ディオニソスの居場所【新本】

藤本哲明詩集。第23回中原中也賞候補作。


壊滅的な十五年が過ぎ
生きている者
死んだ者がいる

といってみて
しかし、死んだ者
は　とうにいないのであって
死んだ者がいる、
とは可笑しな
それはたいへんに可笑しなことだ

きょうは九月一日で
おれは生きているほうの者だから
クールビズも終わり
二カ月ぶりの白シャツを
朝っぱらからの
コンビニコーヒーで駄目にしていた
けれど、おれはこのセブンイレブン有瀬潤和店
だけは嫌いになれない

おまえも、きっと
そういうコンビニを見つければ良かったのだ

有瀬潤和店の
駐車場で、いつだったかの六月下旬
誰だかのまき散らした吐瀉物を
カラスらしき鳥が啄んでいただろう

その吐瀉物と青黒いカラスを
背後から照らす朝のひかりをおまえにも見せたかった

おまえも、きっと
そういうコンビニを気に入ってくれたはずだ

有瀬潤和店から
実家まで、自転車を走らせながら
ほんとうにきょうの出社を嫌に思うが
おまえがいない、九月一日
変わらず生きているほうのおれは
字が異様に汚くて、昨日メモしたこの日付
を、九月一匹としか読めずにいる
そうだろう、九月一匹、午前六時過ぎ
きょうはとても朝焼けがきれいで
残念だが雨が降るぜ
（「九月一匹」より）


著者 藤本哲明
発行所 思潮社
発行日 2017年10月25日
A5変形判　143ページ


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