龍の還る日【新本】

山田一子詩集


お客はひとりしか乗っていない
読書している老人の前に
失礼します と 腰をおろすと
本からあげた顔が
なんだおまえか
よくみれば父親であった

─中略─

私は膝に箱をのせている
そこには秘密がしまってある
そっと蓋をずらすと
ぼんやりベッドに腰かけた老女の
昔覚えた歌をくりかえす低い声
父があんなに逢いたがっている人はこの中にいる
だが見せることなどできはしない
蓋をもどしてうつむいていると
いつしか眠りにおちていた

ふいに強く膝をゆすられた
眠りから覚めて泳ぐ目が
激しく指で叩く窓にくぎづけになる
すぎる駅のホームで母が
まぎれもない母の姿が
ゆるく列車に手を振っている
父も伸びあがって手を振る
互いに相手を認めた確かさで

時にはこういうこともあるのか
膝から箱が消えている
鼓動が少し早く打っている
列車は走り去っていく
私ひとりを星々の中に置いて

(「星の列車」より抜粋)


著者 山田一子
発行所 七月堂
発行日 2018年9月1日
A5判 95ページ

¥ 1,944

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