
夏の感じ、角の店【新本】
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【出版社内容紹介】
代田橋駅前の小さな売店「予感」の営業日誌です。
「京王線代田橋駅。各駅停車しか停まらない小さな駅の駅前にある角の店『予感』。 ほとんど週末しか営業していないこの店の店頭にひとりきりで立ちながら思うこと、店の運営にまつわったりまつわらなかったりすることについて記した日記のまとめ。」
(著者より)
*2024年6月から約3か月間つけた、ひと夏の営業日の日記
*旅行中の日記
*あとがきにかえてつけた1日分の日記
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2024/6/15 土曜 晴 営業時間 15:00-20:00
10時ごろ起床。子供の頃から朝起きるのがすこぶる苦手で、起きても往生際悪く布団にくるまってだらだらとする質なのだが、一足早く夏が来たような陽気にパッと体を起こすことができた。夏が好き。寒いのが嫌い。梅雨は苦手だけどそんなに嫌いではない。
平日は図書館で働いていて、週末は自分の作っているオリジナルのハンカチを売りながら、軽飲食、雑貨なんかも取り扱う、キオスクみたいなお店をやっている。1年という短い期限付きの契約だったから、開店したばかりの頃はできるだけ開けなければと意気込んで、平日も朝早くから仕事に向かうぎりぎりまで営業していたけれど、登校する学生以外の人通りがほとんど無いことや、朝からの短い時間に準備、営業、片付けまで終わらせてから仕事へというサイクルが体力的に続かなくなって休日のみの営業にシフトしていった。その他にもいくつか仕事を掛け持ちしているから無理はせずに、継続的であることを優先している。紆余曲折あって1年だった期間は延長され、つい先日、『予感』は開店から1周年を迎えた。
あっという間だった気もするし、すごく長かったような気もする。いまだ不思議に思うこともあるが、お店は確かにそこに存在している。
iPhone をチェックすると、友人の植本一子さんから、「きょう何時にアイス取りに来るかわかったら教えて」と連絡が来ていた。いちこさんは写真家で、文章も書いている。本をたくさん出していて、僕も書いたものが出るたびに読む、所謂熱心な読者だった。商業出版だけでなく自費出版も多く、うちでも本を取り扱わせて欲しいと連絡したのが開店の4日前、すぐに友達になって、彼女の手作りのドーナツやアイスを店で提供するようになった。昼からは用事があるらしく、中学生のEちゃんが対応するというので、その確認。12時半から1時ごろどうでしょうと聞くと「オッケーだってEちゃん」。
引越したばかりで延々やっている自宅の掃除に集中していると、気づけばもう正午をまわっていて、あわてて準備を済ませて自転車でいちこさん家へ。インターホンを押して、つかの間マンションの外廊下から景色を眺める。坂の上にあるマンションの最上階。眼下に真っ直ぐに延びる道路と、道に沿う細長い公園があって、目線をあげればずっと遠くまで見通せて気持ちがいい。出てきたEちゃんから、保冷バッグを受け取った。ありがとね、じゃあね。バイバイしてお店まではすぐ。琺瑯の容器をバッグから出すとすぐ冷凍庫に入れて、一旦シャッターを半分だけ下ろして近くの区民プールまで。
昔よく行っていたのを思い出して、ここ数年またプールに行くようになった。ストイックにガシガシ泳ぐ訳ではなくて、だだっ広くて、のんびりした感じと水の音、そして一人になれるのが好きで、良い息抜きになっている。いくつかのプールを気分で使い分けているが、今日は最初に行ったところが団体の貸切で入れず。場所を変えて、短めに30分ほどだらだらと泳いだ。
店に戻って再びシャッターを上げる。掃除を済ませて、OPENの札を店頭に出すと、開店の報告とアイスの告知。今日のフレーバーはバニラ。味見を兼ねてアイスとコーヒーでひと息入れる。
土曜の開店準備は、TBSラジオ「武田砂鉄のプレ金ナイト」の前日放送分を聴きながらというのが定番。今日はちょいちょい飛ばしたところがあるとはいえ、90分の本編と配信限定のアフタートークまで聴き終わってもいまだ来客はなし。
土日はほぼ店を開けているのだが、あくまで不定期営業となっていて、その上、店を開けた段階でようやくInstagram にその日の営業時間をポストするものだから、そんなこともしょっちゅう。開店当初は週毎にまとめてお知らせしていたのだが、営業日が徐々に減っていくと共にこの形になっていったのだ。
稀に、時間を見はからって待ってくれているお客さんが、開店とともに訪ねてきたりすると驚いたりして。やり方は考えていかないといけないが、情報のほとんど無い中で見つけて、わざわざ来店までしてもらえるのは本当にありがたいことだ。
人通りが多くない店の前も、夕方にかけて徐々に賑やかになってゆく。入り口のガラス戸に店内の灯りが反射して外が見えなくなっていった頃、ぼんやり外の喧騒を感じつつグラスを片付けているとふゆみさんが遊びに来てくれた。
ふゆみさんはお客さんとして来てくれたのが最初だったが、彼女の本業と僕の前職が近い業種であったことや、時期は違えど同じ学校に通っていたことがあったりと共通するところも多く、仲良くなった。現在身を置く状況も重なる部分が多く、本業の傍ら『裏庭 food service』というケータリングのレーベルを一人で立ち上げて活動している半フリーランス&複数ワラジ系の先輩として心強い存在。最近はフェスへの出店やお弁当の依頼と、とても忙しかったようだが、表情には充実を感じさせるものがあった。
ケータリングの材料と時間をやりくりして、時々手作りのお菓子を予感に置いてくれていて、今日はその納品も兼ねて。今回はマシュマロの入ったチョコレートクッキー。端の余った部分を使ったおまけクッキーを差し入れにいただいた。いつも美味しくて、図々しくも密かに楽しみにしている。こういうおまけまできちんと可愛くしてあって、ちょっとしたデザインも気が利いている。
すぐにInstagram で入荷の告知をして、お茶を飲みながらお互いの近況報告。ふたりともしばらく引越し先を探していて、しばしば情報交換していたのだが、僕の方が少し早く決まり、ひと月くらい前、先に転居を済ませた。その後彼女も条件に合う物件が見つかって、先日ようやく荷物の運び込みが完了したところ。まだまだ片付けをやっているところだとか。大変だろうけど、もうひと踏ん張り。僕も荷解きをして一応の生活が整うまでなかなか人心地がつかず、しっかり体調を崩し、喉風邪までひいてお店もお休みした。
そんなこともあって今日は納品だけではなく、ポジティブなマインドをもらいに来てくれたとのこと。どちらかというと、ネガの方だという自負もあるのだがありがたい。お互いに「いろいろ大変だぁ~」とグチをこぼしまくっていた時に、「まぁそれでも頑張らないと。一緒にひいひい言っていきましょう」と言っていたのを心に留めてくれていたそう。
彼女が越したのは自宅兼ケータリングの拠点としても使えるスペースが広めの物件で、中を整えれば少しお客さんを入れて振る舞えるようにもできそう。これから少しずつ自分に合ったやり方に形態を変えていけばいいのだ。新しいことが始まっていくところはそばで見ていてもワクワクする。片付いたら招待してくれるというので楽しみにしている。内装でもグッズでも、できそうなことであれば手伝いますよと伝えた。
そして今日はハンカチも買うつもりだったらしい。いくつかのデザインから迷いながらもひとつ選んでくれたのは、裏庭の包みのシールと同じ配色のもの。きっと良く似合うと思う。そしてもうひとつ。デザインも、込めた意味も、彼女の仕事と現状にぴったりなものがあったから、引越しのお祝いにそれをプレゼントした。
翌日、Instagram に投稿された2枚のハンカチの写真には「いつか引き出物にしたい」と書いてくれていて、それがとても嬉しかった。誰かの感情に添えるものになっていけたら良い。ひいひい言いながらやっていくしかない。
著者 髙橋翼(予感)
発行所 予感
発行日 2025年1月25日(第3刷)
128mm×182mm 110ページ
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