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夢に見し木の名前を知らず【新本】

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中神英子詩集


   沼
夜になると輝き始める
小さな沼があった
月光に照らされ白い花を
無数に咲かせた木が映っている


   のはら
雨のようなものが降り注ぐのはらで
あのひとに出会った
うっすらと紡げば白いレースになるようなもの
さわさわと降り注ぐ

みどりの萌えるのはらには
この世の飾りのような野の花も咲いていた

あのひとは私に笑い
私もあのひとに微笑んだ でも

雨のようなもののせいで
けっして近くには行けなかった

さわさわさわさわ音があるように降り注ぐ
見渡す限りまるで祝祭とでも言いたい優しさ

 白き花ここだく下に散り落ちる
 夢に見し木の名前を知らず

何に見とれていたのだろう 私は

あのひとはやがて鹿になって
やわらかくふっさりと煙ったのはらの遠くへ
駆けて行ってしまった
もう一度見渡すと
そこにあったはずののはらは一変

世界はそんな無限を当然のように抱いていた
目前には照り枯れた水気のない草が
うなだれて広がっているばかり
陽射しが痛いように突き刺さる
私がここに現れたのは間違いなのだというように

もうあの遠くを越えなければ近寄れない
そうしなければ何も解けない
私は何だろう
震えて目を閉じる
(「夢に見し木の名前を知らず」より)


著者 中神英子
発行所 栗売社
発行日 2017年7月1日
B6判
本文103ページ


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