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ときの旅人【古本】
¥800
【 商品状態 】 帯付 本体:天汚れ少 著者 奈津光平 発行所 七月堂 発行日 2010年3月31日 四六判 90ページ __________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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詩については、人は沈黙しなければならない【新本】
¥1,870
【七月堂創業50周年記念発行 第一弾】 このたび、髙塚謙太郎『詩については、人は沈黙しなければならない』を発行いたします。 2020年12月~2021年9月の間にnoteに連載され、また他の場所で発表したものをベースに、書下ろしをふくんで編集しました。 noteに連載する際、ご自身で作ったルールは以下になります。 ①出来るだけ週に1つ以上追加する。 ②ナンバリングするが、連続性、関連性を意識しない。 ③思いつきで書き、書いたものは1週間以上寝かせない。 本編の編集後、さまざまなわけがあってできた時間のなか、栞文を書下ろしていただきました。 真新しいシャツに袖をとおすような朝にかぎって、雨は陰って軒下までぷつぷつとちぎれていく。でも、それで静かさというものがたっぷりと担保されるのなら、私はこなごなに散ったガラス片として、すべてを見とおせるのではないか。ネクタイを巻く。上着はタンスの横でハンガーにかかったままで。 パックのカフェオレをさらに牛乳で割って飲むのが好きだ。チョコマシュマロやシュークリームをそえて晴れ間にテレビをつけて過ごす。神がかっている。自室に戻ると、買った憶えのない本がいくらもあって、残りのメモリーを思うと暗澹たる気分にも逸れていくが、そこを豊かと言って、さて私に書くという意味をつきつけてくる。つきつけてくるが、ただそれだけで、私は午睡へと沈んでいく。 ──『詩については、人は沈黙しなければならない。』栞文より 本文はもちろんのこと、ぜひ栞にも注目していただきたい一冊となりました。 詩を書くということとは。 詩を読むということは。 ことばとは。 詩集『量』でH氏賞を受賞した髙塚謙太郎が、矛盾もひっくるめて真っ向から思考した記録です。 なぜ、私は詩を書くのか。よく言われる100個ほどの、あってもなくても誰も困らない解答(例えば、人々とひとつになりたい、例えば、魂の叫び)は普通に横にどけておく。一つは、間違いなく、人に読んでほしい。この場合、人は私を含む。ただ、それはいわゆる詩でなくても大丈夫だ。なぜ、私は詩を書くのか。必要もないのに、私はさっきも一つ詩を書いた。なぜか。 それは、言葉という最高に複雑で、最高に意味不明で、最速でアップデートされ、最高に可能な、そんなシステムが目の前に広がっているからだ。数式の美しさや楽しさにそれは近いかもしれないけれど、関数がいつまでも無限に作成可能で、その関数によって生じる機能や像も、あらかじめ予測することがなかなかできそうにない。元手がほぼゼロの、この難易度と自由度の高いオープンワールド系ゲームをプレイしない手はない。 ──本文「4.3」より抜粋 著者 髙塚謙太郎 発行所 七月堂 発行日 2023年6月9日 A5判変形 帯・栞付 116ページ 初版限定1000部発行 シリアルナンバー入 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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sound&color【新本】
¥1,320
やすらいはなや やすらいはなや 文字をつかって言葉をつらねるとして、愉楽をもたらすものが果たして何なのか、とかんがえてみますと、それはまちがいなく韻律の仕掛けによっているということがわかります。流麗さもさることながら、摩擦の多い韻律であってもそれは変わりません。むろん黙読をするときに幽かに脳の舌先で転がされる韻律のことです。もちろん言葉ですから、そこに意味と名指される何かは付着するわけですが、意味が愉楽をもたらすわけではありませんので、いうなれば添えものに過ぎないのかもしれません。ただし、言葉がもつ幾重もの意味の層が常に揺れつづけることで色がひろがり、私たちの脳である種のリズムが生まれてくることも確かで、韻律といった場合、単なる音韻上のリズムをさすわけではなさそうです。――髙塚謙太郎 髙塚謙太郎 著 詩集 2016/07/15発行 130×205 A5判変形 並製 第二刷 発行 七月堂 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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新装版 量(サイン本あり)【新本】
¥3,300
《私》は救われる 第70回H氏賞を受賞した『量』。 サイズをA4判からB5判へと変更し、書下ろし詩篇「ハンコック──1984 あるいは球体は《私》は記述している記述──』を収録。 新装版として発行しました。 限りなく無意識にちかい意識のなかで自由に飛躍する詩のことば。 読むほどに広がってゆく髙塚謙太郎の織りなすことばの美しさに、何度でも出会えるだろう。 著者 髙塚謙太郎 装幀 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行日 2022年5月25日 B5判 276ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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量(サイン本あり)【新本】 ※送料をご確認ください
¥2,750
髙塚謙太郎詩集 「詩」と「歌」が一体となって届けられる時、その「ことば」には新鮮な美しさが宿る。 髙塚謙太郎3年ぶり5冊目となる新詩集!! 書き下ろし、私家版詩集、ネット上で公開された「〈末の松山〉考」などを収録。 広い紙面のうえ、新しい構図で詩篇の解体と展開を試みた。 限りなく無意識にちかい意識のなかで、自由に飛躍する詩のことば。 読むほどに広がってゆく髙塚謙太郎の織りなすことばの美しさに、何度でも出会えるだろう。 「目次」 七竅 Blue Hour HANNAH 花嫁Ⅰ 〈末の松山〉考 あ文字のいた夏(マイ・サマー・ガール) Memories 花嫁Ⅱ 「背のすらりと、 抜けていく気がしたから。 思えばテレビの明るさ、静かさ、 暗さがこんなに女のひとのほつれて、 立ち姿が聞こえてくる。 水の溜まった視細胞はわたしは深く、 深さは、ひとかきで闇をやぶって、 映りこんでしまった手の白かった。 文面のまま、 春を待って 会いにくるとは。」 ─本文より抜粋 著者 髙塚謙太郎 発行所 七月堂 発行日 2019年7月15日 A4判 253ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊 →「クリックポスト」 *2冊以上 →「ヤマト宅急便」 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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アウフタクト / インカレポエトリ叢書24【新本】
¥990
源川まり子詩集 走れ走れ、張られた薄紙が浮いてきてしまうほど/風をたてる。走れ走れ、 【作品紹介】 なめらかな都市のエコー トラックナンバー不明、暗い部屋、まわるレコードに印さ れた都市の名前、円盤に扇型の影がかたどられて エコー 検査みたい、とぼんやりしたコントラストをみつめる 寝そべった視点、風景、黄ばんだ枠に囲まれた旧式のモニターは湾曲していて、身体だと思って いたのも同じような光のつぶつぶだったのだ、と水を嚥下する プラスチックの接地面と身体と の間にさしこまれるつめたく澄んだゼリー、お腹に赤ちゃんのいるひともあの機械を使うのだと 知ったのは、病院に通わなくなって随分経ってからのことだった モノクロームの絵本、軌跡を 描くストレッチャーはましかくの枕をたたえながら走る 子どもの頃、やわらかくふくらむ腹を見るたび そこに生命が宿っていることを密かに祈った どうやって信じればいいのだろう、画素として広がる腹腔のなかの海 あるいはそこに他者が宿りうることを? 都市は移動する、フィールドレコーディングされた町の音 声は砂埃をあげて、今はなき町の無形の跡を落ちていく針、 記録された音の内部にいる人々は永遠に無名 画面に映っ た靄の正体はずっとわからないままで 砂粒みたいな濃淡 が示していたのは異常のしるしだったのか あるいは日常 にあらわれた砂丘のような遊び場を保っていたのか うつ くしい遊び場を われわれは想い続けることができるのだ ろうか? 引き受けた愚かさが轟音をあげる あの日、目で追いきれなかった都市の名はサイゴンだったと あとで友人が教えてくれた 人々は町をさまよい歩く 簡単ではないやさしさ 想い続けることをやめないで 波、あるいは絶え間なく押し寄せる声 ダイナー 人間という音はインゲンと似ていて わたしはかつて おいしいインゲンを食べたことを想起し 甘さ、あるいは少し土っぽいにおい くぐもった青臭さに焦がれていたのだが どこで出会ったのか もう思い出すことができなかった 咀嚼を続ける頬には 三角形をかたどったホクロがあり 黒目だけを動かして点と点をなぞる 外ではサイレンがけたたましく鳴っていて 誰かに逃げろと合図する轟音が部屋に響くとき われわれの暮らしは反射光として継続される やわらかな彫刻 となりに、横たわっています つかまり立ちをする赤子のようなおぼつかなさで 顔の稜線を震えながらなぞる 眼窩の凹みがぴくりと振動するたびに 素肌の内部にある星座は居心地悪そうに伸縮し 座標を正確になぞることができない、だから ひとつの整った食卓を眺めては 皿のはざま クロスにこぼれた食べかすを 指の腹に押し付けて 拾いあつめておいたのだった 傘をさして歩く 道ゆくひとびとが足を止める橋 もしくは 流れがぐんぐん速まる川 ふかい洪水に抱きすくめられ、わたしは竜になる 今日も机を挟んで座る そうやって対峙しつづける限り ごはんはきっとうまい はずで 背中にすり寄せられた頬の重量が 肩甲骨の隙間を埋めていく きれいな水面の上澄みだけをあなたにあげる スープを飲んで黙ってうなずく 著者 源川まり子 発行所 七月堂 発行日 2024年1月10日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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おじゃんこら【新本】
¥1,500
青山かつ子詩集 【作品より】 きょうだい 五さいと七さいのきょうだいは わんぱくざかり ぶってぶたれて わめくふたりを 母さんは うら戸をあけ つもった雪のなかに すぽっと投げこむ 歯をガチガチならしながら 土間に立つきょうだい 「ほらほら はやく入りな」 母さんは こたつぶとんをまくり上げ 炭火をかきたてる ふたりは 首までこたつにもぐる だまったまま 著者 青山かつ子 発行所 七月堂 発行日 2023年12月2日 A5判 112ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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忘れられるためのメソッド【新本】
¥1,760
小川三郎詩集 死んだあとも、それよりあとも 【作品紹介】 「満天の星空」 だったらもう 満天の星空じゃなくたって かまわないんじゃないか。 いくつか星が あるだけで それでもう いいんじゃないか。 こんなふうに 地球のうえで 一瞬 笑って 泣いたりして やることがまだあるなんて 思わなくたって いいんじゃないか。 未来からの手紙は来ない。 夜はいつも夢を見るから せめて起きている間だけは みんなで笑おう そうしよう なんて 教えたり 教えられたり しなくても。 見上げると 満天の星空。 生まれる前も それより前も あれをずっと 見ていたとして ずっと動かぬ一点だった ただそれだけの 私であるなら 死んだあとも それよりあとも こまることなど ひとつもないので。 著者 小川三郎 発行所 七月堂 発行日 2023年11月16日 A5判 124ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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あかむらさき【新本】
¥1,650
狂おしいたそがれ ほんとうのことが怖くて 小川三郎の作品は一篇一篇が短編映画のように迫ってくる。書下ろしの2点「あかむらさき」と「夕暮れ」が入っているが「夕暮れ」の中で詩人は「夕暮れに絶望し」かかとで石を割ろうとする。石はかかとをかわし、何かを主張するかのように詩人の頭を割る。「森も川も空も雲も」すべてが夕日を眺めている中でこの行為は行われるのだ。石も夕日を見ているというのだが、「石」って誰? 老夫婦の手には 赤黒い手相がこびりついていて その手を川に突っ込んでは ごしごしとこすっている。 私は反対側の岸にいて もう帰ろうとしていたのだが ならばなんとか助けてやろうと 川に足を踏み入れ 老夫婦の方へと歩いていった。 すると案の定というか 川底はぬるぬるしていて 足をとられる。 私が川底に尻もちをつくと 老夫婦は ふたりして顔をこちらに向け はっとした様子をしたが しかし豊作だ豊作だと言い続けながら 手を洗うのをよさなかった。 私の体が 腰からだんだん 薄赤く染まる。 表面だけではなく 身体の内も 髪までも赤く染まる。 (「赤い川」より抜粋) 著者 小川三郎 発行所 七月堂 発行日 2018年10月20日 四六判
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インカレポエトリ9号 鳩【新本】※送料をご確認ください
¥1,000
【内容紹介】 様々な大学の学生が参加している学生詩集の第9号です。 【編集】 朝吹亮二 新井高子 伊藤比呂美 大崎清夏 笠井裕之 カニエ・ナハ 川口晴美 北川朱実 小池昌代 瀬尾育生 永方佑樹 中村純 野村喜和夫 蜂飼耳 樋口良澄 四元康祐 発行 インカレポエトリ 印刷 七月堂 発行日 2023年10月30日 A5判 434ページ 【送料ご選択時にご注意ください】 *1冊→「クリックポスト」 *2冊→「レターパックライト」 *3~4冊→「レターパックプラス520」 *5〜8冊→「クロネコヤマト80サイズ」 *9〜10冊→「クロネコヤマト100サイズ」 【関連本】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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場末にて【新本】
¥1,540
すべてのアウトサイダーへ贈る 七月堂創立50周年記念企画第二弾! このたび、西尾勝彦新詩集『場末にて』を発行いたします。 詩集単体としての発行は、『ふたりはひとり』より二年ぶりのこととなりました。 【著者コメント】 作品「場末にて」を書いたのは2019年のことです。大阪のとある小さな書店で開催された朗読会のために書き下ろしました。記念にするつもりでその店主を描きはじめましたが、次第に自分のこととなり、未来のこととなり、すべてのアウトサイダー、場末を支えるひとたちのための言葉になっていきました。朗読会当日、しずかに読み切ったときの気持ちはまだ覚えています。あの日から、4年。ようやく、詩集『場末にて』を完成させることができました。多くの人々の手に届くことを願っています。 【版元コメント】 この詩集はきっと、誰かにとって、ひと休みさせてくれるような、木洩れ日がきらめく木陰のような、そんな一冊になるのではないかと思いながら制作を進めてまいりました。 こうして形にすることができ、嬉しい気持ちでいっぱいです。 装画は前回の詩集『ふたりはひとり』につづき小川万莉子さんの描き下ろし作品です。場末にてひかる小さな明るみを表現してくださいました。 この詩集には、「場末」に生きる人たちやそんな人たちがつくる場所がたくさん登場いたします。 ほの暗いなかでしか見えないくらい、けれど確かに存在する、ちいさなやすらぎの灯のような一冊です。 ぜひお手にとってご覧ください。 【作品紹介】 駅 彼は うすい背中のひとなので 職場から 誰よりもはやく 家に帰るみたいだ いつも歩きなので 駅に着くころには 埃っぽい風のなかである ちょっとうつむきかげんの ふうわりとした顔つきで 行きと帰りでは 気持ちに ほとんど変化がないみたいだ 夕暮れの あわい光のなかを 彼は歩いている うすい背中のひとは 駅近くの和菓子屋に 立ちよっている 病弱の妻に 若鮎を買って帰るらしい がま口を開けて 一枚いちまい 小銭をかぞえている 著者 西尾勝彦 装画 小川万莉子 装幀・組版 川島雄太郎 発行所 七月堂 発行日 2023年10月10日 175mm×110mm 132ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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鋏と三つ編み / インカレポエトリ叢書23【新本】
¥990
川窪亜都詩集 誰かをおににしなくちゃいけないこの世界は 【作品紹介】 プラスティック・ジャングルで生き延びるには かばんの染みから追憶が広がり サンドイッチを食べた午後 レタスのかけらが風に吹き飛ばされて アスファルトのうえを走った 踏切が開くのを待つ あいだに日曜日の退屈を十本まとめて 踏みつけた、毛羽立った皮膚を掴んで持ち上げた 葉脈が透かすいのちが水を飲むのを急かして 喉に通り抜ける液体は 午前二時の海と同じ色をしていた 眼球と都市のあいだにプラスティックの板が 幾重も重ねられて、その板が増えるたびに わたしの足の裏は地面から少しずつ引きはがされていった 手のひらのなかに街灯がともる頃 にきみと待ち合わせがしたかった 今ではシャボン玉のなかに浮かんで 三叉路を探して 散歩をする保育園児たちを眺めて あの手押し車に乗ってみたかったな(わたしは幼稚園児だったから) などと思って、十字路の数を数えて カラーコーンを脳内で適切に配置して 歩道橋の上り下りの合計段数を予想して ドミノ倒しになった自転車を次々と起こしてゆく人の ゆっくりと歩を進める人が横断歩道を渡るのを守る人の 落ちているハンカチを縁石の上に載せる人の 倒れた人に声をかけるのをためらわない人の 背中に生えかけの羽を見た ビルの間に草が伸びていた わたしは東西南北を知らず ラジオの周波数をうまく合わせられず マスクがずれて正しい言葉が見つからない 二十世紀の尻尾に生まれ 二十一世紀に四則演算を訓練し、文字を覚え、美術に触れ、文学を読み、哲学を学び、ノー トパソコンのキーボードを叩き続けて 詩あるいは免れ得ない死に向かって ただ垂直に上昇するけれど 昇る太陽がまぶしいあまりに すぐに地上に突き落とされてしまう じたばたと四肢を揺れ動かして 地団駄を踏む、情けのなさを きみは見なかったことにした コートのポケットにペットボトルをねじ込んで 明け方にコンビニエンスストアまで歩いた 国道をまばらに走る車のうちの一台の 車体の赤が きりきりと追い詰められて、しぶきを上げた 返り血を浴びたわたしのコートもまた もともと赤かったのだった 歩くほどに赤の一部は濃さを増していった ほとんど黒になってもまだ、コンビニエンスストアは遠かった 手近な人をつぎつぎと恋人にするきみの家には コンビニエンスストアがすぐ近くにいくつもあった 便利さに見放されたわたしのコートに付着した血も そろそろぱさぱさに乾いてきたころだ 顔を上げると太陽がすぐ目の前に あって、皮膚がじわりと汗ばんだ ふいに体温計をかざされて電子音が響いた 三十七度を超えていて足止めを食らった 水と血を交互に飲んで、平熱に戻し 歩を進めるけれど コンビニエンスストアはいまだ遠くて 赤いコートは次第に重さを増して ペットボトルの水はあとふた口分しか残っておらず それもすべて道端の草にあげてしまって 途方に暮れて歩き続ける道すがら、背中に羽の生えた人が 新しいペットボトルをそっと手渡してくれた 開封したはじめのひと口を 目が合った野良猫にあげて 脱げた右足のバレエシューズを履きなおした 著者 川窪亜都 発行所 七月堂 発行日 2023年9月30日 四六判 96ページ 【関連】 インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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声霊【新本】
¥1,540
橘麻巳子詩集 【作品紹介】 待ちぼうけの空には 孔だ 日が喰われたという話なら あとから知った (ばかね、 崩れ落ちる体系 足元に 齧ったような熱をもって 射られた光の毒かもしれず 隅々にゆきわたって どこからも吐かれなかったらどうしよう 息ができない (ばかね、へんなの でも 息もできない 五感を使いきったところに ふたつめの太陽が昇ってきたという話 ヒトのことばでなくていいので わたしにも教えてください (「孔」より抜粋) 著者 橘麻巳子 発行所 七月堂 発行日 2021年10月30日 A5判 109ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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本詩取り【新本】
¥2,200
近代の独創性神話を疑う 「本詩取り」は、僕の造語です。もちろん、和歌の「本歌取り」から作りました。この詩集では、全篇が例外なく「本詩取り」の技法で作られています。 「本詩取り」は、僕が新たに試みた作詩術の名称ですが、これは単なる小手先の技術にとどまるものではありません。新しさを追求してきた現代詩は、なぜ袋小路に入ってしまったのか。長い詩歌の歴史の中で、日本の詩は今後どのような方向に進むべきか。この本質的な問いに対し、僕なりの回答を提出したのが「本詩取り」です。(著者「本詩取りについて」より) 「有名な和歌や物語の一節を自分の言葉として応用することは、日本では正当の技法でした」と語る著者、西原大輔の日本の詩と、その未来への思いが凝縮された一冊。古きを知り、新しきを知る。過去の古典詩歌への敬意を示し、未来へ進んでいく。著者の情熱を写し取ったかのような鮮烈な造本にも惹きつけられるだろう。 「午睡(ごすい)」 夏の日暮れに目覚めれば 郷愁(ノスタルジア)の薄明かり 遠い記憶の天井に 亡き祖父祖母の声を聞く ―― 中原中也「朝の歌」改編 「古い恋の歌」 生臭い青春が去り 美しい記憶が残る 恥もなく歌っているのは 赤錆びた恋愛ばかり ―― 萩原朔太郎「題のない歌」改編 「壜を投げる」 大海原のデッキから 壜の手紙を投げ入れる まるで詩人が詩を書くように 誰かに届けと投げ入れる ―― パウル・ツェランの言葉改編 「初めて本を出した頃」 もうこれで死んでも良いと あの時は思ったのだが……… 人生は明日へ続く 明日へのきりのない夢 ―― 広島カープ応援歌改編 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 2018年1月31日 A6判 上製・函付 231ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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青草と光線【新本】
¥1,650
暁方ミセイ詩集 わたしはしかたなく/人間と恋愛をしていた 新たなる自己を発見し見つめてゆく暁方ミセイ。 夕暮れの光は私たちをゆらゆらとそこに佇ませる。 【あとがきより】 本詩集の詩を書いていた期間、ありとあらゆるものが存在することの価値について考えていました。したがってそれも反映されているかもしれません。だんだん精神の具合が悪くなってくると、まずは四六時中何かの悪い予感にとりつかれ、そのうち積極的に自分は悪しき人間だという証拠を探しはじめます。もっといい人間にならなければ、恥ずかしくない思考と行動をもつ者にならなければ、と思うのですが、一方で、それに激しく反発する自分が、わたしに詩を書かせていました。 【作品紹介】 花畑 あちらの岸にもまた 相似形の地獄が いちめんいちめん展開し 救いのないアラベスクがどこまでも展開し こちらの岸の怒りや悲しみと 相似形の地獄の花畑が どこまでもどこまでも続いているらしい そこを逃げ出す呪文はこう 思考で描くなにもかもは存在しない 陽光 浅い春のまぶしい陽射しと 雪解けの雫のたてる蒸気と 凍った椿のほどける濃い色 風に含まれるもうどうなってもいい冬との境の いまここで血液と酸素を巡らせる感じ そのすべても存在しないが 感じるのもまた本当だ 流れる水の一瞬をとどめられるのは想像だ 自由は その地点でいつでも豊かな風を抱いている 永遠にとまり 永遠にうごき そこに住むことができるなら わたしにひとつの文字が刻まれる 【著者プロフィール】 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 第48回現代詩手帖賞(2010) 第一時集『ウイルスちゃん」(2011・思潮社) 2012年、同作で第17回中原中也賞を受賞。 第二時集「ブルーサンダー」(2015・思潮社) 第6回鮎川信夫賞、第 33回現代詩花椿賞最終候補。 第三時集「魔法の丘」(2018)で第9回鮎川信夫賞受賞。 第四時集「紫雲天気、嗅ぎ回る 岩手歩行詩篇」(2019・港の人)に対して第 29回宮沢賢治賞奨励賞受賞。 著者 暁方ミセイ 発行所 七月堂 発行日 2023年3月25日 A5判 114ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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歩きながらはじまること【新本】
¥2,200
西尾勝彦詩集『歩きながらはじまること』 言葉の「森」がここにある 奈良の山で暮らす詩人、西尾勝彦のポケットには、どんぐり、石ころ、いろいろな形の葉っぱや木の実。たくさんの宝物がつまっているに違いない。 『朝のはじまり』、『フタを開ける』、『言の森』、『耳の人』に加え、私家版『耳の人のつづき』を収録。 いつからか 素朴に 暮らしていきたいと 思うようになりました 飾らず あるがままを 大切にしたいと 思うようになりました そうすると 雲を眺めるようになりました 猫がなつくようになりました 静けさを好むようになりました 鳥の声は森に響くことを知りました けもの道が分かるようになりました 野草の名前を覚えるようになりました 朝の光は祝福であることを知りました 人から道を尋ねられるようになりました 月の満ち欠けを気にするようになりました 遅さの価値を知る人たちに出会いました 一日いちにちが違うことを知りました ゆっくり生きていくようになりました 鹿の言葉が分かるようになりました 雨音が優しいことを知りました 損得では動かなくなりました わたしはわたしになりました (『言の森』より「そぼく」) 著者 西尾勝彦 発行所 七月堂 発行日 2018年3月7日 四六判変形 並製 112×155 本文 344頁 ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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七五小曲集【新本】
¥2,970
時代に逆らい定型詩の小さな灯をともしてみる 黒船の大砲が轟くことなく、日本がまだ東海中の緑なすオアシスであった頃、学者はことごとく詩人であった…略…この詩集で私は、かつて儒学者が手すさびに漢詩をこころみた顰に倣い、七五調の日本語で四行詩を書いてみた。――序より 月がこんなに明るいよるは 独り静かに笛を吹こう 清き美の国 四季の国 衰えつつある古い国 (月下吹笛) 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 2011年10月1日 B6変形(124x154) 上製 149ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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掌の詩集【新本】
¥2,750
定型詩で心を余すところなく表現する 「この詩集では、専ら七五調四行または五七調四行の定型に拠って詩を書いています。計四十八文字のこの形式を、私は前の詩集で「七五小曲」と名付けました。『掌の詩集』は、その『七五小曲集』(二〇一一年)の続編です。」(「七五小曲について」より) 著者が「自分の心に最もかなった形」と語る七五小曲で描かれるのは著者の人生全て。縦横無尽な表現は「定型」は「制約」ではないという事を雄弁に語り、その魅力を教えてくれる。人生郷愁編、春夏秋冬編、列島地誌編、生老病死編、学問文藝編の五編。平安時代から近世にいたるまでの著者の考察をまとめた「七五小曲について」を収録。 少年に 一人前になるために 越えねばならない恥の道 僕は秘かに知っている その峠路の地形図を 林間逍遥 病得て林を歩く かさこそと落葉ささやく 遥かなり青雲の日々 今こそは人生の秋 朝の出勤 体は先に抜け出たが 心は蒲団の中にある 職場へ赴くバス電車 身柄は定時に運ばれる 自ら嘲る この家の主人は詩を愛す 雪月花に遊ぶなり しかし給与が薄いので 梅干し齧って瘦我慢 著者 西原大輔 発行所 七月堂 発行日 20年8月6日 95×135 上製 箱付き 245ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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星綴り【新本】
¥3,300
倉本侑未子詩集 地球という惑いの星で織りなされる生と死の循環 倉本侑未子の紡ぐ言葉は静かな音擦れ。 病院の待合室、遠くで響くインターフォーンの音は空気を押し流してゆく。 老樹の傍らで座り続けたい、そんな思いを引き出すのは、森のかなたに消えた歌声。 錨を降ろす場所を探す日々の声はモールス信号となる。 【作品紹介】 潜水 蔦の葉が涸れかけたプールの底へ 一散に手を伸ばす もう届かないだろうか 潜りつづけた 自身にもっとも近い場所 そのままでいて欲しくても 息継ぎのたび 様変わりしていく風景 けれど水の中の地下室は いつも同じ ひんやりした半透膜の壁は 地上では漏らせない声を そっと潜(くぐ)らせてくれた 銀色の吐息とともに 目も耳も心も 何もかも溶かしこみ わたしは揺らめく水溶液になる 消えていく水紋 間遠になる水音 心拍の心地よい危うさ…… 打ち解けていた薄明かりが いつのまにか遠ざかり 強い陽射しが照りつけると 水はするすると引き いまはもう指先を濡らすだけ ひび割れたプールサイドで 蔦の葉が底を見下ろしている ――逃げ水? 水銀(みずかね)色の余滴を掌(たなうら)にしまい込むと 遥かな鈴の音が消えがてに響く 冬の幾何学 蜘蛛よ かぼそいモノローグは 絹糸のゆらぎ 螺旋のうねり 漆黒のなか 補助線も引けずに どうしたら聴きとれるだろう 声の大きなものたちが 肥大した舌をだらりと垂らし 地上が弛緩する頃 声なきものの顫える忍耐が 脈打ちはじめる 痣だらけの空と地のあわい 連綿と継ぐ自問自答 不断に傾ぐ多角形 今宵 凍てつく大気のもと 六(りっ)花(か)が無言の合図を送ると 君は手製のカタパルトから 馭(*)者座めざして 空(くう)を蹴る *馭者座(Auriga)…五角形をなす北天の星座 真冬の夜に南中する 著者 倉本侑未子 カバー装画 長谷川潔 発行所 七月堂 発行日 2023年1月15日 A5判 208ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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じぇるも い のちぇ【新本】
¥1,650
【内容紹介】 荒野をさ迷う私の今は夜 兄が亡くなって、今年で五年になります。 グリオブラストーマとは、脳腫瘍膠芽腫のことです。兄が救急搬送された先の病院で余命一年半、五年生存率は5%と告げられました。現代の医学でも治ることは難しい病気です。 つい最近になって「なぜ、わたしは兄の闘病記ではなく詩というスタイルを選んだのだろう?」と不思議に思いました。わたしにとって最も〈リアリティ〉を表現できる手段が詩だったから詩を選んだのだと、今思っています。 わたしの感じたあの頃の現実は夜の記憶ばかりです。タイトルに夜(のちぇ)という言葉を入れたのもそれが理由です。 (著者 あとがきより) 【作品紹介】 さあばあだうん (中原中也の声がします) 脳がさあばあだうんして 海辺の飛行機は健全です 墜落する天使はミクロの世界に向かうため 復旧の目途は現在経っておりません 脳内には静かなブロッコリーが満ちあふれ 日々増殖して 世界を宇宙を浸食していきます やがて宇宙は美しいみどりにむせ返ります 植物に慈悲があったならば 脳はさあばあだうんしなかっただろう わたしはひかる宇宙のブロッコリーをもぎ取って一口齧り 兄の永遠に復旧しない脳のことを思い浮かべました Noche そこは暗闇というよりは 液状の夜 よく磨った濃墨でできた湖に そっと右足を入れる 左足も入れる とろりとした夜の中に 身体を沈めて目を閉じる 伝えたかった言葉が夜に溶け出してゆく それらは文字になる前に形を失う そしてからだは空っぽになって 眠りに落ちる 右手に握っていた墨が するりと湖の底に吸い込まれていった 深い夜の底に 音の消えた湖に 月が静かに溶け始めた 著者 荷田悠里 発行所 七月堂 発行日 2023年6月30日 四六判変形 71ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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しかが【新本】
¥1,100
【内容紹介】 これは、一冊のオルゴール ページをめくり、言葉を追ってゆくと、 いつの間にか音楽が奏でられていることに気づく。 手回しオルゴールのハンドルを回すように楽しめる一冊。 【作品紹介】 くる しか しか こない した した した した した した の みみ こい こい しか こい しか こない こない で こい っ て き かない き かない きかないから か な の ないから どうし どうしが どうし て どうし ても どうし でも ほしい めいし じゃ ふくし じゃ なく う ごく どう し う ごく もの どう した したって お したい して した って うごく もの どうし たい どうし ても いつ いつも いつ も 著者 小沼純一 発行所 七月堂 発行日 2023年5月19日 B6判変形 39ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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秘剣まぶさび【新本】
¥1,980
【内容紹介】 ジョイスへ秘剣で挑む/光る滝に飛びかう超絶短詩 本詩集の発想の原点には、空海の『般若心経秘鍵』がある。般若心経の言葉を解釈する空海が、仏などの尊格を自在に飛びかわすさまに、驚嘆したのである。ワタシも、せめて言葉を剣のまわりに飛びちらせてみたい。そう妄想したのである。 超絶短詩とは、一つの語句を、擬音語・擬態語を含む間投詞と別の語句とに分解する詩型で、すでに三〇年近く前から提唱し実践してきた。今回は、各ページに、語句をいくつか組みあわせたものを縦一列に配列し、それを分解した超絶短詩を、縦線の左右に配することにした。いちおうの数え方としては、一ページに一詩篇となる。 (「あとがき」)より 著者 篠原資明 発行所 七月堂 発行日 2023年2月3日 A5判変形 105ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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子犬は跳ねて 空の色に溶けた【新本】
¥1,980
【内容紹介】 生きる神秘 そのアイロニーを超えて 私たちは不確かな日常を生きている。 私たちはヨブの日々を生きているのかもしれない。 「受難という永劫の受動態を、一瞬だけ受動態に置換するモメント、それが詩である」野村喜和夫の栞文より 【作品紹介】 「紫陽花の森」 ベッドに腰掛け、テレビの画面を眺めていた母 「ひさしぶり わたし 誰だかわかる?」 目をあわせずに、窓の外に視線を移す小さな背中 介護療養病棟の真四角な天井に 無言の時間が流れる 「散歩 行こうか?」 杖を片手に立ち上がった母が着ていたのは 袖口がほつれたTシャツ 父があわてて選んだのだろう 私は着ていたレモン色のカーディガンを脱いで そっと肩にかける 「あめ ふってないのね」 つぶやきながら母は、曇り空を見上げる 裏庭へ回ると、小道の脇に幽かな光を放つ一群れ 紫陽花だ 母の顔がぱっと輝き 私の手をひいて転がるように近寄った レモン色に背中を丸め 色褪せた花に頬をよせて、いつまでも眺めている (知らなかったよ 好きだったんだね あじさい) 散歩から戻り、ベッドへ倒れこむと 花を眺めていたときの横顔で 小さな寝息をたてた 帰りのバスの後部座席 振り返ると、紫陽花がこんもり茂った一角 戯れながら折り重なる花々が、森のように咲き誇り 建物の白壁を鮮やかな群青色に覆い隠している (守られていたんだね 花たちに) ガラス窓の向こう 冴え冴えと浮き立った紫陽花の森が 曇天の空まで 広がっていて 「きみはいつも」 けっこんしようか こいぬのみみもとに ささやいた けっこんってなあに てれびをみながら こいぬがたずねた いつまでも いっしょにいようねって おやくそくすることだよ わたしのひざのうえに あごをのせたまま こいぬはちいさく あくびをした * * きょうはこれがいいな こいぬがせのびして コンビニのたなから トマトジュースをえらぶ かいものかごいっぱいに ビールとぽてちもほおりこむ レジにならんで 小銭をかぞえるわたし ガラスとびらのむこうで そらをみあげるきみ きづいてたよ きみはいつも ざわわ ざざざわ かぜのおと さわがしいから ゆうぐれのさんぽは ここまで 著者 佐野亜利亜 発行所 七月堂 発行日 2022年9月27日 四六判 121ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
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襤褸【新本】
¥1,650
【内容紹介】 まとってきた「時」はわたしの襤褸 辞書を引くと「襤褸」とは「ぼろぼろの布」「ぼろ」と出てくる。 野間明子の生きてきた日々は何気なく語られているが どのような運命もさりげなく受け止めてゆく。 【作品紹介】 橋 狭い橋の上ですれ違ったとき 赤ん坊を抱いた女が転げ落ちた ぶつかったわけではない そっとのぞくと ずぶ濡れになった女が赤ん坊を抱いて流れのなかに立っている ああ けがはないようだ ほっとしてまた橋を渡りかけると 見損なったわ 後ろで声がする 驚いて振り向くと一緒に歩いてきた女が 背を向けて引き返していくのだった ああ 失敗した 俺が悪いんだ 女は決して振り返らず どんどん遠ざかっていく ふたりが一緒に歩いてきた道のはじめ 小さく川が光っているあたりまで引き返して 光のなかへ見えなくなった 夕映 手探りで鍵を開けると 赤い部屋に息子が突っ立っている 父ちゃん 俺やっちゃった やっちゃったって 母ちゃんはどうした 息子を押しのけて死体を捜す なぜ 死体がないのか なぜ 死体を捜しているのか 夕映が喉を破って俺からも噴き出しそうだ 幽霊 黄色くなるんだ 見てしまうと 白い壁 バターを擦ったみたいに 白い 天井とかも それって あれですかね もろびとこぞりてを歌うか 目を瞑って家事をするとか 大丈夫かいおまえさん 外出てたほうがいいんじゃない うんでも家にいたいから 黄色くなるってことですよね 歌うよもろびとこぞりて だいじょうぶ小学校で演った貧乏靴屋の親爺 帽子を胸に当て主は来ませり主は来ませり 夜中のトイレも怖くない 黄色くなる バターを溶いたみたいに 見てしまうと 今日なんか絶好の洗濯日和で 朝から干して真っ白く乾いたシーツ 午後まで干してふかふかの蒲団に掛けて 思わず 見たらば バターを流したみたいに 滲んで 泛ぼうとする誰か知らない 来ないで 来ないで拳握って叩いて 叩いて叫んで叩いて叩いたら 移ろう夕光のなか 黄色褪せて 黒ずんで 悲しげに穴の眼を瞑って硬直したヒトのかたち 枯枝の両腕広げ 別になにもしないんだけど なにか悲しくてね 目を伏せてももう消えないんだ 著者 野間明子 発行所 七月堂 発行日 2022年7月17日 A5判変形 104ページ ________________________________________ ※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。 https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955