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詩人は日記を記す。
たくさんの特別な感情が起こる。
そのほとんどが、誰にも伝わることなく消えていく。
(帯文より)
詩集が出来るまでの間に原稿を読み、ゲラを読むのだが、感情は動かない。
送り仮名はこれで良いのか、この漢字は新字のままでいいだろうか、この行空けはいらないのではないか……。
古溝真一郎のことばは日常生活の時間のように何気なく通り過ぎてゆく。
通り過ぎてゆくのだが、赤ペンを置き、次の作業へ進む中で振り返ってしまう切なさは何だろう。抱きしめられないこの愛おしさは何だろう。
1月22日、出来上がった『きらきらいし』の一頁を開いて読み始める。
幾年も言葉は交わされず
めいめいの日記が
更新される
まるで関係のない出来事ばかりを
覗きあうように私たちがつながっている
かつての知人
ともすると恋人でもあった誰かの詳細を
互いが一方的に
知りすぎている
常用している薬の名前も 上司の嫌みな態度も
離婚のきっかけになった些細な言い争いも 知っている
そうして私の結婚や 禁煙に失敗したこと
ときどきに詩を眺めては 考え込んでいることなどもきっと
知られているだろう
(もう二度と何も語り合うつもりはない)
そう考えていることさえ知っているのだが そのほかに
いったい何を知りあえば
知人と呼べるのだったか
それは人生の喩えではない
ただの日記だ
怒りを覚えたまま電話を切った人と
ずっと行きあわないまますぐに幾年かが過ぎた
そのあいだにも日記はアーカイブされつづけ
声のほかは 顔貌も朧げになった人の詳細を
ときどきに覗いては かつての怒りの治まりを確かめ
新しい
日記を書く
それは手紙の喩えではない
二月十八日
今日も仕事をした
昔とは違うスーツで
昔とは違う仕事をした
結婚したばかりの人が待つ家へ帰り
生まれたばかりの猫をたくさん叱ってたくさん撫でた
昨日借りた映画を観ながら明日の話をして
日記を書いて
みんなで眠った
×
思い出ぶかい映画の
知らぬ間に続編がつくられていたことを知る
観ないうちから名作だと決めつけて
一生それを観ない
(「ソーシャルネットワーク」より)
著者 古溝真一郎
発行所 七月堂
発行日 2019年1月22日
A5判変形 88ページ
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