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あかむらさき【新本】

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狂おしいたそがれ ほんとうのことが怖くて

小川三郎の作品は一篇一篇が短編映画のように迫ってくる。書下ろしの2点「あかむらさき」と「夕暮れ」が入っているが「夕暮れ」の中で詩人は「夕暮れに絶望し」かかとで石を割ろうとする。石はかかとをかわし、何かを主張するかのように詩人の頭を割る。「森も川も空も雲も」すべてが夕日を眺めている中でこの行為は行われるのだ。石も夕日を見ているというのだが、「石」って誰?


  老夫婦の手には
  赤黒い手相がこびりついていて
  その手を川に突っ込んでは
  ごしごしとこすっている。
  私は反対側の岸にいて
  もう帰ろうとしていたのだが
  ならばなんとか助けてやろうと
  川に足を踏み入れ
  老夫婦の方へと歩いていった。
  すると案の定というか
  川底はぬるぬるしていて
  足をとられる。

  私が川底に尻もちをつくと
  老夫婦は
  ふたりして顔をこちらに向け
  はっとした様子をしたが
  しかし豊作だ豊作だと言い続けながら
  手を洗うのをよさなかった。
  私の体が
  腰からだんだん
  薄赤く染まる。
  表面だけではなく
  身体の内も
  髪までも赤く染まる。  (「赤い川」より抜粋)



著者 小川三郎
発行所 七月堂
発行日 2018年10月20日
四六判

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