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かつて孤独だったかは知らない【新本】

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和田まさ子詩集


陽射しが
しずかに息をするように秒針を運ぶ
照り翳りが激しくて
吐き気を覚える
向かいの四階の上まで伸びた木が
左右に揺れるのがくっきり見えて
初夏
沈黙していたら
時間に絡め取られていた

グリーンピースを剝いて
指先を緑にしたい
これは夢の後なのか
夢見る前なのか
紺色のインクのような茹でこぼし
キッチンのシンクをぺたんといわせて
今日聞いた音が折りたたまれる

いつもいるホームレスが
LOVEと道路に書いて
座っている
二十一世紀に愛はどこにもないことを
彼女は知っていると思う
見ないふりをして通りすぎるが
薄緑のベリーのような目をした女だ
ここではないどこかですれ違っている
彼女とわたしは

ここが彼女の定位置なら
わたしの場所はどこなのか
少なくとも地上ではなく
うわの空でいるから行き場がなくて
もろい部分の釘をいじめていると

感情が決壊する
(「初夏」より)


著者 和田まさ子
発行所 思潮社
発行日2016年9月25日
A5判変形 112ページ


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