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花下一睡【新本】

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秋山基夫詩集


〈 詩 〉の始原へ
終わらない夢幻劇

【作品紹介】
はぎ


先ごろ思いもかけぬ幸いにて宮城野に参りました
あわわあわわと萩を分け露に濡れつつ歩みました
歩めども歩めども萩の花萩の露萩の花萩の露です
薄闇にしゃがむと西行法師の歌が聞こえてきます

あはれ いかに
草葉の露のこぼるらむ
秋風立ちぬ宮城野の原

するとほんとうに風が吹いてきましたいちめんに
むすうの露がむすうの萩の花からこぼれています
あわわあわわと花を分け露に濡れつつ歩みました
月が昇りました銀の世界で馬鹿になってしまった

美しいお方のしゃれこうべがいまも転がっていて
萩の露を舌のない口をあけてのんでいるでしょう

むかし郊外に
住んでいた頃
休日の夕方には
妻とよく散歩に出た
道ばたに萩を見つけ
これが萩だと教え
顔を近づけ
うす紫の小さな花を
暗くなるまで見ていた

何十年も過ぎてしまった病み衰え何もかも失って
白い壁の部屋で白い天井をただぼんやり見ている



著者 秋山基夫
発行所 七月堂
発行日 2024年4月1日
A5判変形 112ページ


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