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フレア【新本】

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長尾早苗詩集

太陽になるんだ


心のなかのたったひとりの部屋からうまれる
生きる意志は
言葉を動かす
あなたやわたしのゆらぎをみつめ
刻んで今日を行くために

──北爪満喜



【作品紹介】
「告白」

雲がうねっている
こういう時に体がおかしくなると
わかっていたはずなのに
置き去りの身体を取りに行く
傘をさして
天気予報がわからなかった
小さな神さまはつぶやかない
みぞれ交じりの雨に
つらくなって
ささやかな場所だけで
安らげると思った

同じロゴ
同じパーカー
同じランニングシューズの少女たちが
パン屋へ向かっている、平日
今日の彼女たちのランチはコロッケバーガーだろうか

置き去りの身体は
どこかひしゃげていて
水分を与えなければいけなかった

雲がうねっているから
犬の一族は今日も朝に会合を開き
不穏な目の青年はベンチで何も見ていない目をこちらに向け
そういうものが
ここを
今日一日を不穏にしてしまう

勝手にしてください
いつもの日常をおくることができるように
今日も歩き
そういったものと出会い

そして

黙ってお互いの勉強や生活をしているわたしとあなた
お互い少し離れた場所で
お互いに
今日のスイーツタイムにどのコーヒー豆を挽こうか考えている
あなたがいるここが
好きです
大好きです

どうでしょうか
今日は
新鮮な豆を挽いたコーヒーでも



「ガーベラ」

歳を取っても本を書きたいと
目の前のピンクのガーベラを見ながら
思う
ガーベラは贈り物
こんなふうに真っ直ぐに
わたしの仕事部屋で
するすると光へ
伸びていくガーベラ

わたしだって
光の方へ伸びていく
AirPodsから美しいギターの旋律
その前の
余韻
夜が明ける前の
植物たちが
起きてこない時間に
わたしと
ガーベラは友達である

今日からまた
新しく本を作ろうと思う
ロルバーンを使い潰すように
このツバメノートも使い潰す
何冊も

本を書く生活が
またこれからも
はじまっていく

愛する書店に花束を
見えない読者に花束を
そんな思いで
わたしのことばは
輝きを秘めている



著者 長尾早苗
発行所 七月堂
発行日 2022年8月1日
四六判 114ページ


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