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夭折した画学生の作品などを展示する「無言館」や、閉館した「キッド・アイラック・アート・ホール」、「信濃デッサン館」の館主として尽力し、また実の父親である水上勉氏や実母、養父母や妻との暮らしのなかで、ただひとりの人として、窪島誠一郎が抱えつづけた孤独の軌跡。
宿題を忘れた子のように
私はもう 何年も前から
波間にうかぶ小さな机に
かじりついている
机の上には
使い古した万年筆 ちびた消しゴム
何本ものカートレッヂが
港に停泊する小舟みたいに
所在なげに ちらばっている
なのに
私は私宛の手紙を
一行も書けないまま
もう何年も
白い便箋をみつめているのだ
この机から 身体を離したら
私はきっと
海に沈んでしまう
鋭いキバの魚たちに
食われてしまう
机の上の
使い古した万年筆 ちびた消しゴム
何本ものカートレッヂが
港にうかぶ浮標(ブイ)のように
ゆらりゆらり ゆれている
なのに
私は私宛の手紙を
一行も書けないまま
もう何年も
白い便箋をみつめているばかり
(「港」)
窪島誠一郎(くぼしま・せいいちろう)
略歴
1941年、東京生まれ。
美術館館主・作家。
長野県上田市在住。
著書
『信濃デッサン館』(平凡社)
『詩人たちの絵』(平凡社)
『わが愛する夭折画家たち』(講談社現代新書)
『無言館 - 戦没画学生「祈りの絵」』(講談社)
『無言館ものがたり』(第四六回産経児童出版文化賞受賞・講談社)
『「明大前」物語』(筑摩書房)
『父・水上勉』(白水社)
『「無言館」にいらっしゃい』 (ちくまプリマー新書)
『くちづける 窪島誠一郎詩集』(アーツアンドクラフツ)
『日暮れの記 ―「信濃デッサン館」「無言館」拾遺 』(三月書房)
他多数
著者 窪島誠一郎
発行所 七月堂
発行日 2019年3月11日
四六判 103ページ
【関連本】
窪島誠一郎著書:https://shichigatsud.buyshop.jp/categories/2661151
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