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雨が生む色彩【新本】

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篠井雄一朗詩集

一つの作品が月曜日を震撼させる

日常の表と裏、季節の表と裏、時の表と裏……
そのすべてに通底する孤独。
私たちが何気なく通り過ぎてゆく光景の中に篠井雄一朗の宇宙が広がってゆく。



【作品紹介】
残暑お見舞い



テーブルの上にこぼしたミルクに
溺れそうなくらい縮んだ
僕は
十円硬貨ほどの大きさしかなく
昼に食べた冷や麦の器が
宇宙船のようにそびえる横を
草の匂いを含んだ風がすり抜けた

めんつゆの残った器の陰に身を潜めるも
落ちていたネギのひと欠片に足をとられ
尾てい骨から転んだ先はミルクの海

痛みは脳までひろがって
おまけに背中はびしょ濡れで
誰かが名前を呼んでいた
(知るもんか)
それよりこれは現実か
まばたきを繰り返していると
悪いことにますます小さくなりつつあり
仰向けの状態で起き上がれず
誰かが名前を呼んでいた
片方の翼がぼろぼろに壊れた
天使が宙に微笑む姿

痩せこけた体が水分を欲して
眠りから覚める合図をうながす
耳は確かに聞いていた
天使の声を、羽根音を
いたって僕は元気をよそおい
バイクにまたがる



揺籃



目を開けていられないほどの
まぶしい光
まぶしい光に包まれたい
包まれろ、

霧がかかって良く見えない
老眼だから良く見えない
言い訳を考えてる顔は
悪だくみに満ちている

月曜日の闇がついてくる
影のように
拝む姿は様になっているも
中身がともなわない

滑走路はいつだって順調さ
動き出し勢いに乗るまでの問題
裸足で駆けていって
引かれた線など気にしないで行って

方程式が解けない
そもそも方程式など存在しないと割り切って
裸足で駆けていって
引かれた線など気にしないで行って

金曜日になってようやく闇が薄れた気がする
内側で波打つ土用波
足りないものをかき集める
生活のかたちを葬って

見知らぬ宇宙が指から滑り落ちる
見知らぬ宇宙が指から滑り落ちる



著者 篠井雄一朗
発行所 七月堂
発行日 2022年12月10日
四六判 112ページ



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