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あかるい身体で【新本】

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海老名さんの詩を読んでいると、いつのまにか呼吸が深くなっていることに気がつきます。
読み進めていくほどに身体が軽くなっていくような気さえしてきます。

それはきっと、他の誰に与えられるものでもなく、自分でみつけることが出来たからこそ大げさに表明しなくたっていい。
そんな淡い光を放つ、やわらかな肯定感のように感じるのです。

この一冊の詩集を包み込んでいるものは、そのようなものたちなのだと思うのです。









「灰色の猫」


足がしびれて朝です
もうこれで最後と繰り返して
フローリングの床を滑ってしまう
終わりにしたい物事を
持っていることは
少し背中を丸くする

わたしは装置なので
故障しやすい部分もあるし
通り抜けていくいろいろの感触を
受け取ったり流したりする
言葉は
わたしが生めるものではなくて
組み合わせだけを考案できる
研ぎ澄ました指先で感触を編んで
片隅から放つ

重さは絡まり合ってほどけない糸
背中に猫を作っている
抱きかかえられることを拒んで
そのくせ爪を立てて離れない
わたしだけの猫

春先のすーっとした冷え込みは
ふるい灰色の記憶を引き出す
再生を止めたいのに
毎年律儀に胸をひっかきにくる
終われないから そこに
とどまる感触があって
ちいさな子どもの身体だったことを
覚えている
灰色の猫を背負って
わたしは続いていて
今日も
世界の手を取る



著者 海老名 絢
発行所 七月堂
発行日 2023年8月20日
四六判・小口折・帯付 114ページ

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