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青挿し【新本】

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中村梨々詩集


雨は
ゆっくりとした足取りでいつもの道を
確かめるようにやってくることがある
蝉の声
まだ梅雨はあけない
緑にしめった空に声は積まれて
一雨ごとに耳たぶを濡らす
みあげたほうからくる
足元の続きを奪われて
これから行くところ
疑ってみても
朝は来て
眠りから半身を起こす
夜から剥がれた体を
今日にこすり付ける
匂いが残る化粧部屋で
あなたにもらったぬいぐるみが笑う
もう十七年もいないひと
鏡を背にして私のほうを見ている
その顔がわたしのなかに
眉を引き
口角を上げた
目元には
これまでにおこなったあらゆる動作の
ささいな感情の
つなぎめの皺を
頬に落ちた眠りの跡を
ひしめかせ
ほどけないことがまた
織物の歴史のように
ひざを隠したり
はだけたりしている
続いた雨で
家の壁も湿り
玄関の観葉植物は鉢の底から大きく根を生やした
行き場が
ない
湿ったからだの行き場がない
ひたひたと押し寄せて
溢れそうになっているものを
ひっそりこぼす
おくらを茹でながら熱いからだになって
冷水で締め
手から伝わる冷たさは
気持ちよい後ろめたさ
それでも鎮まらない
おくらを切る
ねっとりと
星形に冷えていく惑星
垂れていく足跡
誰か今この時
冷えたからだをもてあまし
夜を疑い
全身のばねを使って雨に挑もうとしている
(「失われた輪」より)


著者 中村梨々
発行所 オオカミ編集室
発行日 2018年4月11日
B6判 107ページ


________________________________________

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