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光るリム【新本】

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千石英世詩集

詩の舌よ 憶えよ あの空は この空と


【作品紹介】
波の記憶


船に乗ったことがないのに
波の記憶がある
大きな海を船で渡ったことがないのに
海の深さをしっている

快晴の空の下だった
もう陸の影は見えない
水平線がゆれている
私はここまで波の上を歩いてきたのだ

垂らした手が波のしぶきでぬれている
私は波の上に立っている

足もとで波が盛りあがる
鼻先にせりあがり
沈みはじめる
足もとが割れて
海が割れてゆく
くずれる
くずれてゆく海が
くずれてゆく海にのみこまれて
海のなかを流れる川になる

巨大な川だ
大河になって
流れてゆく

海をひきずりながら流れてゆく
水平線に向かって
流れてゆく

その先は
ナイアガラだ
ナイアガラの水しぶきが見えてくる
水しぶきのむこうは 奈落だ

巨大な川がしぶきのくらがりへ落ちてゆく
銀河になって
落ちてゆく
落ちてゆくさきは
奈落だ

銀河が傾く 奈落の底を照らしだす
傾いたまま奈落の底にゆっくり落ちてゆく

とおくでしぶきがあがった
底が割れたのだ
割れて
底が裏返しになっている
また裏返る
大きくゆれている
割れた底なのに
ひかる底になっている
沈んでゆく 割れたのに
上へ 上へ 上へ

大きな川が
海のなかをゆったりと流れていた
海を割って広がりつづけていた

川が海の広がりになって流れている
水平線に届くところまで海になっている

どこまでもつづく快晴の空の下だった
私は大きなひかりの底を見上げていたのだ

ひかりの底はゆれていた
割れていた
割れたまま広がってゆく
水平線を越えたむこうまで
もう何もない空のむこうまで
ひかりが割れてゆく
銀河の轟音が耳の上で渦巻いているのだ



著者 千石英世
発行所 七月堂
発行日 2025年5月5日
150×130mm 120ページ


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