プリンは置いといて【新本】
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私の仕事は花びらです//朝から晩まで花びらです
詩集『プリンは置いといて』を読むことによって、われわれは「首か
ら上を空にして美しいを入れ込む」(「ワンピースの空」)ことができる
ようになる。われわれは「八百二十年ものの雨」(「建仁寺の雨」)に降
られることができるようになる。
詩を読むことはなんと楽しいことだろう。そしてこれは、なんと稀有
な才能によって生みだされた、なんと香ばしく甘い詩集だろう。
松下育男
【作品紹介】
アイロンとアマゾン
小林さんに迷いは無い
ならぬものはならぬと言い切って
速やかに気に入らぬ場所から立ち去る人だ
たくさんのマスクをくれた
お礼にトイレットペーパーを贈った
役に立っただろうか
小林さんはとってもいいひとなのに
いつも小さなブラックホールを持ち歩いているから
ともだちになることを躊躇してしまう
それでも小林さんがくれたお菓子を遠慮なく平らげた
迷いのない味だった
小林さんには迷いが無いから
次の仕事が決まらぬうちに会社をやめてしまった
小林さんはアイロンを持っていない
アイロンがけはしない主義だ
迷いがないから服の皺にも迷いがなくて
とてもしわくちゃ
水分を含んだポロシャツにアイロンをかける時
じゅっと音がして湯気が立ち昇る
湯気の中から小林さんが現れて
まだ仕事を探している途中なのだと言う
早く間をあけずに働かなくちゃと話していたのに
まだまだまだまだ仕事を探している
アイロンをじゅっと押し当てる度に
小林さんは湯気の中に分け入ってゆく
アマゾンの森の奥へ奥へと仕事を探しに
文字を持たない部族の中へ
迷いを持たない集落の中へ
耳を塞ぎながら
目を覆いながら
森の奥へと
仕事を探しに
私にできることはアイロンをかけてあげることだけ
じゅっ。
鳥
鳥が祖母をくわえて連れ去ってしまったので
それきり祖母に会うことができない
時々庭にやって来る鳥の脚をひっつかんでみると
するする鳥の体がほつれだし
どんどんほどけてゆく
鳥は
ただの
長い糸
その束の中に
祖母のかけらは
見つからなかった
著者 竹井紫乙
発行所 七月堂
発行日 2024年11月21日
四六判 82ページ
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