた空へ旗が振り下ろされ ひとりきり滑空の合図だ はじまりの時そうであったように なにもないところから ただ なにもないところへ 荒れる湖を飲みこんで まっさおな胸 忘却曲線のかなたに白い帆のはためき たったひとりできみは 軽やかな骨になれ 【著者プロフィール】 草間 小鳥子(くさま・ことりこ) 第14 回北日本児童文学賞最優秀賞。 第27 回詩と思想新人賞受賞。(2018) 2019 年、資生堂の季刊誌『花椿』の付録として、小詩集『ビオトープ』を発表。 詩集『あの日、水の森で』(2020、土曜美術社出版販売)第71 回H 氏賞候補 著者 草間小鳥子 発行所 七月堂 発行日 2022年10月8日 四六判 並製 130ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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歩きながらはじまること【新本】
¥2,200
西尾勝彦詩集『歩きながらはじまること』 言葉の「森」がここにある 奈良の山で暮らす詩人、西尾勝彦のポケットには、どんぐり、石ころ、いろいろな形の葉っぱや木の実。たくさんの宝物がつまっているに違いない。 『朝のはじまり』、『フタを開ける』、『言の森』、『耳の人』に加え、私家版『耳の人のつづき』を収録。 いつからか 素朴に 暮らしていきたいと 思うようになりました 飾らず あるがままを 大切にしたいと 思うようになりました そうすると 雲を眺めるようになりました 猫がなつくようになりました 静けさを好むようになりました 鳥の声は森に響くことを知りました けもの道が分かるようになりました 野草の名前を覚えるようになりました 朝の光は祝福であることを知りました 人から道を尋ねられるようになりました 月の満ち欠けを気にするようになりました 遅さの価値を知る人たちに出会いました 一日いちにちが違うことを知りました ゆっくり生きていくようになりました 鹿の言葉が分かるようになりました 雨音が優しいことを知りました 損得では動かなくなりました わたしはわたしになりました (『言の森』より「そぼく」) 著者 西尾勝彦 発行所 七月堂 発行日 2018年3月7日 四六判変形 並製 112×155 本文 344頁 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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七五小曲集【新本】
¥2,970
時代に逆らい定型詩の小さな灯をともしてみる 黒船の大砲が轟くことなく、日本がまだ東海中の緑なすオアシスであった頃、学者はことごとく詩人であった…略…この詩集で私は、かつて儒学者が手すさびに漢詩をこころみた顰に倣い、七五調の日本語で四行詩を書いてみた。――序より 月がこんなに明るいよるは 独り静かに笛を吹こう 清き美の国 四季の国 衰えつつある古い国 (月下吹笛) 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 2011年10月1日 B6変形(124x154) 上製 149ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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掌の詩集【新本】
¥2,750
定型詩で心を余すところなく表現する 「この詩集では、専ら七五調四行または五七調四行の定型に拠って詩を書いています。計四十八文字のこの形式を、私は前の詩集で「七五小曲」と名付けました。『掌の詩集』は、その『七五小曲集』(二〇一一年)の続編です。」(「七五小曲について」より) 著者が「自分の心に最もかなった形」と語る七五小曲で描かれるのは著者の人生全て。縦横無尽な表現は「定型」は「制約」ではないという事を雄弁に語り、その魅力を教えてくれる。人生郷愁編、春夏秋冬編、列島地誌編、生老病死編、学問文藝編の五編。平安時代から近世にいたるまでの著者の考察をまとめた「七五小曲について」を収録。 少年に 一人前になるために 越えねばならない恥の道 僕は秘かに知っている その峠路の地形図を 林間逍遥 病得て林を歩く かさこそと落葉ささやく 遥かなり青雲の日々 今こそは人生の秋 朝の出勤 体は先に抜け出たが 心は蒲団の中にある 職場へ赴くバス電車 身柄は定時に運ばれる 自ら嘲る この家の主人は詩を愛す 雪月花に遊ぶなり しかし給与が薄いので 梅干し齧って瘦我慢 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 20年8月6日 95×135 上製 箱付き 245ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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星綴り【新本】
¥3,300
倉本侑未子詩集 地球という惑いの星で織りなされる生と死の循環 倉本侑未子の紡ぐ言葉は静かな音擦れ。 病院の待合室、遠くで響くインターフォーンの音は空気を押し流してゆく。 老樹の傍らで座り続けたい、そんな思いを引き出すのは、森のかなたに消えた歌声。 錨を降ろす場所を探す日々の声はモールス信号となる。 【作品紹介】 潜水 蔦の葉が涸れかけたプールの底へ 一散に手を伸ばす もう届かないだろうか 潜りつづけた 自身にもっとも近い場所 そのままでいて欲しくても 息継ぎのたび 様変わりしていく風景 けれど水の中の地下室は いつも同じ ひんやりした半透膜の壁は 地上では漏らせない声を そっと潜(くぐ)らせてくれた 銀色の吐息とともに 目も耳も心も 何もかも溶かしこみ わたしは揺らめく水溶液になる 消えていく水紋 間遠になる水音 心拍の心地よい危うさ…… 打ち解けていた薄明かりが いつのまにか遠ざかり 強い陽射しが照りつけると 水はするすると引き いまはもう指先を濡らすだけ ひび割れたプールサイドで 蔦の葉が底を見下ろしている ――逃げ水? 水銀(みずかね)色の余滴を掌(たなうら)にしまい込むと 遥かな鈴の音が消えがてに響く 冬の幾何学 蜘蛛よ かぼそいモノローグは 絹糸のゆらぎ 螺旋のうねり 漆黒のなか 補助線も引けずに どうしたら聴きとれるだろう 声の大きなものたちが 肥大した舌をだらりと垂らし 地上が弛緩する頃 声なきものの顫える忍耐が 脈打ちはじめる 痣だらけの空と地のあわい 連綿と継ぐ自問自答 不断に傾ぐ多角形 今宵 凍てつく大気のもと 六(りっ)花(か)が無言の合図を送ると 君は手製のカタパルトから 馭(*)者座めざして 空(くう)を蹴る *馭者座(Auriga)…五角形をなす北天の星座 真冬の夜に南中する 著者 倉本侑未子 カバー装画 長谷川潔 発行所 七月堂 発行日 2023年1月15日 A5判 208ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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じぇるも い のちぇ【新本】
¥1,650
【内容紹介】 荒野をさ迷う私の今は夜 兄が亡くなって、今年で五年になります。 グリオブラストーマとは、脳腫瘍膠芽腫のことです。兄が救急搬送された先の病院で余命一年半、五年生存率は5%と告げられました。現代の医学でも治ることは難しい病気です。 つい最近になって「なぜ、わたしは兄の闘病記ではなく詩というスタイルを選んだのだろう?」と不思議に思いました。わたしにとって最も〈リアリティ〉を表現できる手段が詩だったから詩を選んだのだと、今思っています。 わたしの感じたあの頃の現実は夜の記憶ばかりです。タイトルに夜(のちぇ)という言葉を入れたのもそれが理由です。 (著者 あとがきより) 【作品紹介】 さあばあだうん (中原中也の声がします) 脳がさあばあだうんして 海辺の飛行機は健全です 墜落する天使はミクロの世界に向かうため 復旧の目途は現在経っておりません 脳内には静かなブロッコリーが満ちあふれ 日々増殖して 世界を宇宙を浸食していきます やがて宇宙は美しいみどりにむせ返ります 植物に慈悲があったならば 脳はさあばあだうんしなかっただろう わたしはひかる宇宙のブロッコリーをもぎ取って一口齧り 兄の永遠に復旧しない脳のことを思い浮かべました Noche そこは暗闇というよりは 液状の夜 よく磨った濃墨でできた湖に そっと右足を入れる 左足も入れる とろりとした夜の中に 身体を沈めて目を閉じる 伝えたかった言葉が夜に溶け出してゆく それらは文字になる前に形を失う そしてからだは空っぽになって 眠りに落ちる 右手に握っていた墨が するりと湖の底に吸い込まれていった 深い夜の底に 音の消えた湖に 月が静かに溶け始めた 著者 荷田悠里 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判変形 71ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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しかが【新本】
¥1,100
【内容紹介】 これは、一冊のオルゴール ページをめくり、言葉を追ってゆくと、 いつの間にか音楽が奏でられていることに気づく。 手回しオルゴールのハンドルを回すように楽しめる一冊。 【作品紹介】 くる しか しか こない した した した した した した の みみ こい こい しか こい しか こない こない で こい っ て き かない き かない きかないから か な の ないから どうし どうしが どうし て どうし ても どうし でも ほしい めいし じゃ ふくし じゃ なく う ごく どう し う ごく もの どう した したって お したい して した って うごく もの どうし たい どうし ても いつ いつも いつ も 著者 小沼純一 発行所 七月堂 発行日 2023年5月19日 B6判変形 39ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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不知火【新本】
¥3,300
【内容紹介】 「不知火」に導かれて幻想的世界へと誘われる短編小説集 子供のころ世界の七不思議という題の本が家にあった。そこには昔ある天皇が九州を旅していた時に不思議な光が海に湧き出るのを見てあれは何かと漁師に尋ね、漁師が知らぬと答えた故にその火を不知火と名付けられたという話が載っていた。その火がどのようなものかついぞわからぬままに、むしろその響きの持つ玄妙な美しさに魅かれて、それがいつの間にか不思議なイメージとなって心に残った。真っ暗な海、彼方に光のようなものが浮かび上がる。いや、この世の光なのか、眼の裏側にしかないものなのか、いぶかしんでいるうちにそれが次第に広がり始める。沖合全体が輝き始めたと思う間もなくもうそれは思い出のようにふっと消え去ってしまい、そこにそんな光があったと思うのもまたうつつか夢かわからぬあえかなほのめく匂いのようににじんで行ってしまう……横浜に移り住んだ五歳のころから海は日常のものとなり、目にも、体にも親しいものとなり、昼の美しさにも夜の星空にもいつに変わらぬ甘やかな薫りを含んでいて、それに懐かしさを覚え、自分にとって、懐かしいという言葉は聞けば直ちに海の匂いを思い浮かべるものとすらなってしまった。(前書きより) 著者 知火 発行所 七月堂 発行日 2023年2月10日 A5判 379ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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秘剣まぶさび【新本】
¥1,980
【内容紹介】 ジョイスへ秘剣で挑む/光る滝に飛びかう超絶短詩 本詩集の発想の原点には、空海の『般若心経秘鍵』がある。般若心経の言葉を解釈する空海が、仏などの尊格を自在に飛びかわすさまに、驚嘆したのである。ワタシも、せめて言葉を剣のまわりに飛びちらせてみたい。そう妄想したのである。 超絶短詩とは、一つの語句を、擬音語・擬態語を含む間投詞と別の語句とに分解する詩型で、すでに三〇年近く前から提唱し実践してきた。今回は、各ページに、語句をいくつか組みあわせたものを縦一列に配列し、それを分解した超絶短詩を、縦線の左右に配することにした。いちおうの数え方としては、一ページに一詩篇となる。 (「あとがき」)より 著者 篠原資明 発行所 七月堂 発行日 2023年2月3日 A5判変形 105ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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子犬は跳ねて 空の色に溶けた【新本】
¥1,980
【内容紹介】 生きる神秘 そのアイロニーを超えて 私たちは不確かな日常を生きている。 私たちはヨブの日々を生きているのかもしれない。 「受難という永劫の受動態を、一瞬だけ受動態に置換するモメント、それが詩である」野村喜和夫の栞文より 【作品紹介】 「紫陽花の森」 ベッドに腰掛け、テレビの画面を眺めていた母 「ひさしぶり わたし 誰だかわかる?」 目をあわせずに、窓の外に視線を移す小さな背中 介護療養病棟の真四角な天井に 無言の時間が流れる 「散歩 行こうか?」 杖を片手に立ち上がった母が着ていたのは 袖口がほつれたTシャツ 父があわてて選んだのだろう 私は着ていたレモン色のカーディガンを脱いで そっと肩にかける 「あめ ふってないのね」 つぶやきながら母は、曇り空を見上げる 裏庭へ回ると、小道の脇に幽かな光を放つ一群れ 紫陽花だ 母の顔がぱっと輝き 私の手をひいて転がるように近寄った レモン色に背中を丸め 色褪せた花に頬をよせて、いつまでも眺めている (知らなかったよ 好きだったんだね あじさい) 散歩から戻り、ベッドへ倒れこむと 花を眺めていたときの横顔で 小さな寝息をたてた 帰りのバスの後部座席 振り返ると、紫陽花がこんもり茂った一角 戯れながら折り重なる花々が、森のように咲き誇り 建物の白壁を鮮やかな群青色に覆い隠している (守られていたんだね 花たちに) ガラス窓の向こう 冴え冴えと浮き立った紫陽花の森が 曇天の空まで 広がっていて 「きみはいつも」 けっこんしようか こいぬのみみもとに ささやいた けっこんってなあに てれびをみながら こいぬがたずねた いつまでも いっしょにいようねって おやくそくすることだよ わたしのひざのうえに あごをのせたまま こいぬはちいさく あくびをした * * きょうはこれがいいな こいぬがせのびして コンビニのたなから トマトジュースをえらぶ かいものかごいっぱいに ビールとぽてちもほおりこむ レジにならんで 小銭をかぞえるわたし ガラスとびらのむこうで そらをみあげるきみ きづいてたよ きみはいつも ざわわ ざざざわ かぜのおと さわがしいから ゆうぐれのさんぽは ここまで 著者 佐野亜利亜 発行所 七月堂 発行日 2022年9月27日 四六判 121ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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襤褸【新本】
¥1,650
【内容紹介】 まとってきた「時」はわたしの襤褸 辞書を引くと「襤褸」とは「ぼろぼろの布」「ぼろ」と出てくる。 野間明子の生きてきた日々は何気なく語られているが どのような運命もさりげなく受け止めてゆく。 【作品紹介】 橋 狭い橋の上ですれ違ったとき 赤ん坊を抱いた女が転げ落ちた ぶつかったわけではない そっとのぞくと ずぶ濡れになった女が赤ん坊を抱いて流れのなかに立っている ああ けがはないようだ ほっとしてまた橋を渡りかけると 見損なったわ 後ろで声がする 驚いて振り向くと一緒に歩いてきた女が 背を向けて引き返していくのだった ああ 失敗した 俺が悪いんだ 女は決して振り返らず どんどん遠ざかっていく ふたりが一緒に歩いてきた道のはじめ 小さく川が光っているあたりまで引き返して 光のなかへ見えなくなった 夕映 手探りで鍵を開けると 赤い部屋に息子が突っ立っている 父ちゃん 俺やっちゃった やっちゃったって 母ちゃんはどうした 息子を押しのけて死体を捜す なぜ 死体がないのか なぜ 死体を捜しているのか 夕映が喉を破って俺からも噴き出しそうだ 幽霊 黄色くなるんだ 見てしまうと 白い壁 バターを擦ったみたいに 白い 天井とかも それって あれですかね もろびとこぞりてを歌うか 目を瞑って家事をするとか 大丈夫かいおまえさん 外出てたほうがいいんじゃない うんでも家にいたいから 黄色くなるってことですよね 歌うよもろびとこぞりて だいじょうぶ小学校で演った貧乏靴屋の親爺 帽子を胸に当て主は来ませり主は来ませり 夜中のトイレも怖くない 黄色くなる バターを溶いたみたいに 見てしまうと 今日なんか絶好の洗濯日和で 朝から干して真っ白く乾いたシーツ 午後まで干してふかふかの蒲団に掛けて 思わず 見たらば バターを流したみたいに 滲んで 泛ぼうとする誰か知らない 来ないで 来ないで拳握って叩いて 叩いて叫んで叩いて叩いたら 移ろう夕光のなか 黄色褪せて 黒ずんで 悲しげに穴の眼を瞑って硬直したヒトのかたち 枯枝の両腕広げ 別になにもしないんだけど なにか悲しくてね 目を伏せてももう消えないんだ 著者 野間明子 発行所 七月堂 発行日 2022年7月17日 A5判変形 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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手癖で愛すなよ【新本】
¥1,870
犬飼愛生詩集 それぞれの日常を消費してしまわないために 【作品より】 B面 春が始まった いつまでも終わらない夢みたいに 町のなかを小さく歩いて食糧を買った 遠くのビルからは拍手 東京は青くライトアップ あの人のマスクは小さすぎて あの人のマスクは大きすぎて 私たちは棒グラフになって 週末には画面の中で乾杯する 子どもたちは日付を忘れて 暑い日にはTシャツを着て どうぶつのいる森へ入って行った 大人はときどきニュースを見る事をやめた 足元に貼られた足型にぴたりとつま先をそろえて待った 二月の終わりを生きながら 聴いたことのない音楽の流れる春だった まだこの世にないメロディー どこから流れてくるのかわからなかったし 怖くて 家の中にとどまった それで私たち、また画面の前で落ち合ったりした さくらは可憐に咲いて知らぬ間に散ってしまったけれど 私たちは B面のような世界を生きて 閉じていたとびらを開け放って 呼吸している 私は食いしん坊 食べ物がでてくる詩が多いですね、と言われた ボロネーゼ 生姜の佃煮 ケーキ 寿司 ポテトサラダ ゼリーポンチ リンゴジャムパン… もっとある たしかに 食べ物の詩をたくさん書いてきた 食いしん坊の私には 作ることで閃いて 食べることで開けたいくつもの扉がある キッチンに立って、わたしは料理を作る 思考は分裂しながら フライパンの中で炒められる しんなりして 無心で火が通って行く様子を眺めている 場面を刻んで塩で揉む 味付けは、いつも難しい たまには 誰かが作った おいしい料理を食べて扉を開く あの時 一緒に食べたことを思い出す 善や悪や偽りや本心など 消費したんだよ 時間と感情もね 君の口からでた意外なことば 掬iい取ってスプーンで自分の口に運ぶ 毒でもいいんだ 毒を喰って書けるなら本望だ また一緒にごはんを食べましょうね 著者 犬飼愛生 発行所 七月堂 発行日 2023年8月25日 四六判 88ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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還るためのプラクティス / インカレポエトリ叢書22【新本】
¥990
今宿未悠詩集 第1回西脇順三郎賞新人賞 受賞作「猿」収録 息を吸って吐くこと は、言葉に回収されなければいい 【作品紹介】 採血 三叉路 がうまれますこれから注射針もう一つの道になって 腕にもりあがる血管のひとすじ、 何度も確認するように撫でる指先、 アルコール液を含んだガーゼは冷たくて、 覆いかぶされる腕 血管のところ 「いたい」 いたいことは、始まる前からわかっていたし、始まった後やわらいでいく 注射針あたらしい脈になって しゃばしゃば 外に流れ出ていく、液体 老朽化したダムの壁と壁のあいだから 豪雨に耐えきれず 外に流れ出ていく、 がさついた映像を眺めていた 頬杖をついて 生中継を 遠くのことだと思った 雨の匂いは、雨が降る前にわかる たとえば氾濫する川のこと マンホールから溢れてとまらない下水 骨の折れたビニール傘 暴風が 犬をまきあげて 攫ってしまった 「ふらつくかもしれないので、おちつくまで椅子にかけてお待ちください」 腕にバンドを巻かれているのは止血のため 待合室の椅子のやわらかく 精神科は精神を整えるための理想的な空間です パウルクレーの絵画、クラシック音楽、淡い水色の壁紙 paul klee klee くれ ください 犬 犬を 追いかけるぞ エスカレーターを駆け降りて豪雨に出ると風が髪をまきあげる髪は頭皮に繋がれているから攫わ れない 「あぶない」 あぶないことは、出る前からわかっていたし、出た後も続いていく 「そんなこといわないでっ」 叫んで走り出した、握りしめた処方箋どろどろになって繊維になって溶けていくのを薬局の人がサンダルを突っ掛けて追っかけてくる ここに持ってくるまでにそれ溶かしちゃいけないんだよお! いやだ犬を迎えにいかなくちゃいけないんですものわたし! いまごろずぶ濡れて雑巾みたいになっている犬かわいそうに 河原にいるかな そう河原にいる 河原にいってみようか! 薬局の人の手を引っつかんで風に乗る ひらり舞う 轟轟轟轟の風に乗れば意外とかろやかだ! 氾濫する川のこと 河原に向かいますわたしたち河原に向かえばきっとそこには犬がいるはずです助けてあげなくちゃならないかわいそうだ犬だから自分に何が起きているのかすらきっとわかっていないだろうお薬もらうのその後でいいですので自律神経とか整えている場合じゃないんです精神より生命の方が優先すべき事項でしょう! 氾濫する川のこと ほらあそこが隅田川だ! 生中継でさっき見たけれどもこんなにも近かったなんて知らなかったよもう他人事じゃないな、ああ、あんなところに雑巾みたいな犬がいる! 犬をください処方箋はもうこの頃には溶けるどころか握っているものはもはや何もなかった、薬局の人のサンダルは気づいたらふき飛ばされていた、でも犬がいますので大丈夫です犬は生きております! ほら濁流に怯えている茶色い水にかわいそうに今助けてあげるから風の流れから離脱したい! しかしながら離脱できない! どうすればいいんだ私たちずっと風に乗ったままこういうのって普通犬を助けようとした人も一緒に濁流に飲み込まれて行方不明になる理想的な結末からほど遠く! 自律神経が不安定な私とサンダルを飛ばされてしまった薬局の人がずぶ濡れになった雑巾みたいな犬を見ながら、空中で混乱している! 著者 今宿未悠 発行所 七月堂 発行日 2023年8月20日 四六判 98ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あかるい身体で【新本】
¥1,650
海老名さんの詩を読んでいると、いつのまにか呼吸が深くなっていることに気がつきます。 読み進めていくほどに身体が軽くなっていくような気さえしてきます。 それはきっと、他の誰に与えられるものでもなく、自分でみつけることが出来たからこそ大げさに表明しなくたっていい。 そんな淡い光を放つ、やわらかな肯定感のように感じるのです。 この一冊の詩集を包み込んでいるものは、そのようなものたちなのだと思うのです。 「灰色の猫」 足がしびれて朝です もうこれで最後と繰り返して フローリングの床を滑ってしまう 終わりにしたい物事を 持っていることは 少し背中を丸くする わたしは装置なので 故障しやすい部分もあるし 通り抜けていくいろいろの感触を 受け取ったり流したりする 言葉は わたしが生めるものではなくて 組み合わせだけを考案できる 研ぎ澄ました指先で感触を編んで 片隅から放つ 重さは絡まり合ってほどけない糸 背中に猫を作っている 抱きかかえられることを拒んで そのくせ爪を立てて離れない わたしだけの猫 春先のすーっとした冷え込みは ふるい灰色の記憶を引き出す 再生を止めたいのに 毎年律儀に胸をひっかきにくる 終われないから そこに とどまる感触があって ちいさな子どもの身体だったことを 覚えている 灰色の猫を背負って わたしは続いていて 今日も 世界の手を取る 著者 海老名 絢 発行所 七月堂 発行日 2023年8月20日 四六判・小口折・帯付 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鳥のように イルカのように ソネとバラード【新本】
¥1,650
【内容紹介】 井上舎密詩集 「詩と音楽に一生浸っていたい」詩人の魂 小説『パートナーズ』(文芸社)を遺してこの世を去った著者のもう一つの遺作。 詩人・井上舍密の足跡がここに在る。 本に埋もれた日々の中で「存在と時間」を謳歌したに違いない。 【作品紹介】 友 メタリックの車が滑り込んでくると 開け放しの天蓋が閉じられて 作業帽髭面繋ぎの服装の人物が 手を振って下りてくる 満を持しての論議が始まる 相手は譲ることを知らない好敵手 激昂するとテーブルを叩くことも すべて織り込み済み 思いの丈を語り終えて 口頭禅の境地に近付いたと思うと 反論の機会を相手に委ねたままいつしか 安らかな寝息を立てている ジェット・コースターに乗って友が去り わたしは回転木馬とともに取り残される 流木片 手稲山系の源流辺りから 春先の出水によって搬ばれてきたのか ここ中州まで辿り着いてすっかり 縁の摩滅している流木片 一日中聴いていても飽きない 砂利のさざめきのトレモロに載せて ゆったり口遊み始めた流木片の語りを そのまま口伝えできるものなら 渓谷渡渉中の若いカップルが 増水の急襲に遭って脚を掬われ すぐにどこまでも流されて行った しばらくは一緒にやがて別々に 流木片の問わず語りに聴き入るわたしを いつしか水が浸し始めているらしい 著者 井上舎密 発行所 七月堂 発行日 2023年7月7日 四六判 176ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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声を聞きたい【新本】
¥1,650
声が聞こえてくる歌を作りたい。 そして、私の歌の言葉が声となって 誰かのなかを流れる日があるなら、うれしい。 2014年に単行本で発行し絶版となっていた江戸雪歌集『声を聞きたい』が、七月堂叢書シリーズ第二弾として復刊しました! たわたわとまぶしい朱欒こえあげて泣いた私はきのうのわたし いま空がね、風がね、などと言いながら言葉がなにを伝えてるだろう あさがおの蔓あちこちにぶつかって夏にはいつも自転車なくす この窓をすぎて地上に下りていく雨は雨だよ比喩にはしない くらくらと飛んでる鳥を見ていたら誰かに云ってしまいそうな恋 未知の場所 声にしたことない言葉 雨にぬれつつ考えている なんでこう伝わらないかと見あげたる夕べの雲はぜんぶ紫陽花 そこにいてそこで見ていて立ち上がることがどういうことか見せるから わたしには言葉があるとよろこんで海にむかって歩いたずっと 著者 江戸雪 発行所 七月堂 発行日 2021年5月20日 四六判変形 110×160 224ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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ひかりのような / インカレポエトリ叢書21【新本】
¥990
栁川碧斗詩集 【作品紹介】 曙光 それは深雪によりさ迷うよ うな状差しが産室を定めと りとめのない胚胎が重なり 嗚呼水源の幻のようではな いかと産褥を繕う助産師は 姿見に振り向く借景が空閑 で見付ける面影はきっと褪 めないあなたに朝焼けの光 著者 栁川碧斗 発行所 七月堂 発行日 2023年7月20日 四六判 94ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鬼は来る【新本】
¥1,650
【内容紹介】 千石英世詩集 そのまま夜空の中をおゆきなさい 夜の奥が西だから 【作品紹介】 旧庭の教え 西宮苦楽園(にしのみや くらくえん) 大きな靴に 小さな足をしのばせて 庭を歩く やわらかなつま先が靴のなかをまさぐって かたい拳になってゆく 靴のなかがすべる つま先が 小さな風を追い ひるがえる 小さな足 驚愕の真昼となったのだ 苔の緑が美しい庭だった 大きな靴は人を不幸にするのか 小さな靴に ガラスの色を塗る 塗り絵のなかの小さな靴だった きのう見た絵本では肌色だった あした見る絵本では そこは真っ赤に焼けた鉄になる 靴が人を不幸にするのか いったいわたしは何足の靴を履きつぶして わたしを脱ぎ捨ててきたのか 履かなかったスニーカーがある だから靴ズレ姉妹と付き合うことになったのか 買わなかったエナメル靴がある だから義母の外反母趾を慰めることになったのか 仏足石という冷たい大きな足にさわったことがある そこにはホトケの目が深々と刻印されていて その奥は水でぬれていた 植木屋の地下足袋が流れるように走る美しい庭だった ふかい苔の緑のなかに 靴が倒れている 眠りの終わりを夢みるように 翳りはじめた真昼の奥に 著者 千石英世 発行所 七月堂 発行日 2023年7月7日 A5判変形 160ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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彼女の劇場【新本】
¥1,650
【内容紹介】 誰を好きになるのかを 選ぶことはできない そうでしょう? 女の体をもって生まれて生まれてきた以上それにまつわる経験や感情が塵となって積もり、時には噴出したりさみしく漂ったりするわけです。ここではそんな地層から生まれた棘や毒、伏せた眼差しを主に集めています。書きものの常で、各作品の主人公たちはすべてが私というわけではありません。 (「あとがき」より抜粋) 園イオ第一詩集刊行 「三億光年の闇が広がる」中にスポットライトは当たる。 【作品紹介】 真夜中のチェリーブランデー とろみが臓腑に落ちるのを見届けたら 二の腕が弛緩するのを待つ 全身にささった針が 一本また一本と抜けていく金曜日 頭の中の「ねば」「たら」「のに」の 分厚い石壁が ずずっと四方に退く 腰がすとんと落ち 頭皮が鶏頭のように楽園へと開花する 真夜中のチェリーブランデーは 痛み止めであり眠り薬 私は何を鎮め 何から逃げていこうとしているのか そこんとこよく考えないと まあいいや 明日考えよう エヘヘへへ 私は真綿色の花びらのベッドに ふにゃふにゃ沈んでいく 守られているのが当然といった体で 月は夜空に煌々と光らせておいて 土曜日の朝にはチェリーブランデーは 罪悪感という名のハイオクガソリン 朝もはよから生産的かつ能率的に 頭のすみに積もっていた「ねば」を 一気に片づける 家中の窓も床も 朝イチにピカピカに磨いたあとは すばらしい詩が三篇もできた 天才か? これからコーンフレーク食べて 白い犬と笑いながらサイクリングしようか アメリカのテレビCMみたいに このハイオクは三日はもつ そしたらまた始まる ルビー色の螺旋 化身の巣 わらわらとわき出ては帰って行く 水をかけても線香をたいても ちょっとあわてるだけで 一直線のねじまき時計のように チクタクと隊列にもどる 蟻が部屋を這う 東の窓の下に住処をつくった さてはあいつか 亀虫 蓑虫 手長蜘蛛 使者はいろいろと現れては消えたが 蟻を寄こす奴ははじめてだ 殺虫剤をふきつけると 絶叫が聞こえた 一瞬激しくもがいたあと 屍が累々と毒の川に打ちよせる 蟻を蟻となさせしめたのは 忙しく動く細い手足だったのか 一匹だけが生き残り 床に落ちた三日月の爪には目もくれずに 手の甲から二の腕に螺旋を描く 帰れ帰れ東のほうへ お前が探しているものは もうないよ 肺の底まで息をためて 一気に吹き飛ばす 川のむこう 24・3キロメートルのかなた 彼の部屋の西の窓には 私の熊蜂がぶんぶん唸りながら 曇りガラスにぶつかっていることだろう 男は眉をひそめ 青い目で見つめていることだろう 著者 園イオ 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判 88ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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くもこちゃん まーすけーい歌【新本】
¥1,210
沖縄の空を飛んでみたい人、くもこちゃんが案内してくれますよ。 むかしむかし沖縄が琉球と呼ばれていたころ 「雲子色」という言葉がありました その意味は「美しい色」ということ それしかわかっていません 今は使われなくなってしまった言葉だからです。 むかしむかし「まーすけーい」の歌がありました。 まーすは「塩」、けーいは「交換する(替える)」という意味です。 音の台所の茂木淳子さんは音楽紙芝居として「くもこちゃん まーすけーい歌」を伝えています。 読谷村の口説歌謡、まーすけーい歌(塩替え歌)を知り、くもこちゃんとともに読谷の長浜から泡瀬への空を飛んだのです。 かつてこの道は長浜の娘さんたちが薪を持って泡瀬の塩田へ行き、塩と薪を交換して長浜へ戻ったのです。 くもこちゃんはその道をモンパノキやホウオウボクと声を交わしながらたどるのです。 琉球から沖縄、沖縄から琉球、時を超えるくもこちゃん。 お金でものを買うのではなく、持っているものと欲しいものを交換して暮らしていた人々に出会わせてくれる道を案内してくれます。 物語と絵は茂木淳子さんが描いています。 『くもこちゃん』 https://shichigatsud.buyshop.jp/items/27161352 著者 音の台所(茂木淳子) 発行所 七月堂 発行日 2022年7月4日 160×160mm 24ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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光の小箱【新本】
¥1,650
【内容紹介】 神泉薫エッセイ集 母となって見つめた子どもの記憶、自らの子ども時代の記憶、タンポポやシロツメクサの花冠を編むように、ひとつひとつの温かな記憶を紡いで一冊とした。(「あとがき」より抜粋) 「空の下で」より抜粋 〔……〕 娘が二歳を少し過ぎたころ、自転車の補助席に乗せて、道を走っていた時だ。娘はいきなり、小さな人差し指を高々と上げて、空を指差し、「そら!」、「そら!」と叫んだ。それはそれはとてもうれしそうに。 どうやって、子は、目の前にある「コップ」を「コップ」と、自分が座っている「椅子」を「椅子」と、外に出て、見上げる広い青いものを、「空」と認識するのだろうか。人間の成長の内側で、「ことば」と「事物」がしっかりと認識されるプロセスは、とても不思議だ。 思わず、その声に導かれて、私は「空」を見上げた。「ああ、空だ」。何の混じりけもないまっさらな素直な気持ちでそう思った。そして、うれしさがこみ上げてきた。ことばにして確かに事物が存在する、という安心感、今、娘と二人、「空」を見ていることの、何とも言えない幸福感に胸がすっと温かくなった。あたりまえに存在すると思っていることは、本当はあたりまえではなく、小さな奇跡の積み重ねなのだ。忙しない日常に追われて、少し疲れていた私の目に入り込んできた、澄んだ青空の清々しさは、今も忘れられない。 〔……〕 著者 神泉薫 発行所 七月堂 発行日 2023年6月15日 130mm×175mm 78ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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詩については、人は沈黙しなければならない【新本】
¥1,870
【七月堂創業50周年記念発行 第一弾】 このたび、髙塚謙太郎『詩については、人は沈黙しなければならない』を発行いたします。 2020年12月~2021年9月の間にnoteに連載され、また他の場所で発表したものをベースに、書下ろしをふくんで編集しました。 noteに連載する際、ご自身で作ったルールは以下になります。 ①出来るだけ週に1つ以上追加する。 ②ナンバリングするが、連続性、関連性を意識しない。 ③思いつきで書き、書いたものは1週間以上寝かせない。 本編の編集後、さまざまなわけがあってできた時間のなか、栞文を書下ろしていただきました。 真新しいシャツに袖をとおすような朝にかぎって、雨は陰って軒下までぷつぷつとちぎれていく。でも、それで静かさというものがたっぷりと担保されるのなら、私はこなごなに散ったガラス片として、すべてを見とおせるのではないか。ネクタイを巻く。上着はタンスの横でハンガーにかかったままで。 パックのカフェオレをさらに牛乳で割って飲むのが好きだ。チョコマシュマロやシュークリームをそえて晴れ間にテレビをつけて過ごす。神がかっている。自室に戻ると、買った憶えのない本がいくらもあって、残りのメモリーを思うと暗澹たる気分にも逸れていくが、そこを豊かと言って、さて私に書くという意味をつきつけてくる。つきつけてくるが、ただそれだけで、私は午睡へと沈んでいく。 ──『詩については、人は沈黙しなければならない。』栞文より 本文はもちろんのこと、ぜひ栞にも注目していただきたい一冊となりました。 詩を書くということとは。 詩を読むということは。 ことばとは。 詩集『量』でH氏賞を受賞した髙塚謙太郎が、矛盾もひっくるめて真っ向から思考した記録です。 なぜ、私は詩を書くのか。よく言われる100個ほどの、あってもなくても誰も困らない解答(例えば、人々とひとつになりたい、例えば、魂の叫び)は普通に横にどけておく。一つは、間違いなく、人に読んでほしい。この場合、人は私を含む。ただ、それはいわゆる詩でなくても大丈夫だ。なぜ、私は詩を書くのか。必要もないのに、私はさっきも一つ詩を書いた。なぜか。 それは、言葉という最高に複雑で、最高に意味不明で、最速でアップデートされ、最高に可能な、そんなシステムが目の前に広がっているからだ。数式の美しさや楽しさにそれは近いかもしれないけれど、関数がいつまでも無限に作成可能で、その関数によって生じる機能や像も、あらかじめ予測することがなかなかできそうにない。元手がほぼゼロの、この難易度と自由度の高いオープンワールド系ゲームをプレイしない手はない。 ──本文「4.3」より抜粋 著者 髙塚謙太郎 発行所 七月堂 発行日 2023年6月9日 A5判変形 帯・栞付 116ページ 初版限定1000部発行 シリアルナンバー入 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955