
猫式Nyanical / インカレポエトリ叢書30【新本】
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成田凜詩集
Vertical:月への信心
時刻は朝四時四四分、昨夜の気怠さが透明になっていくことだけがわかって
います。呆れるほど傾いてしまった形骸のまま、それでもまっすぐに歩きつ
づけていられるのは、この心酔のせいだと、誓わせてください。誰のことも
信じていないわけではないのだと。誓わせてください、忽然冷たくなった指
先に、祈らせてください、
蟹みたいにね
いなくなるなら赤く光って
先にいって 星(ほし)ほしかった
最も不幸な妄想のために眠り続けることはないのだと
終(つい)えるときには見(め)されるだろうと
再び時刻は朝四時四四分、右目の痛みは水たまりの泥のような濁り具合で、
頭から胸にかけて皮膚のうちがわが散散(ばらばら)になっていくさまはみじめ、本当に
みじめでした。忘れていただけのことを勘違いと呼んでいた、好きだという
だけのことに終に気がつけなかった、思いなせば、祈れば、よい、と、止め
られなかった、のが、みじめ。みじめでした。
樹海の中に海があればよかった
よかったってなに
海なんか見たことない
でもさざ波にそよがれてみせた
やさしさ
は青かった
舟を出す、時刻は朝四時四四分。白い砂に沈んでしまいそうなほどゆっくり
と歩いてみせました。ゆっくり、ゆっくりと、透明になるための練習をして
おくのです。ういてしまうための焼却のレッスンを今のうちにしておきたい
のです。みな、舟になるのだから。
時刻はわかりませんでした。目覚めてからずっと水平でいることができず、
くるくると回る、天使みたいに羽(はね)る、白くなる、くるくると回る、はねる、
もっと白くなる、くるくると回る、はねる、はねる、羽る、羽、羽、羽、羽、
羽て白く
そして、青っぽい惑星(ほし)にからだは溶(と)られ
かわりに
祈ることはできなくなった
真っ黒な
まっくろな宇宙に
月が燃えていた
銀色に燃えていた
佐々波美月「きみには歩きにくい星」、梶井基次郎「Kの昇天――或はKの溺死」に寄せて
著者 成田凜
発行所 七月堂
発行日 2025年1月30日
四六判 96ページ
【関連】
インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576
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