青挿し【新本】
¥1,650
SOLD OUT
中村梨々詩集
雨は
ゆっくりとした足取りでいつもの道を
確かめるようにやってくることがある
蝉の声
まだ梅雨はあけない
緑にしめった空に声は積まれて
一雨ごとに耳たぶを濡らす
みあげたほうからくる
足元の続きを奪われて
これから行くところ
疑ってみても
朝は来て
眠りから半身を起こす
夜から剥がれた体を
今日にこすり付ける
匂いが残る化粧部屋で
あなたにもらったぬいぐるみが笑う
もう十七年もいないひと
鏡を背にして私のほうを見ている
その顔がわたしのなかに
眉を引き
口角を上げた
目元には
これまでにおこなったあらゆる動作の
ささいな感情の
つなぎめの皺を
頬に落ちた眠りの跡を
ひしめかせ
ほどけないことがまた
織物の歴史のように
ひざを隠したり
はだけたりしている
続いた雨で
家の壁も湿り
玄関の観葉植物は鉢の底から大きく根を生やした
行き場が
ない
湿ったからだの行き場がない
ひたひたと押し寄せて
溢れそうになっているものを
ひっそりこぼす
おくらを茹でながら熱いからだになって
冷水で締め
手から伝わる冷たさは
気持ちよい後ろめたさ
それでも鎮まらない
おくらを切る
ねっとりと
星形に冷えていく惑星
垂れていく足跡
誰か今この時
冷えたからだをもてあまし
夜を疑い
全身のばねを使って雨に挑もうとしている
(「失われた輪」より)
著者 中村梨々
発行所 オオカミ編集室
発行日 2018年4月11日
B6判 107ページ
________________________________________
※送料の変更をさせていただく場合がございます。詳しくは以下のURLよりご覧ください。
https://note.com/shichigatsudo/n/n848d8f375955
-
レビュー
(373)
- レビュー(373)
