電解質のコラージュ / インカレポエトリ叢書15【新本】
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髙草木倫太郎詩集
集中なんてしたくない、絶望するだけだから
【作品紹介】
治療
Ⅰ
遠くで信号が点滅する(近くで戦争が勃発する)
急いで渡り切る(ゆっくり植生が崩壊する)
渡り切った後の息切れ(水爆が吸い込む空気)
そして押し寄せる不快感(発散する砂の隙間)
なぜ急いでしまったのか(辞書が劣化したから)
毛穴という毛穴から(唯一のサイロから)
すぐに蒸発するはずの(永遠に消えないであろう)
汗が噴き出す(核のエネルギーが飛び立つ)
風が彼らの表面を浚い(時間が何も解決せず)
体温が奪われていく(鉢植えに水をあげる)
帰ったらシャワーを浴びよう(エアコンを修理しよう)
そう決めて帰路につく(翻意してノートを開く)
汗はもう、干からびていた(水害で破壊された田んぼ)
風が浚うものはもうない(風邪が消耗する体力は残っていない)
私の命も干からびる(荒野に萌芽が見出される)
シャワーを浴びると(パテが意味をなさないと)
人体は大理石のように輝き(蛹は不可視に包まれ)
永遠の封印を受ける(永遠の封印を受ける)
最後の抵抗(最初の発話)
最後の永遠(最後の地球)
しかし、家に着くと(ところで、テレビをつけると)
なんとなくいいような(確実に醜い)
うまくいく気がして(気がして)
シャワーを浴びずじまい(導線をひきちぎる)
こうやって生きていくのだろうか(知らん)
Ⅱ
間奏曲に(ピラミッドの建設現場で)
外に出て切手を買う(空洞ができた場所には)
トランペットが雲を吹き飛ばし(奴隷の汗が染み込んで)
空は隅々まで澄んでいる(地中でマントルを形成する)
本文を書き忘れたので(残ったコーヒーを)
空の封筒を送る(捨てようと思ったのは)
今私が体感しているものを(今まで断片が紡いだ演奏の)
余すことなく伝えるため(結果であった)
再開の時間(背表紙には)
席に戻ると、心配になる(蜘蛛の巣とバーコードが)
なぜなら正しい切手を買ったか(城壁のような格好をして)
わからなくなってしまうから(全てが明るみに出た)
演奏は再び盛り上がるが(山の頂上から見下ろしても)
私はヤキモキ(焼きそばの流れしか見えなくて)
同じ気持ちで楽しめず(大理石のひび割れを)
後悔の念が襲う(一本一本麺で修復する)
知って欲しい(全てを隠そうとして)
私が感じる全てのことを(全てが明るみに出たと思えば)
感じて欲しい(そのことによって全てが隠れて)
あなたが知っている全てのことを(再び明るみに出る)
シンバルの音で(琴線に触れるのは)
私の心配は吹き飛んだ(他でもない金メッキの)
それでは、お返事お待ちしております(何か)
Ⅲ
商品棚の間で踊っていると(ヴァスコ・ダ・ガマが思い出せなくて)
鬱屈とした顔の店員が(インド航路を発見すると)
羨望の眼差しで私を見つめる(自分が教科書に載ってしまい)
その目線にたじろいだ私は(ヴァスコ・ダ・ガマを殺してしまった)
商品棚が双方から迫り来るのに(ガチャガチャの商品になった彼は)
争うことができなかった(戦争に駆り出されて)
諦めて逃げる(生き返る)
手にはグレープフルーツ(コンパスの針をもぎ取って)
走れば走るほど、中身が逃げる(鉢植えに植える)
店の入り口には小さな人影が(エッフェル塔の模型が生えてきて)
背中を向けて、何かを呟いている(中にはチョコレートが)
「開放してくれ」(溶けそうになっていた)
私は去り際、彼に中身のないグレープフルーツを渡した(「おかえり」)
彼は短く答える(読経で足が痺れると)
「こんなもんだよな」(「流石に疲れた」)
店を出てすぐ、激しい陽光が私を捉えた(地球の自転に足を取られて)
目が眩みふらっとしたが(サングラスを川に落とした)
それで良いのかもしれない(どんぶらこ)
Ⅳ
タバコのガラスケースが、レジの横に(玉露の意味を知らなくて)
心地悪そうに立っている(恥をかいたその時)
ガラスケースは全てについて無関心だが(チタン製の鉄拳に)
自分の身なりには気を遣う(思い切り殴られて)
ガラスケースの側面には(四本も手があれば)
にこりと笑うおじさんのポスターが(なんでもできそうなものだが)
貼ってある(香水の香りに負けて)
名はハンフリー・ボガート(分解してしまった)
右手でタバコを吹かしている(左手はチタン製)
ガラスケースは(国語の授業を退屈そうに)
「ポスターは過ぎ去りし日の思い出ではなく(「聞いた過去」)
敗北と勝利のシンボルなのだ」(「聞かない未来」)
と主張して譲らない(党大会の罵声)
「彼の微笑みは君に向けられてはいない(ソーセージの製造過程と)
君の無関心に向けられているのだ(本の製本過程は)
君が美しいものに無関心だからこそ(同じくらい醜いと)
彼がそれを独占できるのだ」(シェイクスピアが言った)
ある男がタバコを買って帰る(タバコを吸うと)
ボガートは、帰り際の彼に(肺がんになる)
ガラスケースの言うことは傾聴に値しないと(から)
こっそり耳打ちする(吸わない)
著者 髙草木倫太郎
発行所 七月堂
発行日 2022年6月10日
四六判 ページ
【関連】
インカレポエトリ / インカレポエトリ叢書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2851576
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